武道館での完全復活からツアー、リリースに俳優業に執筆業にと、大車輪の活躍でファンを驚喜させた星野 源の2014年。そして師走には、今の彼に相応しいスケール感のステージとなる、横浜アリーナ2デイズ公演を成し遂げてしまった。その初日となる12月16日が「ツービート/弾き語りDay」であり、翌17日は「ツービート/バンドDay」。公演タイトルどおり、日程によって大きく趣向を変えるという2日間である。ここではその初日「弾き語りDay」の模様をレポートしたい。1万人超のオーディエンスを根こそぎ笑わせるギミック、そして思わず声を上げてしまうようなサプライズもあった。しかし、この日のオーディエンスを包み込んでいたのは、何よりも星野 源というアーティストがソング・ライティングへと向かう、その根源的な動機と、「生活する」エネルギーに他ならなかった。
つい先日、唐突にリリースされたディアンジェロ14年振りのアルバムが客入れSEとして鳴り響いていた場内。ステージにはエンジ色の緞帳が掛けられ、彫刻の施された柱、そしてシャンデリアと、クラシックなムードを演出している。そこに、ミニスカサンタ女子2人が登場すると、続いて笑顔の星野 源が2人に伴われる格好でステージ中央へと進み出る。ジャケットを脱ぎ、女子のお尻を追い回すような素振りでひとしきり笑わせながら、緞帳の前でアコギを手に取るとすぐさま真剣なアーティストの面持ちに移り変わって“歌を歌うときは”を披露し始めた。歌詞が浮かび上がり、ぐっと胸の奥底にまで迫ってくるような、星野 源の歌の手応えだ。決して激しいタッチではないのに、存在感の大きさを感じさせて止まない歌。それが“ギャグ”から“化物”にかけて更なる熱を帯び、《地獄の底から次の僕が這い上がるぜ》のフレーズに続いて放たれる「こんばんは、星野 源です!!」の挨拶で大喝采を浴びる。なんだろう、どう見ても肩肘張らない姿勢なのに、アリーナ・サイズの会場を掌握してしまっている。
「えー、すごいね。お寒い中、本当にありがとうございます。このまま座ってると横浜アリーナっぽくないんで、一度立ってみましょうか。ああ、いいですねえ。ちょっと、アレやっていいですか? アルィィィナアァァァー!」と呼び掛ける。ギターを爪弾きながらじっくり届ける“くせのうた”や、ヴォーカルにリヴァーブを効かせた“レコードノイズ”の後には、「こんな広くてめっちゃ人いるのに、一人。寂しいー!」とハンド・クラップの練習をさせて「でも次の曲はそういう曲じゃない」と肩透かしを食らわせるなど、どこまでもマイペースなステージングだ。「曲を作るときは一人でボソボソと作っているので、普段のライヴにも弾き語りはあるんですけど、今日は原点に帰って」と、奥田民生が10年前に広島市民球場で繰り広げた「ひとり股旅スペシャル」も引き合いに出しながら、あらためて今回の弾き語りライヴについて説明する。フレット移動の弦を擦る音まで生々しく伝わる“フィルム”、そしてフェティッシュな生活感がくっきり浮かぶ“くだらないの中に”と、パフォーマンスが続いた。
「寂しくなったので、友達呼んでいいですか」と、ペトロールズのフロントマンである長岡亮介を招き入れ、鮮やかに絡む2本のギターと賑々しいクラップを巻いてプレイされるのは“穴を掘る”だ。遊び心のファルセット歌唱も交えていて楽しい。“地獄でなぜ悪い”は「2人でイントロを表現してます!」という無理目にスリリングなパフォーマンスで躍動感たっぷりにプレイし、長岡と星野はそれぞれミニスカサンタをエスコートして一旦退場した。ここで、一流ミュージシャンからのメッセージという形でスクリーンに映し出されるのは、まず佐野元春のモノマネをするレイザーラモンRGだ。『ザ・ソングライターズ』のノリで星野 源とミニモニ。の歌詞を続けて朗読。細かいところで再現度が高いのが可笑しい。続いては桃井かおりのモノマネをする清水ミチコ。ピアノ弾き語り“くせのうた”を、森山良子と井上陽水によってデュエットしてしまう。もはや、笑いを越えたところで賞賛の声が上がる至芸だ。
さて、再登場した星野 源はセグウェイに乗ってアリーナ中央付近のセカンド・ステージに移動。「こんな大層な移動して、盛り上がる曲やると思うでしょ? めっちゃ暗い曲をやります(笑)」と告げて、“ひらめき”に向かう。このブロックではカヴァー曲も交えていったのだが、ソロ・デビュー前から演奏していたという細野晴臣の“冬越え”で秀逸なメロディと情緒が伝い、また「クソみたいな女にクソみたいな振られ方をして“ばらばら”を書いたんですが」と語りながら、後にその女性と先輩との間にまた一悶着あった、というエピソードも紹介して「そんなあの子は、“透明少女”と」NUMBER GIRLの名曲も披露する。更には「その女も、幸せになって欲しいですね。どこかで輝かしい人生を。shine(シャイン)。ローマ字読みしないでね(笑)」と“老夫婦”に繋ぐという、名曲名リレーの一幕であった。初めて歌詞入りの“老夫婦”を聴いたときの衝撃が、今も鮮やかに蘇る。
