2時間半を越えて、Brian the Sunというバンドの絶大な信頼感が、じっくりと触れる者の胸に刻み込まれる、濃密なステージであった。11/14の神戸で幕を開け、2014年内に対バン公演が12本。その間、12/3にはニュー・アルバム『Brian the Sun』がリリースを迎え、年明け1/11には名古屋、1/30に大阪、翌1/31に東京と3公演のワンマンを駆け抜けて来た計15本の「“Brian the 燦々” Tour 2014-2015」。そのファイナルの模様をレポートしたい。舞台は、ワンマンを行うのはもちろん、ステージに立つのも初めてという、渋谷クラブクアトロである。開演前の場内では、ツアー中のメンバー4人を追い、それぞれにツアーの意気込みや新作に込めた思いが語られるコメンタリー・ムービーが映し出されていた。
歓声に包まれて、森良太(Vo・G)、白山治輝(B・Cho)、小川真司(G・Cho)、田中駿汰(Dr・Cho)の4人が姿を見せると、森と小川が向き合ってギター・リフを跳ね上がらせるイントロから“13月の夜明け”が切り出される。新作アルバムの序盤に配置されていた楽曲だが、バンド・キャリアの早い時期から披露されていたナンバーだ。ツアーを通して一層引き締められたアンサンブル、Brian the Sunらしい雄々しいロック・グルーヴが立ち上がると、ときに吹き荒れ、ときに咲き乱れるような小川のギター・プレイが早くも全開になる。「ファイナルだぞー! 東京ーっ!!」と熱い煽り文句を挟み、“Sister”や“Baked Plum Cake”といったシングル曲を立て続けに放つ一幕では、ワルツやラテン・ジャズのリズムも巧妙に絡めるロックンロールでオーディエンスの身体を揺らしていた。森のヴォーカルは、音源作品よりもステージの方が喉の強靭さと生々しい感情の蠢きを伝えてしまう手応えがある。
新作収録曲の“早鐘”や、ミニ・アルバム『彼女はゼロフィリア』に収録されていた“グラストライフル”で、思いの赴くままに激しいアクションも交えながら序盤のハイライトを描き出すと、率直で熱いパフォーマンスとは裏腹に落ち着いたトーンで「こんばんはー。Brian the Sunでーす。大阪から来ました。みんなも、東京の人だけじゃないよな? すごい景色やー」と挨拶する森。「僕の目の前には、柱しかないけど(白山)」「名だたるベーシストたちが、見てきた柱やぞ(森)」と言葉を交わしつつ、森はアコギを抱えて「メロンパンは、焼いて食べる派ですか? 僕はよく焼いて食べるんですけど、よく真っ黒に焦げてしまいます」という前フリで歓声を浴び“メロンパンシンドローム”を披露する。そこからチャーミングなフックで転がる“チョコレートブラウニー”といったふうに、Brian the Sunの歌詞にはしばしば美味しそうな食べ物が登場して生活感を演出し、物語に彩りを添えるのだ。クラブ・ジャズ風のクールなブレイクも決めてみせる彼らは、しかしその爆発的な感情表現において、ロック・バンドであることを自ら選択している。
“R25”の歌を、まるで小さな命を掌で大切に包み込むような柔らかいハーモニー・ワークが支え、森はどちらかと言えば照れくさそうに「何かすごいいい夜になりそうな? 余韻が残りましたけれども」と笑いめかしている。続く“Noro”のイントロでは一転、白山がジャンプ(2・4拍目でジャンプする、ちょっと高度でユニークなスタイル)を誘いながら「これが出来ればキュウソに勝てる!」と告げるのだが、森は「まあ好きなようにジャンプすればいいからな」と言葉を添えて男気溢れるリズム・アンド・ブルースのパフォーマンスへと向かっていった。そして“キャラメルパンケーキ”に“都会の泉”と、再び曲また曲のスリリングな展開である。
