サカナクション@日本武道館

サカナクション@日本武道館 - all pict by Mao Yamamotoall pict by Mao Yamamoto
サカナクション@日本武道館
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「みんな、ただいま!」。快活に呼びかける山口一郎(Vo・G)に、2階席までぎっしり埋まった日本武道館から熱い拍手喝采が湧き起こる。そして、「今日はみんな自由に、自分のステップで踊ってください。僕も今日はむちゃくちゃ踊ります。一緒に楽しみましょう!」と続ける彼の言葉が、熱気に満ちた空間をさらなる高揚の果てへと導いていく――。

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サカナクションの自主レーベル「NF Records」設立記念ツアーであると同時に、草刈愛美(B)の出産に伴うライヴ活動休止期間を経て約1年半ぶりのツアー開催となる『SAKANAQUARIUM 2015-2016 "NF Records launch tour"』。札幌/名古屋/大阪/東京のアリーナツアー4会場7公演、11月〜2016年2月まで行われる全国ホールツアー25公演の2段階にわたって行われる同ツアーのうち、アリーナツアーのラストを飾る武道館2DAYSの2日目として開催されたこの日のアクトは、ロックとクラブミュージックの枠組みを越えて壮大な祝祭空間を描いてきたサカナクションが、あふれんばかりのライヴへの想いと冒険精神を全方位的に解き放った、珠玉の一夜だった。

サカナクション@日本武道館
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スタンディング形式のアリーナと客席含めて、実に11,000人のオーディエンスが集結した、サカナクション自身5年ぶりとなる武道館公演の2日目。この後ホールツアーが来年まで続くため、ここではセットリストの掲載や演出についての記述は割愛、一部楽曲に触れるのみに留めさせていただくが、冒頭から視覚/聴覚のみならずオーディエンスの度肝を抜きまくるステージングを展開、開演の瞬間を今や遅しと待ち侘びた武道館の客席を驚きと感激で包み込んでいく。「約1年半ぶりのツアー……というか1年半ぶりのライヴなので、いろいろわがままを聞いていただきまして、このようなアリーナツアーを行うことができました」と山口も後のMCで語っていたが、ライヴ休止前のツアー「SAKANATRIBE」で繰り広げていたアンサンブルの肉体性と、映像/照明など「チーム・サカナクション」が一丸となって編み上げるアートフォームとしての完成度が、この武道館という舞台で最高の表現空間を作り出していた。

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会場一丸のシンガロングとハンドウェーブを呼び起こした“アイデンティティ”をはじめ、“アルクアラウンド”“夜の踊り子”などシングル曲群のダンサブルなリズムに無上の躍動感を注ぎ込む、江島啓一(Dr)&草刈愛美のしなやかなグルーヴ感。山口が「自殺の歌」と説明していたスロウナンバー“壁”で響かせたウォールオブギター的なディストーションをはじめ、そのアンサンブルの随所で鮮烈なエッジ感を生み出していた岩寺基晴(G)。クールなシーケンスからリードのフレーズまで極彩色の音色と演奏で、サカナクションサウンドに輝度と深度を与えていく岡崎英美(Key)……個々のプレイの切れ味や訴求力のみならず、「バンドの音像をライヴでよりハイクオリティに鳴らすには?」というテーマに音響スタッフとともに取り組み試行錯誤したであろうということが、音のひとつひとつがすぐそこで鳴っているようなリアルさで響いていたこの日の音像からも十分に窺えた。

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そしてこの日、誰よりもライヴの喜びを全身で表していたのが、他でもない山口一郎だった。ライヴ中に何度も「一緒に踊ろう!」「みんな最高!」と呼びかけ親指を立て、“夜の踊り子”ではあたかもパンクギタリストのように歓喜に任せてギターを抱えて飛び跳ね地面を踏み鳴らし、指揮者の如くオーディエンスの歓喜と合唱を煽っていく。最新シングル曲“新宝島”のエモーショナルなメロディを、ひときわ熱く強く撃ち放つような渾身の歌声と、「やっぱ楽しいね、ライヴ。やばい!」という山口の万感の想いが、武道館のむせ返るような熱気と相俟って、至上の多幸感を巻き起こしていく。5人のアーティストの真摯な探究心と、ライヴバンドとしての抑え難い情熱が渾然一体となって、ロックもダンスも高次元の覚醒感と熱狂で鮮やかに刷新していく――そんなマジカルな光景が、そこには確かにあった。

サカナクション@日本武道館
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「お母さんになってライヴをするのってどんな気分ですか? 変わる?」と「産休」明けの草刈に話を振った山口に、「子供がいて初めて母になれる。聴いてくれるみなさんがいないと、ミュージシャンになれないんだなって。みんなが喜んでくれるほうがいい――そういう演奏の仕方に変わった気がする」と草刈が答える。「それはむちゃくちゃ大きな変化だね」と頷く山口。「僕ら『NF Records』っていうレーベルを立ち上げて、その立ち上げツアーって名乗ってるんですけど……これからどんなことをやっていくかわからないけど、必ずみんなに、音楽で恩返しします!」と山口は語っていた。「いい曲を作るとかは当たり前だと思うけど、そうじゃなくて、もっと違った形で、みんなに何かを伝えられるように、これから真面目に、堅実に、誠実に、頑張っていきますんで。これからも応援よろしくお願いします!」。彼のそんな言葉に、惜しみない拍手が降り注いでいった。音楽の悦びと奥深さを追求し続けるサカナクションの進化はまだまだ止まらない、と強く感じさせる名演だった。(高橋智樹)
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