●セットリスト
一部
1.「序曲」夢のちまた
2.今はここが真ん中さ!
3.新しい季節へキミと
4.悲しみの果て
5.デーデ
6.星の砂
7.真冬のロマンチック
8.珍奇男
9.愛すべき今日
10.はじまりは今
11.翳りゆく部屋
12.桜の花、舞い上がる道を
13.笑顔の未来へ
14.ハナウタ〜遠い昔からの物語〜
15.夢を追う旅人
16.俺たちの明日
17.RAINBOW
18.ガストロンジャー
二部
19.大地のシンフォニー
20.ズレてる方がいい
21.東京ジェラシィ
22.i am hungry
23.so many people
24.ファイティングマン
(アンコール)
25.涙
26.今宵の月のように
27.待つ男
デビュー30周年を迎えるバンドが、どうすればこれほどアグレッシブなステージを見せつけることができるのだろうか。1月6日、恒例のエレファントカシマシ新春ライブ。今年は日本武道館での開催。この日のライブは本当に素晴らしかった。いや、エレカシのライブはいつだって素晴らしいけれど、この日受け取った圧倒的で強烈なエネルギーは、まだ当分体から抜けそうもない。
落ち着いた、しかしいつにも増して力強い歌声が響き渡る“「序曲」夢のちまた”でライブはスタート。はかない春の一日を歌った楽曲が、不思議な高揚感を感じさせてくれる。宮本浩次(Vo・G)の声は、もしかしたら今が一番最高なのかもしれないと、この1曲目で思ってしまったのだが、それはライブが進んでいく中で確信へと変わっていくことになる。「エブリバディ明けましておめでとう!」と突入した2曲目は“今はここが真ん中さ!”。石森敏行(G)のギターが軽快なロックンロールサウンドを鳴らし、宮本は《今は武道館が真ん中さ》と叫ぶ。続く“新しい季節へキミと”では、会場の観客を指差しながら《新しい季節へキミと》と力強く歌った。なぜだか今日のエレカシの音はものすごくポジティブに響く。
“星の砂”では曲が進むにつれて、どんどんバンドサウンドがドライブしていく。高緑成治(B)と冨永義之(Dr)のリズムは走りすぎるスレスレの、一番気持ちいい疾走感をキープ。長いキャリアを経たエレカシが、こんなに力強くフレッシュなサウンドを奏でているなんて。いや、キャリアを経たからこそなのか。しかしさらなるクライマックスは、“珍奇男”にあった。椅子に座った宮本が、ダーン!(ジャーン!じゃなくて、ほんとにダーン!という感じ)と力強いストロークでアコギの音を確かめるように鳴らすと、その一音だけで、今日のこの曲は凄まじいことになりそうだという予感がよぎった。かき鳴らすアコギの音も、宮本の声も、尋常ではないエネルギーを放つ。かといって、やみくもに突っ走るのではない。フリーキーに音を奏でながら、あくまでも冷静な狂言回しのように自在に世界を作り上げていく。弾き語りからドラムのキックが入り、宮本は素早くエレクトリックギターにチェンジ。あざやかなバンドサウンドへと連なるグラデーションが見事。石森とサポートのヒラマミキオ(G)、さらには宮本のギターが絡み合うエキセントリックなアンサンブルに、思わず拳を握りしめて聴き入ってしまう。その歌声と演奏はまさに史上最強のものだった。凄まじい。後で自分のメモを見返してみたら「やばい、すごい」と殴り書きのように書いてあった。何のメモにもなってないな(笑)。
荒井由実の名曲“翳りゆく部屋”をやってくれたのも嬉しかった。サポートのSUNNY(Key)が奏でるサイケデリックなキーボードの音にアコギが重なり、楽曲の持つ虚ろな風景が色濃く浮かび上がる。そして宮本の声は原曲とは違った強さで悲しみを描いていく。この日のエレカシは、無力なやるせなさを感じさせるこの楽曲でさえ、深い悲しさとともに、しかし視線はしっかりと前を向いている、みたいな、体からにじみ出る生命力をはっきりと感じさせてくれたのだ。それはこの日のセットリストが新年の幕開けにふさわしいポジティブなものが多かったせいもあるが、“愛すべき今日”や“夢を追う旅人”など、最近の楽曲に見る地に足の着いた力強さはもちろん、「昔の曲なんですけど、新しい町に引っ越した時の、キラキラして、未来がひらけているような歌です。明るくてまっすぐで、武道館にぴったりだと思って用意してきました」と言って歌った“はじまりは今”には、時を経て今いっそうのポジティブさが宿る。曲が終わった後も、宮本自身がまだ歌い足りないみたいに、もう一度弾き語りで一節繰り返したのが印象的。そして「行こうぜ2017年」とつぶやいた。
一部の締めくくりは“RAINBOW”、そして“ガストロンジャー”。私たちがあれやこれやと抱える迷いや悩みなど、すべてなぎ倒してくれるかのような《“だから胸を張ってさ そう”》という真っ直ぐなアジテーション。いやもう、2017年、本当に胸を張って生きていけそうな気がする。ライブはこの時点ですでに18曲。2時間近くが経過しているのだが、宮本の声はまるで衰えることはなく、「一部終了。二部があります」とさらっと言ってのけ、束の間の休憩の後、“大地のシンフォニー”で二部をスタートさせた。《人生はいつもページェント 自分が主役の/そして誰かをしあわせにするため生き抜く》というメッセージが、くっきりと胸に刻まれる。“i am hungry”の絶唱には会場中が大きな歓声に包まれて、宮本は客席に向き合うと、「なんていいヤツらなんだ、ありがとエブリバディ!」と、最高の笑顔を見せた。本編ラストの“ファイティングマン”では、こちらが照れるくらいに客席の電気を明るくして、宮本はステージの端から端まで、その動きを止めることなく歌い続ける。《お前の力必要さ 俺を俺を力づけろよ》の「お前」のところで、客席を力強く指差して歌う姿からは、それぞれが人生の当事者たれという宮本からの大切なメッセージを受け取る。会場中で振り上げられる最高に力強い拳がそれに応えていた。
アンコール、弾き語りの“涙”で聴かせてくれた歌声に、想像をはるかに超えるようなエネルギッシュなライブの終盤に、こんなに美しい声が出せるのかと驚く。そして“今宵の月のように”の普遍的な楽曲の魅力を改めて思い知る。《もう二度と戻らない日々を/俺たちは走り続ける》。なんて強く、せつなく、はかない歌詞だろう。そして“待つ男”。ステージを右に左に移動しながら、最後までパワーダウンすることのない高いテンションと声量で、客席をさらなる高みへと導き、「いい顔してるぜエビバディ! いい年になるでしょう」と、ぶっきらぼうにマイクを放り投げて去っていった。
去年の新春ライブの後にも書いたような気がするけれど、エレカシは、間違いなく今が最高。そう、去年の「最高」と比べても、それを上回るレベルの「最高」な状態にある。デビュー30周年を迎えた記念すべき2017年、文句なしの素晴らしい幕開けライブだった。そして4月からはエレカシ初の47都道府県ツアーも決定している。悪いことは言わない。今年のエレカシは見逃さないほうがいい、絶対に。(杉浦美恵)