くるり@中野サンプラザ

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「DISCOVERY Q」ツアーの北海道~東北ラウンド、そして「くるりの東北ライブハウス大作戦2014」から間を置かず、傑作アルバム『THE PIER』を携えたリリース記念ツアー「金の玉、ふたつ」が11/6の東京・EX THEATER ROPPONGIで幕を開けた。今回レポートするのは、中野サンプラザ2デイズの2日目。全7公演(今後は11/25の広島CLUB QUATTRO、11/26のZepp Nagoya、11/29のZepp Fukuoka、12/2の大阪・オリックス劇場と続く)のうち3本目ということで、まだまだ序盤戦のはずなのだが、音楽に乗って世界中を旅して回るような『THE PIER』モードのステージは、とてつもなく豊穣で美しく、ワクワクさせられっぱなしの体験であった。以下本文は、演奏曲など少々のネタバレを含む内容になっているので、今後の日程に参加予定の方は閲覧にご注意を。各公演の終了後に読んで頂けると、たいへん嬉しいです。

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まずは、今回のツアー・メンバーについて紹介したい。岸田繁(Vo・G)、佐藤征史(Ba/Vo)、ファンファン(Tp・Key・Vo)の3人は当然として、岸田が「THE PIERオーケストラ」と紹介していたサポート・メンバーは福田洋子(Dr)、奥野真哉(Key)、権藤知彦(ユーフォニアム/フリューゲルホルン/PC)といったくるりでもお馴染みの面々、さらにDAIKIこと松本大樹(G)が加わった総勢7名の編成である。『THE PIER』の桟橋のアートワークを背景いっぱいに広げ、フォーキーでどこかノスタルジックなメロディなのにエレクトロニカ・サウンドが絡められていたり、突如豪快なロックンロールが火を吹いたりと、変幻自在のバンド・アンサンブルが古今東西そして未来を渡ってゆく。凄いのは、そんなふうにくるくると移り変わる音楽の景色の中にあっても、まるでとっ散らかった印象を受けることがない、ということだ。メロディとグルーヴが、そして歌が、思考・感情を伴った肉体として、「旅」の主体を引き受けている。注目すべきなのは、膨大な量の情報や経験ではなく、情報や経験にさらされて成長する人の方なのだ。

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ファンファンのハッとさせられるようなトランペットの旋律に導かれ、福田洋子らしいソリッドなマーチング・ビートで進む“ロックンロール・ハネムーン”は、シンフォニーのように豊かなロック・サウンドでありながら刺激的に響く。奥野真哉はアコーディオンで“遥かなるリスボン”の異国情緒を演出してみせたり、はたまた“しゃぼんがぼんぼん”ではロッキンなオルガンを弾き倒して爆走モードを支えていた。さとちゃんのパンチの効いたベース・ラインとDAIKIのクールな裏打ちカッティングが交錯する“Amamoyo”には岸田が拡声器パフォーマンスを持ち込み、桟橋の背景が夜明けのトワイライトのように紫色に染まる“loveless”では、歌詞のじわりと迫る情感を後押しするように、権藤のユーフォニアムが奏でられる。新作曲のうち、個人的に最も驚かされたのは“Liberty&Gravity”だった。アルバムのリリース前から、ライヴの場でその変態的無国籍ミクスチャーぶりが話題になっていたナンバーだが、聴く側が馴染んできたからなのか、バンドの演奏が異様に雄弁だからなのか、もはや新たなスタンダードとしてスッと腑に落ちるような手応えになっている。「情報や経験にさらされて成長する人」の姿に気付かされるのは、まさにこんなときだ。

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「皆さんは、我々が催眠術をかけて旅に出ているわけですけど、次は船酔いしながら、西の方に行ってみましょうか(岸田)」「日本は、極東なんて言われたりしますからね(佐藤)」「九州……もっともっと行って……冥王星まで(岸田)」「西かどうかも分かりませんけどね(佐藤)」といった調子で、当の水先案内人も「旅」というコンセプトを行き当たりばったりで楽しんでいるフシがある。今回のステージでは、もちろん新作曲だけではなく、過去の名曲たちも旅を彩るように披露されていたのだが、その中にはくるり本体の3人だけで演奏される楽曲もあった。「……盗んだバイクを売っぱらって、バイクはハーレーやから……(岸田)」「結構、いいお値段になりますね(笑)(佐藤)」「そろそろ、みんなに合流したい気持ちがあるやん。でも、あいつら(THE PIERオーケストラ)はセレブやから、海外旅行しとる。金が出来たから、海外に行きます(岸田)」と軽やかに冗談めかしつつ、楽曲後半の盛り上がりまでもたった3人で描き出してしまう“ブレーメン”は、くるりの地力の高さを伺わせる一幕だったろう。

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「JR東海の自販機に、〈アマゾンの健康飲料 タヒボベビーダ〉っていうのがあったんですよ。炭酸で割った、チョコレートと、番茶(笑)。良いことっぽいことを言えばね、そういうのも、出会いじゃないですか」。本編終盤、岸田はそんなふうに語っていた。自販機つながりで、“東京”の歌詞の中で買いにいった飲み物がダイドーのデミタスコーヒーだということも明かされていたが、アンコールではファンファンによるツアー・グッズ紹介や、さとちゃんがラップで切り出すファンクラブ案内もあり、最後まで自由気ままなムードで一夜の旅を締め括ってみせる。ツアーに明け暮れながら秀逸な音楽作品を残し(12/17には『There is(always light)/Liberty&Gravity』Special Edition及び企画アルバム『くるりとチオビタ』が同時リリース)、そしてまた旅に出るくるり。リリース記念ツアーの直後には「DISCOVERY Q」の近畿ラウンドが待っているが、年の瀬COUNTDOWN JAPAN 14/15は12/30に出演予定。こちらもぜひ楽しみにして頂きたい。(小池宏和)
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