X JAPAN“Forever Love”に乗ってメイン・ステージに戻り、(衣装チェンジの合間には、RGによるスティーヴ・ジョブズと、清水ミチコによるユーミン&秋川雅史のモノマネ映像)、奥田民生「ひとり股旅」の、頭にタオル×作務衣姿で再登場する星野。奥田民生でーす、と演奏を再開しようとするのだが、そこで響くのは「ちがーう!! まてーい!!」という、聞き覚えのある大音量ヴォイスだ。なんと、本家・ひとり股旅スタイルの奥田民生が登場し、オーディエンスを思いっきりどよめかせてしまうのだった。「これ何? シルク? 俺のよりいいんですよ」「一人で立って歌って、大変だね。俺、座ってるもん」と語りつつ、2人のスイッチング・ヴォーカルで“さすらい”やPUFFYの“MOTHER”を、更にはこの日のために制作されたというナンバー“愛のせい”を披露する。OTは「立って3曲もやってしまった……」と冗談めかしつつ、ミニスカサンタに伴われてステージを後にするのだった。
さて、清水ミチコが、矢野顕子と美輪明宏をモノマネしたところで、早着替えの星野 源が再び長岡亮介を呼び込む。「あの人(奥田民生)だけは本当にダメだね。楽屋でも全然喋れなかった。緊張する」と筋金入りのリスペクト精神を露にしつつ、跳ね上がるギター・プレイで共演するのは2人のハーモニーとシンガロングにも彩られた“桜の森”だ。そして「『働く男』って本を出したんですけど、休みたい。休んでるんだけどね。もっとこう分かり易い、南の島でトロピカルジュースを飲むようなね(笑)。働く皆さんに捧げます」と、力の入った歌声で届けられるのは“ワークソング”。オーディエンスの一斉ジャンプからスタートした“夢の外へ”では、「手拍子難しいんで、休んでていいですよ!」と告げられるものの、がっちり食らいついてゆくオーディエンスが頼もしかった。「今回のライヴは、裏テーマとして、歌を歌い出した頃と今を繋げるということがありました。六畳一間、風呂無しの部屋で歌っていた歌が、こんなに広いところで聴いて貰えて、嬉しいです」と語ると、本編最後に披露されるのは“ばらばら”。歌い出しで一度ミスをして「一番大事なところでミスった(笑)。俺に元気をくれ!」と仕切り直しする。ハプニングではあったけれど、こんなほっこり感もサマになってしまうライヴなのだ。
この後、2014年の星野 源を振り返るように、熱っぽいナレーションを放つ声は寺坂直毅だ。「歌い納めはこの曲、“Crazy Crazy”です!」の名調子が繰り出されるや否や、まさかのタイミングで勢い良く緞帳が開き、純白のスーツに身を包んだバンドのセットで華々しくこの曲が披露される。MVとは少々編成が異なるけれども、小林創(Piano)、ピエール中野(Dr・凛として時雨)、ハマ・オカモト(Ba・OKAMOTO’S)、長岡亮介というスーパー・グループだ。「踊れー!!」の声を合図とするようにキラキラとリボンが降り注ぎ、仰向けにひっくり返ってフィニッシュする星野 源である。これは、ズルい。「弾き語りライヴというのは、嘘でした〜!」と笑わせ、また1曲のために集まってくれたアーティストたちに感謝の思いを告げる。OT、寺坂直毅、ミニスカサンタの2人も揃って、全員で挨拶するのだった。そして最後にはソロ弾き語りで、いつでも孤独と隣り合わせの出会いや発見を描き出す“Stranger”へ。何とも言えない充実感を引き摺って帰路に着く、そんな3時間であった。
原点と今を繋ぐ、ということを、星野 源は語っていた。しかしそれは、ただ確認の意味だけではなく、やはり挑戦的な意味でもあったと思う。アリーナの規模で、弾き語り中心のパフォーマンスで、星野 源の丸裸のソング・ライティングは「届く」のか。彼はその手応えに、触れたかったのではないか。その結果は、あの場所にいたすべての人が知っているだろう。決して声を張り上げるでもないのに、彼の歌はアリーナを掌握し、触れる者の胸を激しく揺さぶっていた。翌日の「バンドDay」には、何が起こるのだろうか。また、星野 源はこの12月28日、COUNTDOWN JAPAN 14/15でEARTH STAGEのトリを務める。こちらも乞うご期待である。(小池宏和)
■セットリスト
01.歌を歌うときは
02.ギャグ
03.化物
04.くせのうた
05.レコードノイズ
06.フィルム
07.くだらないの中に
08.穴を掘る
09.Night Troop
10.地獄でなぜ悪い
11.ひらめき
12.スカート
13.冬越え
14.透明少女
15.老夫婦
16.さすらい
17.MOTHER
18.愛のせい
19.桜の森
20.ワークソング
21.夢の外へ
22.ばらばら
(encore)
23.Crazy Crazy
24.Stranger