『ハイ・フィデリティ』『スクール・オブ・ロック』などの作品でブレイクして以降、ハリウッドのスター俳優として押しも押されもせぬ人気者となったジャック・ブラック。彼が、カイル・ガスという相棒と組んでテネイシャスDというロック・バンド(?)でも大活躍していることは、2006年に『テネイシャスD 運命のピックをさがせ!』という映画が公開された頃から、ここ日本でも一気に認知を広げてきたが、このたび目出度くその初来日公演が実現した。
とはいえ、お笑い要素の濃い人たちだけに、はたして日本でのショウがどのようなものになるのか、事前には未知数の部分も少なくないと感じていた。おそらくは全体的に英語力の高い観客が集まるのだろう(実際、外国人オーディエンスの割合はかなり大きかった)とは思いつつ、もしかしたら言葉の障壁からフロアとのノリが微妙に噛み合わない状況も生じたりはしないかなどと余計な心配をしてみたり……だがしかし、いざフタを開けてみれば、そいつはまったくの杞憂にすぎなかった。
まず彼らは、曲間のトークで客を笑かそうとすることはほとんどせず、何よりも音楽をメインに据えた形で勝負していた。本国でテネイシャスDのライヴを見たことはないものの、ウェブ上の動画などで様子をうかがってみた限りでは、やはり喋りでウケをとっている場面もあるみたいなので、もしかしたら日本という環境に合わせてステージ構成を微妙に調整したのかもしれない。ちなみに、以前に見たスティール・パンサーの初来日公演(今回時を同じくして来日公演が行なわれてたけど見逃してしまった……)の方が、曲間に「ネタ」をやってる時間が遥かに長かったと記憶している。
ただ、それによって面白要素が失われてしまうことはもちろんなくて、例えば3曲目"鳳凰♂昇天"の後に2人が揉め、いきなりカイルが「わりいな、俺は辞めるぜ」と吐き捨てて舞台を去る小芝居が差し挟まれたりする。そこでジャックが「ショウ・マスト・ゴー・オン」という言葉に続けて"孤独なKG"(※「君がいなくてメッチャ寂しいよ」みたいな内容の曲)を歌い始めると、曲の途中からカイルが戻ってきて、その次には"オレらの友情"を演るという展開。この流れは、彼らのアルバムを聴いてきたファンであれば、あるいは映画『運命のピックをさがせ!』を見たことがあるだけでも、現場で英語の細かい部分を聞き取る必要なしに、充分に伝わるものになっていたと思う。まあ、ベタといえばベタなのかもしれないが、太った男同士(しかも1人は禿げたオッサン)がガッシと抱きしめ合うユーモラスな絵面が持つ即効性は、ライヴという空間では極めて大きいことを、叩き上げで名を売ってきた彼らは熟知しているのだろう。当然、ただデブが抱き合えばいいのではなく、そこからチャーミングな魅力を漂わせられるキャラクターを発揮できてこそ、という話であることは言うまでもない。
そして、そんな風に彼らのパフォーマンスを生で体験しているうちに、お笑い要素に覆われていたテネイシャスDの、音楽家としての優れた部分を、あらためて強く実感できた。彼らの楽曲は、フレーズやリフなど、ところどころ何処かで聴いたことがあるような感覚をもたらしたりもするが、それはクラシック・ロックに対する深い愛情を前提に、自らが語るストーリーに合わせておそろしく巧みに構築された、非常に優秀な音楽作品なのだ。基本的にはアコースティック・ギター2本、という編成が出発点になっているところにも感心しつつ、この2人、ミュージシャンとしても並の存在ではないと確信する。ダスト・ブラザーズがプロデュースを熱望してデビュー・アルバムを作ることになったり、フー・ファイターズのデイヴ・グロールも大ファンで、今では深い親交を持つ関係になっている事実も当然のことだと、今さらながら納得した。この夜のオープニング・ナンバーとなった"世界一の名曲"を筆頭に、デビュー・アルバムの1曲目"ブッといソーセージ"、そして映画『運命のピックをさがせ!』で序盤のハイライト・シーンを担う"キッカプー(JBの叫び/DIO様の啓示)"なども、言語的なバリアなど軽々と超えて、わっと瞬時に盛り上がれる音楽的な力を発揮しまくっている。
中盤を過ぎた辺りで披露した"シンプリー・ジャズ"は、EPとしてリリースされた曲だが、ここではカイルがリコーダー2本同時吹きの荒技を披露し、ジャックがそれを2本のマイクで拾う演出で視覚的に持っていく。そして「ジャズは12分ノンストップで続きます」「まだ100分は続けます」なんて言ってみせてから、次は「最強の音楽ジャンルはなんだ?」と問いかけておいて"メタルは死せず"に突入し、そこから"拝啓ロニー・ジェイムズ・ディオ殿"へと繋ぐ見事な展開。さらに、リード・ギタリストを務めるジョン・コネスキーに悪魔(※映画ではデイヴ・グロールが演じた)が取り憑いたという設定で、「カイルが性奴隷に云々」というところも律儀に再現しながら"サタン降臨(ロック対決)"が演奏されると、いよいよショウはハイライトへ。
本編最後を飾る"サイコーのタッグチーム"ではクライマックスに相応しくメンバー紹介のコーナーもあり、ブッ叩きまくる怒濤のドラム・ソロに度肝を抜かれたが、それもそのはず、ドラマーを務めているのは凄腕中の凄腕ブルックス・ワッカーマン(バッド・レリジョン/ex.スイサイダル・テンデンシーズ、コーン他)だ。これまた盛り上がったのだが、ジャックは特等席で拝見させてもらうぜという風情で、ドラム・キット前に寝そべってみせて、きっちり笑いをとることも忘れない。続けて「アリガト!」とスタッフに感謝を述べつつ、ついでにスシやサケやカラテにも「アリガト!」したジャックが、ブラック・サバスの"ウォー・ピッグス"を挟んだリード・ヴォーカル・ソロでシンガーとしての実力も示し、熱狂がピークに達したオーディエンスからの大歓声を浴びてバンドはいったん退場。そして、アンコール1曲目では"ピンボールの魔術師"から始まるザ・フー・メドレーをブチかまし、オーラスは"やさしくファックして"で大団円を迎えた。
またいつかフットワーク軽い感じで日本へライヴしに来てくれることを、心から期待します。(鈴木喜之)
セットリスト
1. 世界一の名曲
2. 運命のピック
3. 鳳凰♂昇天
4. 孤独なKG
5. カイルがバンドをやめた
6. オレらの友情
7. ねらえ! お手頃ネエちゃん
8. ブッといソーセージ
9. キッカプー(JBの叫び/DIO様の啓示)
10. ワンダーボーイ
11. シンプリー・ジャズ
12. メタルは死せず
13. 拝啓ロニー・ジェイムス・ディオ殿
14. ローディーはつらいよ
15. サタン降臨(ロック対決)
16. サイコーのタッグチーム
En1. ザ・フー・メドレー
En2. やさしくファックして
テネイシャスD @ 新木場STUDIO COAST
2014.12.04