テンプルズ @ 新木場Studio Coast

テンプルズ @ 新木場Studio Coast

テンプルズ、爆音! 今年のフジロックから約3カ月半のショート・インターバルでの単独来日となった今回のステージで、まず何よりも驚いたのがその音の大きさだった。会場の新木場Studio Coastは、過去に「Hostess Club Weekender」の出演者として彼らもオン・ステージ経験はあったものの、単独来日としてはもちろん過去最大のステージだ。

テンプルズがそんなコーストの隅々まで満たして余りある爆音を放ち、しかもきっちり彼ら自身でそれをコントロール出来ているパフォーマンスが、本当に感動的だったのだ。

彼らはUK新人としては異例の頻度で来日してくれているバンドで、その成長を日本のファンは見守り続けてきたわけだが、今回ほどヴィヴィッドな成長、飛躍を感じられたステージは初めてだったのではないか。あの、霞を食べていそうな儚げサイケデリック青年団が、こんなにもグルーヴィーでタフなライブ・バンドに成長するとは!

彼らのこの成長の起爆剤となったのは、もちろんニュー・アルバムの『ヴォルケーノ』だ。『ヴォルケーノ』で彼らが目指したリズム隊の強化、シンセサイザーの役割の増大、楽曲のアウトラインの明瞭化、リバーブの奥行きを使い切るハイファイな音響といったものによって、ふわもこしたサイケデリックの曖昧さを払拭する契機となり、そして音が前へ前へとダイレクトに迫り来るようになり、それがライブ・パフォーマンスにおける思い切りの良さ、まさにヴォルケーノ(活火山)の爆発のような爆音を生んでいったのだと思う。

ちなみに爆音といってもひたすら音圧で押し切るタイプのそれとは違い、曲によって強調部分が全く異なり、それも『ヴォルケーノ』以降の彼らのカラフルなサウンドの要因となっている。たとえば“Certainty”ではブーミーなシンセが全面に押し出され、“Keep In The Dark”ではグラム・ギターとピンク・フロイド(シド・バレット時代)のサイケ・グルーヴが膨らみを競い合い、“Mesmerise”の転調に次ぐ転調のプログレ的展開では雷ドラムスとギターが倍々ゲームでノイズを放出していく。

7月のフジのステージでは、アダム(Key)とトーマス(B)が自分のパートとキーボードの間を忙しなく行き来しながら、『ヴォルケーノ』の楽曲の音の厚みを見事にキープしていたが、今回の彼らにはツールのスイッチングにも余裕が感じられた。

ジェームス(Vo&G)は『ヴォルケーノ』完成時のインタビューで、「このアルバムの曲をどうやってライブで再現すればいいのか、まだわからない、っていうか考えたくない(苦笑)」と言っていたけれど、あれから1年近くが経って、アルバムの再現からアルバム音源にさらに肉付けしていくレベルへと進化していたのが、今回の爆音パフォーマンスだったのだと思う。

また、いくら爆音になったとはいえ、テンプルズならではの繊細なアンサンブルや、チラチラと品の良い輝きを発するメロディ・ラインの美しさといった細部は細部で、きっちりいかされている。

二本の五月雨ギターが互いを追いかけ合うような“Colours to Life”のテクスチャー、深い森の中で木霊するような“Move With The Season”のフォーク・サイケ、ザ・ビートルズキンクスから受け継いだ“Roman God-Like Man”のメロディは特に素晴らしく、これらはテンプルズのスタジオ職人気質、音響マニアの本領発揮の部分だったと思うし、ライブ・バンドとしての筋力アップと、スタジオ・バンドとしての洗練、そのふたつが同時進行で進んでいるのが、今のテンプルズなのだ。

トレードマークの巨大アフロヘアーをばっさり切ったジェームスにも驚いたが、彼の顔や表情がここまではっきり確認できたのも初めてだ。短いカーリー・ヘアとそのシャープな顎のラインが、まるで『フリーホイーリン』時代のボブ・ディランのようだった。「次は古い曲をやるよ。僕たちからみんなへのプレゼントです」と、デビュー・アルバム『サン・ストラクチャーズ』の隠れ名曲“The Golden Throne”を披露してくれたのも嬉しかった。

アンコール・ラストはもちろん“Shelter Song”。ここまでの爆音ライブの流れからすると、拍子抜けするほど軽量級に聴こえてしまったのも面白かったが、この曲に象徴される確かなソングライティング、グッド・メロディが担保されているからこそ、テンプルズのサイケデリックは思う存分拡大できるし、爆音化できるんだよなあ……と改めて感慨深い幕切れだった。(粉川しの)

〈SETLIST〉

Sun Structures
Certainty
Colours to Life
Roman God-Like Man
I Wanna Be Your Mirror
Keep in the Dark
Move With the Season
Mystery of Pop
How Would You Like To Go?
Open Air
Strange Or Be Forgotten
The Golden Throne
Mesmerise
(encore)
A Question Isn't Answered
Shelter Song
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