「今の俺たちは片手を失ったようなもんだけど、まだまだこのバンドでやりたいことが沢山あります。今後はカメレオンのように形を変えていくかもしれないけれど、僕たちはあくまでロックバンドなんで。これからもロックバンド・Base Ball Bearをよろしくお願いします」――そう語りかける小出裕介(Vo・G)に、満場の客席から温かな拍手が送られる。Base Ball Bearが日比谷野外大音楽堂で開催したシリーズライヴ「日比谷ノンフィクション」の第5弾。バンド史上最大の危機を経た彼らが鳴らしてみせたのは、結成から15年かけて鍛え上げてきた強固な精神性と、どんな変化をも受け入れる強さを備えたバンドの柔軟な肉体性そのものといえるサウンドだった。
ライヴの詳細を伝える前に、ベボベの近況について触れておきたい。今年で結成15周年、メジャーデビューを迎えた彼らが衝撃的な発表を行ったのは3月2日のこと。ギターの湯浅将平と2月中旬から連絡が取れなくなり、第三者を通して「今後Base Ball Bearでの活動を続けることができないという意思表示を受けた」事実とともに湯浅の脱退が発表された。その僅か3日後にスタートした6thアルバム『C2』の全国ツアーは、サポートギターにフルカワユタカ(ex.DOPING PANDA)を迎えて敢行。全7公演のツアーを経て、湯浅脱退後、初の東京公演となるこの日を迎えるに至ったのだ。
まさに満身創痍といっても過言ではない現状。しかし、先に総括してしまうと、この日のライヴはそんなバンドの不穏なムードを一気に払拭する強靭なポジティヴィティに満ちていた。フルカワに加え、石毛輝(lovefilm/the telephones)、田渕ひさ子(toddle/ex.NUMBER GIRL)、ハヤシヒロユキ(POLYSICS)をサポートギターに交代で迎えながら展開されたステージは、ゲストそれぞれの個性とともに、ベボベとのほのぼのとした交友関係が透けて見えるエンターテインメント性に溢れたもの。冒頭の最新アルバムからの3連打をサポートしたフルカワは、「解散とか活動休止とかを経験したメンツが、毒をいっぱい入れて大人のBase Ball Bearにして帰りたいと思います!」と粋な餞の言葉を贈って会場を盛り立てる。
元NUMBER GIRLの田渕を迎えた4曲目からのブロックでは、「僕らインディーズ盤を出したとき、ナンバーガールの紛いものだってメッチャ叩かれたんです。でも、10年経って同じステージで本物(=田渕)と演奏してるんだから、もう紛いものじゃねーぞ!」と胸を張る小出。そんな思いに全力で応えるかのごとく、田渕は、あの絹糸のように繊細で艶やかなギター音をいかんなく響かせて“short hair”“PERFECT BLUE”などの流麗かつ爽快なサウンドスケープに輝きを添えていく。
ゲストなのにオレンジのつなぎ&サングラスというPOLYSICSスタイルで現れたハヤシは、虹色の音像が飛び散った“ぼくらのfrai awei”から、幽玄の世界を生み出した“どうしよう”までの3曲にわたって、鮮烈と混沌の狭間を自在に行き交う狂気的なギタープレイを披露(伝家の宝刀・ギターの歯弾きも披露してました)。2月末のチャットモンチーの主催ライヴでも急きょサポートに入った石毛は、3人のタイトなアンサンブルと妖しく絡み合う恍惚のアルペジオを“17才”“changes”“十字架 You and I”で弾き鳴らし、会場を昇天させていた。ちなみにこの2人、「今日はゲストなんで、いつものヤツは禁止でお願いします」と小出に釘を刺されていたにもかかわらず、「トイス!」(ハヤシ)、「DISCO!」(石毛)と思い余って叫んでいたのには笑った。
そして何より特筆すべきは、そんな先輩ギタリストたちの怪演に堂々と渡り合っていたメンバー3人の演奏だ。時折威勢のいい掛け声を上げながら爆発力あるビートを正確無比に打ち鳴らした堀之内大介(Dr・Cho)。キュートな歌声を届けながらもそのベース音は終始アグレッシヴな躍動感に満ちていた関根史織(B・Cho)。スキャットを巧みに織り交ぜたソウルフルな歌声と鋭利なギターサウンドでバンドを力強く牽引し続けた小出。この3人が紡ぎ出す一糸乱れぬアンサンブルが、時に獰猛で、時に妖艶で、時にグルーヴィーな肉体性を帯びながら終始ダイナミックに鳴っていた。中でも圧巻だったのは、再びフルカワを迎えて“ホーリーロンリーマウンテン”から“LOVE MATHEMATICS”までを一気に駆け抜けた終盤の流れ。その後、小出は冒頭に記した発言をしたのだが、その言葉通り、生き物のように変化するサウンドでロックンロールの興奮を体現していくような鬼気迫る名演だった。
“HUMAN”で本編を締め括った後、3人のみでステージに上がったアンコール。「いい先輩に恵まれました」とゲストに感謝を述べた小出は、「本当に救われたのは、ミュージシャンの皆さん、Base Ball Bearを聴いてくれている皆さんが、こんなにもBase Ball Bearのことを考えてくれていたこと。だから今後も3人で頑張っていこうと決意を固めました」と宣言。そのまま3人だけで奏でたラストの“「それって、for 誰?」part.2”“The End”の旋律が、ひときわ深く胸に沁み込んでいった。
アンコールでは、すでに新作の制作に入っていること、年内にアルバムを出すことも発表。まだまだ試行錯誤の活動ではあるものの、「今後はキーボードやホーンセクションを加えたライヴもやってみたい」(小出)と新たな野心を覗かせたバンドの前途は明るいに違いない。今は3人+αのバンドとして無限の可能性を秘めたBase Ball Bearの成長を楽しみに見守っていきたい。(齋藤美穂)
●セットリスト
1. 「それって、for 誰?」part.1
2. 不思議な夜
3. 曖してる
4. こぼさないでShadow
5. short hair
6. PERFECT BLUE
7. ぼくらのfrai awei
8. UNDER THE STAR LIGHT
9. どうしよう
10. 17才
11. changes
12. 十字架 You and I
13. ホーリーロンリーマウンテン
14. カシカ
15. 真夏の条件
16. LOVE MATHEMATICS
17. HUMAN
アンコール
18. 「それって、for 誰?」part.2
19. The End