ホールジー @ shibuya duo MUSIC EXCHANGE

ホールジー @ shibuya duo MUSIC EXCHANGE - ©Sotaro Goto©Sotaro Goto
弱冠20歳、新世代の歌姫&ポップ・アイコンとして注目を集めているホールジー、これが初の日本公演だ。当初は1月に予定されていた来日の振替公演だが、昨年本国リリースされたデビュー・アルバム『バッドランズ』から8カ月近くが経過してさらに機が熟したと言うか、結果的にここ日本でもいいタイミングでの来日になったのではないか。

ホールジーがアデルやエリー・ゴールディングの次の世代、つまり既に10年くらい続いている「R&B・ミーツ・エレクトロ」のディーバ・ブームにおける正真正銘のニューウェイヴだということを真っ先に教えてくれたのは、この日のDUOに集まったオーディエンスの姿だった。圧倒的に若くていわゆるインスタ世代、開演前のSEでかかったドレイクの“Hotline Bling”を合唱しながら待っているという、むちゃくちゃ今風でかっこいいオーディエンスで、そんな彼女・彼らにとってホールジーはテイラー・スウィフトのような憧憬の対象であり、同時にインスタをはじめとするSNSを通じてより近しいシンパシーを抱く横並びの「仲間」のような存在でもある、そんな新しいアイコンの在り方を象徴していたのがこの日のライヴだったのだ。

どこかオリエンタルなイントロがユニークな“Gasoline”で幕を開けたステージ、フードを被ったホールジーが登場すると悲鳴のような歓声が巻き起こる。彼女がデビューした際のトレードマークだった青のロングヘアはばっさり切られてショートカットになっていて、遠目には細くて華奢な少年のようにも見える。続く“Hold Me Down”はドラムンベースをフィーチャーしたヒップホップ・ナンバーで、オーバーサイズのパーカーを着たホールジーの佇まいとも相まって、「ディーバのステージ」と呼ぶよりもずっとストリート色の強いパフォーマンスだ。

ホールジー @ shibuya duo MUSIC EXCHANGE - ©Sotaro Goto©Sotaro Goto
さらにパーカッシヴな“Castle”のダーク・エレクトロは、ロードを彷彿させるサウンド感。そしてヘヴィー・ベースをばりばりと効かせたインタールードの重く暗い展開は、もはやナイン・インチ・ネイルズあたりを引き合いに出してもおかしくないほどで、その流れでシームレスに突入した“Control”のこぶしを効かせたファルセットのヴォーカリゼーションには、アデルの“Skyfall”にも近いものを感じる。しかしすぐにハスキーな地声に戻るホールジーのそれは、アデルのようなR&Bのドレッシーな歌姫とは一線を画す、ゴス・ロック的世界観が魅力的だ。黒人の父と白人の母を持ち、父からはヒップホップやソウルを、母からはオルタナティヴ・ロックを伝授されたというバックグラウンドが、まさに彼女の音楽には直反映されていると言っていいだろう。

「アイ・ラヴ・ユー!」と客席から歓声が飛び、「私もみんなのこと愛してる……えへへ」と照れ笑いしながら返すホールジーことアシュリー・フランジパーネその人は、いったん歌から離れると年相応の等身大の女の子に戻っていく。「私はセックスについての哀しい歌を歌う」と宣言されたチルでメロウ、そしてダークな彼女の音楽の、どこかトラウマティックな響きと自身の日常・実体をうまく棲み分けしている感覚で、ここら辺の「あくまでも普通の女子」であるリアリティを大切にしてくマナーも、すごく2010年代的だと感じた。

「私は日本が本当に大好き。いろいろな日本のカルチャーから影響を受けているし、次の曲はそんな日本でビデオも撮ったんだよ」と言ってスタートしたのは“Ghost”だ。ブレイクビーツとラップとシンプルなメロディで構成された2分半のこのナンバーは、ホールジーの原点のナンバーと言っていい一曲だろう。もちろん日本のファンにとっても特別なナンバーで、サビの大合唱で応えていた。ちなみに“Is There Somewhere”で客席にダイヴしたホールジー、その華奢な体格故にあっさりオーディエンスに支えられ、皆の頭上にふんわり立っているような状態になっていたのが面白かった。

それにしてもこの日のショウは、ホールジーがブレイクを取るインタールードがいちいち最高だった! 激しく点滅するバックライトの中でベースラインを思いっきり歪ませ、エレクトロ・ドラムをそこに畳み掛けていく“Colors pt. II”なんて、ジェイムス・ブレイクばりの重低ダブステップに仕上がっていたし、ホールジーを取り巻くブレインやスタッフの優秀さみたいなものも垣間見えたひとときだった。そんな“Colors pt. II”から一気に4つ打ちのビートでディスコテック&ポップに転調していく“Colors”の演出もハマり、クライマックスに向けて場内はいよいよヒートアップしていく。曲間のポエトリー・リーディング調のセリフも完璧にそらんじるオーディエンスも最高だ。繰り返すけど、本当にこの日のオーディエンスは頼もしきニュー・ジェネレーションって感じだったのだ。

そんなオーディエンスらとホールジーが見事にコール&レスポンスを決め、ライヴの沸点を記録したのが“New Americana”だ。この曲の分厚いシンセ・ポップのキャッチーさと短調の泣きメロのコンビネーションは、合唱するほうのカタルシスも凄い。ラストの“Young God”までやりきっても約50分とコンパクトなステージだったが、ホールジーという新たな才能の2016年における立脚点がはっきり示されたライヴだったと思うし、彼女を支えるファンが見せた同時代性、「今」の空気も本当に鮮烈だった。(粉川しの)

〈SETLIST〉
01. Gasoline
02. Hold Me Down
03. Castle
04. Haunting
05. Roman Holiday
06. Control
07. Drive
08. Ghost
09. Is There Somewhere
10. Colors pt. II
11. Colors
12. Hurricane
13. New Americana
14. Young God
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