「ようこそ、日比谷の野外音楽堂へエブリバディ! 今日はね、二段階のスタートで――ロケットスタートですこれは、俺の中では。ロケットがどうやってスタートするのかは知りませんけども(笑)」
エレファントカシマシにとって実に28年連続となる日比谷野外大音楽堂でのワンマンライブの序盤、宮本浩次(Vo・G)はそんなふうに語って満場の客席を沸かせていた。
ご存知の通りエレファントカシマシは、ちょうどこの日オンエアされていた『ミュージックステーション ウルトラFES 2017』に、ライブ開演直前の日比谷野音から“俺たちの明日”で生中継出演を果たしている。
デビュー30年目・野音28年目に訪れたこの特殊な場面を、バンドのみならず満場のオーディエンスも全身で堪能しまくっていたことが、前述の宮本の言葉からも十分に窺える。
日本列島を直撃していた台風も東京を抜け、眩しい青空と汗ばむくらいの陽気に恵まれた9月18日、日比谷野外大音楽堂。
デビュー30周年にして初の全都道府県ツアー「THE FIGHTING MAN」を敢行→夏フェス連戦→その合間にシングル『RESTART/今を歌え』制作……とますます加速度を増していくエレファントカシマシの「今」のスリルとロックの生命力を、この日のアクトは厳然と物語っていた。
昨年同様、宮本/石森敏行(G)/高緑成治(B)/冨永義之(Dr)の4人にサポートメンバー=細海魚(Key)&ヒラマミキオ(G)を迎えて28年目の野音に臨んだエレカシ、今年のステージは“地元のダンナ”(アルバム『町を見下ろす丘』/2006年)で幕を開けた。
毎回、作品のリリースツアーなどとは一線を画した、レア曲満載のセットリストを構築している「エレカシ野音」。特に今回は、オールタイムベストアルバム『All Time Best Album THE FIGHTING MAN』を携えてのツアー真っ最中の開催である。
宮本自身も「ツアーの合間合間に『(野音で)あれやろう、これやろう』ってふと浮かんだ曲をやるようにしてまして……」とMCで語っていた通り、本編二部構成+Wアンコールで約3時間・計30曲に及んだアクトの中でも、全19曲から成る第一部では『All Time Best Album THE FIGHTING MAN』収録曲は“悲しみの果て”1曲のみ。代表曲を凝縮したベスト盤とは異なるエレカシの側面を野音で轟かせたい、という宮本の想いが、この日の選曲からも滲んできた。
そして何より、そんな野音ならではのディープな選曲こそ、超満員のオーディエンスが待ち受けているものである――ということが、会場の熱気からリアルに伝わってくる。
ハードなリフとアウトロの石森ソロプレイが光る“涙の数だけ”(シングル『はじまりは今』カップリング/1998年)から、ストーンズ的なミドルテンポのドライブ感が痛快な“Tonight”(アルバム『愛と夢』収録/1998年)へ流れ込む。
さらに、細海の冷えたオルガンサウンドとハードバラードの音像が響き合う“おまえはどこだ”(アルバム『奴隷天国』収録/1993年)、凍てつく魂のブルース“九月の雨”(アルバム『悪魔のささやき~そして、心に火を灯す旅~』収録/2010年)、というメランコリックな流れへ――。
デビューから積み重ねた30年のキャリアを、ベスト盤とは異なる視点から網羅して結晶させていくような、1曲ごとに改めて驚きと感激を喚起させられるステージだった。
2017年に目の当たりにする“曙光”(1992年シングル)、“too fine life”(シングル『男は行く』カップリング&アルバム『生活』収録/1990年)の流れが、アーカイブではなく紛れもなく今この時代のロックとして鳴り渡っていたのも、「エレカシ野音」だからこそ体験することのできる名場面と言えるだろう。
《東京中の電気を消して夜空を見上げてえな》という、ここ日比谷野音にぴったりの“友達がいるのさ”から第二部はスタート、ベスト盤の楽曲も要所要所に盛り込みライブを展開していく。
空気を震わせるような熱唱に応えて高々と拳を掲げる観客に「勝ちに行こうぜ!」と叫び上げ、続いて披露した名曲“今宵の月のように”では「輝いてるぜエブリバディ!!」と客席を力強く鼓舞してみせる宮本。そんな熱演がまた、観る者すべてのエモーションを熱く沸き立たせていく……そんな無限のサイクルが、この日の野音には確かに存在していた。
そして、“ガストロンジャー”などの狂騒感が会場の祝祭感をさらに高めたところで鳴り響いたのが、最新シングル曲“風と共に”。燃え盛る衝動と不屈のロマンを、珠玉のメロディへと注ぎ込んだこの楽曲のトップノートを、全身の熱量を絞り出すようにして突き上げるその凄絶な姿に、思わず全身が震えた。
時に石森&高緑をステージ前面へぐいぐいと駆り立てたり、己の爆裂する情熱とギアを噛み合わせるように冨永のドラムのペースを煽ったり、この日の宮本の佇まいは獰猛なくらいに野性的で、音楽に対して恐ろしいほどに誠実だった。エレファントカシマシはいつだってそういうバンドだが、「エレカシ野音」はそんな彼らの本質を完膚なきまでに浮き彫りにする場所である――ということを、アンコールの“ファイティングマン”やWアンコール“待つ男”の激演がどこまでも鮮烈に告げていた。
「音楽を愛する、いいやつらだな! サンキュー、エブリバディ!」……ありったけの喜びと感謝を伝える宮本のコールが心地好く胸に残る、最高の一夜だった。9月23日(土・祝)からはいよいよツアー後半戦!(高橋智樹)