「本当に、『ああ、このステージに立ててよかったな』と思ってます」。本編終盤のむせ返るような熱気の中、満員のZepp Tokyoのフロアに、内澤崇仁(Vo・G)が万感の想いを語る。「つらい時とか悲しい時とか、音楽に助けられてきたので、音楽の力を心から僕は信じていて。背中を押せるような、救いになるような曲を作れないかなあと思って。『自分だけしかできないことって何だろう?』って思いながら音楽をやってます」――最新アルバム『androp』のリリースツアーとしてライヴハウス7会場10公演にわたって行われる、andropの全国ツアー「one-man live tour "androp"」の幕開けを飾る、Zepp Tokyo 2DAYS公演の2日目。内澤ら4人のひたむきな想いがそのまま高純度のサウンドスケープとして結晶したような、最高の音楽空間がそこには広がっていた。
まだツアー序盤のため、ここではセットリストの掲載は割愛、一部楽曲に触れるのみとさせていただくが、リリースしたばかりのアルバム『androp』のほとんどの楽曲をセットリストの主軸として盛り込みつつ、1stアルバム『anew』からの楽曲群をはじめこれまでの足跡を彩ってきた楽曲をライヴの随所に丹念に配置したこの日のアクト。「a・n・d・r・o・p」をイニシャルに持つ6作品=『anew』『note』『door』『relight』『one and zero』『period』のリリースを経て、いよいよ楽曲的にもバンドアンサンブルにも全能的な創造性とダイナミズムを発揮し始めたandropの「今」の充実ぶりを十分にアピールする内容だった。そして同時に、普遍的な真実を精緻な黙示録の如き音像&詞世界を通して俯瞰してきた当初のモードから、人間のエモーションの高ぶりや揺らぎへと思い切り踏み込んで肉迫しフォーカスを合わせていった『androp』の最新モードを、ライヴという表現を通してはっきりと物語るものだった。
《守りたい人が側にいるのに/この手は君を温められない/「頑張れ」って言葉がナイフに変わるよ/どうすればいいの? どうすればいいの?》と苦悩する心の軋みをリアルに活写した“Shout”。《どうして本当を隠すの?/指も肩も口も心も/一人で震えているのに》という生々しい言葉を、内澤と佐藤拓也(G・Key)が奏でるWキーボードの音像がファンタジックな風景へと編み上げた“Ghost”。“Paranoid”でミステリアスにうねる前田恭介(B)&伊藤彬彦(Dr)のソウルファンク的なグルーヴ感、内澤がハンドマイクスタイルで聴かせた“Letter”のヒップホップ的アプローチなど、格段に自由度と訴求力を増したアレンジメント。それらの楽曲を逐一シュアなアンサンブルとして繰り広げてみせる、4人の卓越したプレイアビリティ……そうした多彩な要素が渾然一体となって、観る者すべての感情に寄り添う包容力と肉体性、混沌とした現実を「その先」へと貫く強靭な意志に満ちた表現力を生み出していくし、Zeppのフロアは熱いコール&レスポンスとクラップが沸き返る祝祭空間へと塗り替えられていく。
「周りに合わせたりしなくていいので。自由に音楽を楽しんでくれたら嬉しいです」という内澤の言葉通り、“Yeah! Yeah! Yeah!”や“MirrorDance”などハイパーに突き抜けたダンスビートの楽曲群で、Zeppをアリーナ級の躍動感で包んでみせたandrop。何度も湧き上がる高らかなシンガロングに、内澤が思わずイヤモニを外して聴き入り「……すげえカッコいい!」と絶賛していた場面は、この日の会場一丸の濃密なコミュニケーションを象徴する決定的瞬間だった。「ここにいるひとりひとり、あなたの明日とか明後日、これからの未来が、もっともっといい世界に、僕の音楽が関わることによってなればいいなと思って、今日も歌ってるし、音楽を作ってます。音楽っていうのは、1曲聴いた後に、ガラッと自分の世界観を変えてくれるぐらいの力を持っていると思うので。今日、たくさん曲をやったけど、1曲でも引っかかればいいなと思いながら、曲をやりました」と真摯な想いを告げる内澤の言葉が、惜しみない拍手喝采を呼び起こしていた。
内澤自身にとってもこの日のアクトは相当エモーショナルな体験だったようで、「意識が朦朧としてたのか、興奮しすぎたのか、最後の曲の一個前で『最後の曲です!』って言ってた(笑)」とアンコールでこぼす内澤に「『ラスト!』って言うから『いや、ラストじゃねえと思うんだけどなあ』って思ってた」と佐藤が突っ込み、さらに内澤が「気持ちだけは全曲ラストのつもりだから!」と返して会場を沸かせる――という一幕からも、バンドとしての伸びやかな一体感が伝わってきた。「one-man live tour "androp"」2日目にして至上の光景を生み出してみせたandrop。10月24日・25日のZepp Nagoyaまで続くツアーを経て『androp』の楽曲世界はどこまで進化するのか?という期待感を激しくかき立てられる名演だった。(高橋智樹)