リリー・アレン @ 豊洲PIT

リリー・アレン @ 豊洲PIT
リリー・アレンの実に6年ぶりの来日公演である。6年ものブランクが空いたのにはもちろん理由があって、それは彼女がこの時期事実上の休業をしていたからだ。2011年に結婚した夫との間に2人の子供をもうけ、近年は子育てに忙しく過ごしていたというリリー。そんな彼女が昨年5年ぶりのニュー・アルバム『シーザス』でついにシーン復帰、今回の来日の運びとなった。

開演前、ステージ上でまず目を引くのが哺乳瓶(!)の形をした複数の立て型ライティングだ。まさにここ数年の彼女のママ・ライフの中心にあっただろう哺乳瓶をカラフル&ポップなステージ・セットに仕立て上げるのも、自身の日常生活を表現に直反映させるタイプのアーティストであるリリーにとって納得のマナーだと言えるかもしれない。DJのイントロから1曲目の“Sheezus”へ、ステージ袖からスキップするようにリリーが登場する。今日のリリーはスパンコールがまぶしいスタジャン&トレーナー・パンツにインナーはブラトップという、英国版ヤンキーとでも言うべきチャブの定番スタイルをアイロニカルに取り入れた出で立ち。一時期かなり重量級になっていたボディもすっきり痩せて、ヘソ出しがキュートに決まっている。

彼氏のセックスをダメ出ししまくる歌“Not Fair”では、ポンド札だのシャネルバッグだので局部を隠した男性のヌード写真がスクリーンにばんばん映りまくる。マリアッチ風パンク・アレンジも効いていて、2曲目にして早くもアッパーな盛り上がりを記録する。ちなみに前回来日はフル・バンド・セットでのステージだったが、今回はリリーとDJ&キーボードのサポート・メンバーの2人きりというミニマムな編成。ゆえにパフォーマンス自体も凄くカジュアルな印象を受けるし、そのカジュアルな印象は最新作『シーザス』の軽やかさともイコールだ。そして、演奏がミニマム&カジュアルな代わりに、スクリーンの映像がかなりヴィヴィッドに彼女の表現をサポートしていることがわかる。前回はセカンド・アルバム『イッツ・ノット・ミー、イッツ・ユー』の世界観をいかにリアルに、切実に訴えかけるかに注力し、その結果としてのバンド・セットだったわけだが、今回はヴィジュアルも含めてリリー・アレンというアーティストをポップに纏め上げる、そんな意志を感じたステージだった。
リリー・アレン @ 豊洲PIT
「次の曲は私のホーム・タウンについて歌った歌。ここ東京と、地球の反対側にある街だよ」とリリーが紹介して“LDN”へ。この“LDN”と続く“As Long as I Got You”でソウルとレゲエをミックスしたマルチカルチャーなロンドン下町のヴァイブを生み、場内をほっこり温めたところで一転してダビーな“Who Do You Love?”が再び空気を変える。そして本日最もヘヴィでメタリックなブレイクビーツが文字通り雪崩打って押し寄せてくる圧巻の“Everyone's At It”へ。スクリーンには哺乳瓶に詰め込まれたどぎつい色とりどりの錠剤の映像がフィーチャーされ、かなりショッキングだ。

ここでいったんインタールードとなり、リリーは肩出しのカラフルなサロペットに衣装替えして再登場する。前半は“LDN”に象徴されるモダンで都市的なナンバーが続いたのに対し、ここからの数曲はどこかリゾートっぽい、リラックスしたチアフルなソウル・エレクトロ・ナンバーが続く。“Smile”はこれぞDJセットの真骨頂と呼ぶべきダブ・ミックスに仕上げられていて最高にかっこいい!が、DJがコレからクライマックス、という直前でアウトロのループを早々に切り上げてしまい「えーっ、もう終わり?」とリリーも苦笑だ。そう、DJセットならでは機動力の高いカジュアルな魅力がある一方で、同時に限界もあった、というのが今日のパフォーマンスの正直な印象だ。

「ハイになっちゃったからヒール脱いでいい?窮屈なんだよねー、これ(笑)」と言ってヒールを脱ぎ捨て、一気に小柄になったリリー。この日のリリーは本当によく笑い、朗らかだ。“Miserable Without Your Love”、“Littlest Things”とメロウなマイナーコードのバラッドを続けて少しクールダウンしたところで、最新作からの“Hard Out Here”がこの日一番の盛り上がりを記録する。「“22”はセカンドの曲ね。この曲を書いた頃は30代の自分?なにそれこわい!って(笑)。想像もつかなかったんだけれど、今はほんと最高だって思えるから」とリリー。セカンド『イッツ・ノット・ミー、イッツ・ユー』は怖いもの知らずの少女だったリリーが初めて自身の人生に怖れと挫折を見出し、それを克服していく、という物語のアルバムだった。あれから6年、アラサーとなり、母となったリリーの現在の充実と言うか、怖れをも肯定した強さ、たくましさが垣間見えた瞬間だった。
リリー・アレン @ 豊洲PIT
“Fuck You”では客席からひとりファンの女の子がステージに上がり、彼女とリリーがデュエットしながら「Fuck You!」を会場全員でコールするという、クライマックスに相応しいお祭り騒ぎへ。無数の中指と裏ピースがステージに向かって笑顔と共にニョキニョキ突き立てられるその光景は、やんちゃな10代の少女だった時代のリリーのライヴからの恒例の光景だ。そんな“Fuck You”から一転、アンコールの2曲をしっとりと、そしてシリアスに歌い上げたところに、今の彼女の等身大を感じた幕切れだった。(粉川しの)

1. Sheezus
2. Not Fair
3. LDN
4. As Long as I Got You
5. Who Do You Love?
6. Everyone's At It
7. Close Your Eyes
8. URL Badman
9. Smile
10. Life for Me
11. Miserable Without Your Love
12. Littlest Things
13. Hard Out Here
14. 22
15. L8 CMMR
16. Fuck You
En1. The Fear
En2. Who'd Have Known
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