アーティスト

    KANA-BOON@日本武道館

    「すごいね……武道館に立ってるんですね今、我々」。はちきれそうな熱気と歓喜に満ちた本編を終え、アンコールで満場の日本武道館の客席を見渡す谷口鮪(Vo・G)の言葉に、惜しみない拍手喝采が湧き起こる――今年1月にメジャー2ndアルバムとなる最新作『TIME』をリリースしたKANA-BOONが、全国ツアー「KANA-BOONのとぅるとぅるかむとぅるーTOUR 2015 ~全国とぅるとぅる編~」に先駆けて行った東阪アリーナ・ツアー「KANA-BOONのとぅるとぅるかむとぅるーTOUR 2015 ~全国とぅるとぅる編~」。3月23日の大阪城ホール公演、そしてこの日、3月31日の日本武道館公演、と自身初の大舞台に臨んだKANA-BOONだったが、「たとえ武道館と言えど、普段のライヴハウスと変わらぬテンション、そしてユルさでお送りしていきますので(笑)」と谷口が宣言していた通り、2013年、2014年と破竹の大躍進を遂げてきた彼らの「夢」という原動力を、KANA-BOONならではの朗らかな開放感の中で、会場一丸となって分かち合うような一夜だった。

    ステージを覆う紗幕に巨大な時計が映し出され、観客一丸のカウントダウンとともに『TIME』のオープニング・ナンバー“タイムアウト”のイントロが炸裂、紗幕が落ちて4人の姿が露になった瞬間、武道館は割れんばかりのに大歓声に包まれていく。さらに“LOL”から“ウォーリーヒーロー”を挟んで“ターミナル”へ……といった具合にアグレッシヴなロックンロール・モードで飛ばしまくる4人に、オーディエンスも熱いクラップやシンガロングで応えていく。格段にソリッドに研ぎ澄まされた古賀隼斗(G)のリフ、飯田祐馬(B)&小泉貴裕(Dr)のタイトなビート、谷口のハイトーンの熱唱がデッドヒートを繰り広げながら、会場の温度を刻一刻と高めていく。8ビートも4つ打ちもそのすべてが「KANA-BOONのロック」の一部として血肉化され、圧巻の躍動感をもって武道館を揺さぶっていたのも印象的だった。

    キラーアンセム“フルドライブ”を終盤に持ってきた点と、“シルエット”“スノーグローブ”の曲順を入れ替えていた点を除けば、冒頭の“タイムアウト”からアンコールの最後を飾った“パレード”まで『TIME』全曲をほぼ曲順通りに(既発曲も挿入しつつ)セットリストの軸として配してみせたこの日のアクト。晴れやかなクラップを呼び起こした“結晶星”、後半の“生きてゆく”“スコールスコール”“愛にまみれて”の流れが描き出す凛とした空気感……困難に直面しながら着実に前進し続け、ついには夢の大舞台へと至った自身の道程を、過熱する状況に流されることなく1枚のアルバムの形で時系列化してみせた『TIME』の楽曲群が、この大会場に次々に解き放たれていく図は、それ自体が珠玉の名場面だった。

    加えて、「今日は『ひとりひとりの夢』も叶えていこうと思うわけですけども……」(谷口)ということで、「目の前でマグロ解体ショー→中落ちを堪能」(谷口)、「セグウェイで客席の花道を横断しながらコール&レスポンス」(飯田)、「鎖で縛られた状態から脱出イリュージョンに挑戦」(小泉)、「『空を飛びたい』と宙づりになってギターを弾く」(古賀)といったメンバーそれぞれの「夢」を本編の随所で実現していた4人。あたかも少年のような無邪気さで武道館という舞台を楽しみ尽くすその姿からは、「夢の大舞台“なのに”無邪気」ではなく「夢の大舞台“だからこそ”自然体で楽しむ」という彼らのモードが滲んでくる。

    古賀が「空を飛んだ」状態から流れ込んだ“盛者必衰の理、お断り”、さらに“フルドライブ”で沸点越えの熱狂空間を生み出し、ステージに雪が舞う中“スノーグローブ”を清冽な疾走感とともに響かせていく4人。本編最後の“シルエット”を前に、「《大事にしたいもの持って大人になるんだ》っていう歌詞があるんですけど。この歌詞を書く時に、『自分にとって大事なものって何やろ?』って考えて」と谷口が静かに語りかける。「育ったライヴハウスであったり、僕らがまだまだ小さい頃から応援してくれてる人たちとか、デビューして新しく出会った人たちとか、目の前にいるみなさんのこと、(「スペシャアプリ」生中継の)画面越しでライヴを観てる人、学校とかバイトでそれも観れなかった人……そういう人たちのことを思いながら作った歌詞で。いつまでも、みんなとずっと一緒にいたいなって。ほんとわがままなんですけど、そういう曲です。だから、こうやって今日、みんなの前でやれたことを、すごく光栄に思います」……そんな言葉とともに広がった“シルエット”の歌声が、ひときわ熱く、切実に胸に迫った。

    本編後にヴィジョンに映し出された映像で、プリクラや直筆の手紙などサプライズプレゼントを客席のあちこちに隠していたことを明かし、武道館を驚きと感激に包んでいた4人。アンコールでは、資生堂「アネッサ」新CM曲に決定している5月13日リリースのシングル曲“なんでもねだり”で真夏の高気圧真っ只中のようなポップ感と高揚感を巻き起こした後、“1.2. step to you”での一面のジャンプとシンガロングで会場丸ごと揺さぶってみせる。「大阪の三国ヶ丘FUZZっていうライヴハウスから始まり、そこからいろんなことがあってデビューして。僕らここまで来るのに、ものすごくたくさんの夢が叶ったわけです。でも、その叶うまでの道程はもちろん、しんどいこと、嫌なことも多かったし」と再び谷口が語る。「KANA-BOONは夢がどうたらこうたらうるさいバンドですけど、なんでこうやってたくさん言うかっていうと……頑張れるんですよね、夢があると。それは僕たちがすごく体感していることで。心のどっか奥底に小さな輝きがあれば、人は頑張れる。それをみんなにも教えてあげたい、伝えたいんですよ」……彼らが夢を追ってひた走ってきた日々と、晴れの大舞台に立っている「今」が、この日のラストナンバー“パレード”の《何度も夢見た世界に、いま僕は立ってるんだ》というフレーズ越しに重なり合い、武道館を震わせていった。

    「僕らをここまで連れてきてくれて、ありがとうございました。これからも僕らは、大好きな音楽と信念を曲げずに心の中に持ちながら、みんなをどんどんいろんなところに連れていきたいと思います。ずっとそばにいてください」と満場の観客に呼びかけていた谷口。彼らの「夢」は僕らにもっと大きな風景を見せてくれるに違いない――と思わせてくれる、最高のステージだった。(高橋智樹)


    ■セットリスト

    01.タイムアウト
    02.LOL
    03.ウォーリーヒーロー
    04.ターミナル
    05.ワールド
    06.MUSiC
    07.結晶星
    08.クラクション
    09.ロックンロールスター
    10.ないものねだり
    11.生きてゆく
    12.スコールスコール
    13.愛にまみれて
    14.盛者必衰の理、お断り
    15.フルドライブ
    16.スノーグローブ
    17.シルエット

    (encore)
    18.なんでもねだり(新曲)
    19.1.2. step to you
    20.パレード
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