昂ったまま、間違えて4つ打ちのキックを繰り出してしまった田中のプレイに乗り「折角だから続けてもらおう!」と、機転を利かせて《お父さん、お母さん、ありがとう!》のコールを巻き起こす森。シャッフルする16ビートに移行して「アルバムの“Intro”がここで入るということは、ここでもう一回、始まるということですよ!」と告げながら、4人それぞれのソロを絡めるセッションを経て、“タイムマシン”へと持ち込む。バンドマンとして生きることの、切実な危機意識が描かれたこの歌詞のストーリーは本当に素晴らしい。そして“Suitability”を届けると、森は「こういうライヴがやりたい、と思ってます! いろんなバンドがいて、それはいいんですけど、僕らは歌う! (オーディエンスが)聴く! みたいな。意外と、アタマ使う音楽をやっているんでね」と語る。また、白山はツアーの充実感を溢れ出させながら、「どういうライヴをやるか」という点について、ツアー中に徐々に掴めてきた手応えについても告げていた。
それでも、ステージ全体の尺と比較すれば、MCを行っている時間はとても短い。コール&レスポンスから傾れ込む“パワーポップ”に“アレカラ”、高らかなコーラスに向けて駆け抜ける“彼女はゼロフィリア”と、終盤になって尚更、楽曲群の連打に場内が熱さを増してしまう。少々感極まっているらしい白山が、関西では広く知られるという赤ちゃん紹介の番組「めばえ」を観て毎日涙ぐんでいる、というエピソードを伝えると、森は「小3のときに飼ってた亀が死んで以来、一度も泣いていない」「なんか、泣こうとすると冷静になってしまうんですよ」と返して場内をどよめかせていた。小川や田中も、口々に感極まる場面について語るのだが、「泣くから感動するとか、手挙げるから良いライヴってわけじゃないでしょ。ちゃんと分かってるから」と彼なりに精神性について語る森である。彼は、楽曲の演奏となれば率先して触れる者の胸を焦がすロック・アーティストと化すが、予定調和的な盛り上げ方をする場面は極めて少なく、MCで躍起になってオーディエンスを盛り上げたり、笑わせようとすることもない。
彼のような、一見冷めているように誤解されてしまうこともあるタイプの、強く批評的な表現を行うアーティストは、ひとたび理解が及ぶと、それこそ一生モノの信頼関係を築き上げてくれるアーティストになる。慎重に言葉を選びながら、バンドの活動を支えてくれるファンの大切さについて切々と語る彼の姿を見て、背筋が震えるような思いがした。渾身のヴォーカルで“白い部屋”が歌われるとき、彼が予定調和を超えたところで、アートが人の心にもたらす作用や感動を導き出そうとするアーティストであることが、ひしひしと伝わって来た。「いろんな考えの人がいて、すべての人がまるっと収まるのは、なかなか難しいかも知れません。でも、世の中には誰一人として不必要な人はいないっていう、最もメジャーな道徳、それを歌った歌です。本当にそう思うしね。存在意義に迷うことなかれ若者たちよ、っていう歌です」。放つ言葉もいちいち批評的だが、だからこそ彼は思いを音楽に乗せて解き放つ。《現実なんて妄想の一種さ》というキレッキレのフレーズを運ぶその“忘却のすゝめ”によって、本編は幕を閉じるのだった。
アンコールに応え、「スペースシャワー列伝 JAPAN TOUR 2015」や、新宿LOFTのアニヴァーサリー企画(4/30)など今後のライヴ予定について告知すると、森がキーボードを奏でて歌い出すのは2015年春公開予定の映画『ハッピーランディング』の主題歌“アブソリュートゼロ”だ。そして4人があらためて感謝の言葉を伝え、“ロックンロールポップギャング”を賑々しく叩き付ける。さらに「ファイナルだから特別やで!」とダブルアンコールにも登場すると、“君の声”が披露されていった。マイクを通して歌われるわけではないけれど、小川の口元が動き、歌詞を口ずさんでいるのが分かる。Brian the Sunは、本当にいいバンドだ。オーディエンスとの記念撮影まで、なんとも熱く、美しい一夜であった。(小池宏和)
■セットリスト
01.13月の夜明け
02.Sister
03.Baked Plum Cake
04.早鐘
05.Sepia
06.グラストライフル
07.メロンパンシンドローム
08.チョコレートブラウニー
09.R25
10.Noro
11.キャラメルパンケーキ
12.都会の泉
13.Intro
14.タイムマシン
15.Suitability
16.パワーポップ
17.アレカラ
18.彼女はゼロフィリア
19.神曲
20.白い部屋
21.忘却のすゝめ
(encore)
22.アブソリュートゼロ
23.ロックンロールポップギャング
(encore 2)
24.君の声