【来日レポ】ポール・ウェラー @ EX THEATER ROPPONGI公演

【来日レポ】ポール・ウェラー @ EX THEATER ROPPONGI公演 - Photo by Kazumichi KokeiPhoto by Kazumichi Kokei

ポール・ウェラーの約3年ぶりの来日ツアーだった。ちなみにウェラーは2015年、2012年、2009年、2006年と、直近10年以上にわたって常に3年周期での単独来日を行っている(その間にはフェス来日も別途あったりする)。しかも、この全ての来日が新作ツアーなのだ。しかもしかも、今回の会場がなんばHatch、横浜BAY HALL、六本木EXシアターであったように、彼の直近10年の単独来日は、その大半が中規模のライブ・ハウス公演だった。

つまり、ウェラーはスタンディングの会場でプレイするのが相応しい現役感に溢れる新作をコンスタントに出し続け、その新作を軸に据えたライブ・ツアーをコンスタントにやり続けているということになる。40年以上のキャリアを誇る超ベテランでありながら、こんなにもきっちり「今」を生きているアーティストは他に類を見ない。

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今回のツアーは昨年リリースの新作『ア・カインド・レボリューション』を引っさげての来日だ。『ア・カインド・レボリューション』は前作『サターンズ・パターン』と比べるとウェラーのソウル、R&B志向がじっくり展開されたマチュアな一作だったが、ライブの基調は思いっきりソリッドでパワフルなバンド・サウンドで、そこに新作の滋味が要所要所で深みを与えていくという理想的なパフォーマンスだった。

バンドはギター(ご存知スティーヴ・クラドックです)、ベース、ドラム、キーボード、パーカッション&サンプリングとウェラー(ギター、時々キーボード)という6人編成で、“Long Time”のようなワウ・ギターがぎゅんぎゅんうねりまくるヘヴィー・チューン、アウトロでブルージーなジャム・セッションを繰り広げた“Into Tomorrow”などではダブル・ギターとダブル・ドラムスでギター・ロックのアンサンブルが強化され、新曲の“Woo Sé Mama”のようなミラーボールが回り始めるゴージャスなR&Bチューン、“Saturns Pattern”のようなゴスペル的ソウル・チューンでは、ウェラーがキーボードに回ってダブル・キーボード&ダブル・ドラムスとなり、華やかな音色を編み出していく。

せっかちパンキッシュにつんのめる時もあれば、レア・グルーヴをとことん掘り下げるディープな瞬間もある、そんなウェラーの曲毎の呼吸をクラドックを中心とするバンドは熟知していて、29曲に及んだ長大なセットリストをテンポ良く、そしてシームレスに走り抜けるのが最高だった。なにしろ29曲やってもトータルタイムは2時間ちょいだったのだから、いかにエッセンシャルなパフォーマンスだったかがお分かりいただけるはずだ。

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ひとつのセットリストをツアーで使い回すアーティストも少なくないが、ウェラーは毎日少しずつ曲を入れ替えてセットリストを更新していくタイプのアーティストだ。キャリア40年で質・バラエティ共にとんでもない数のレパートリーを持っている彼だからこそ敢えてそうしているのだと思うが、昨晩の日本最終公演はスタカンのナンバーが3曲、ジャムのナンバーに至っては7曲!と、全4公演中で最もスタカン&ジャムのレパートリーを手厚く盛り込んだセットとなった。

ただし、単なる懐古やファンサービスとしてソロ以前の曲をやるのではなくて、それらの曲に常にアレンジを入れこんだ「同時代バージョン」として再誕させていくのがウェラー流なのだ。ワウ・ギターのアクセントが効いていた“My Ever Changing Moods”やボーカルのキーを変えていた“Shout to the Top!”、そしてディレイ・ギターがレゲエのムードを醸し出す“The Eton Rifles”も斬新だった。

【来日レポ】ポール・ウェラー @ EX THEATER ROPPONGI公演 - Photo by Kazumichi KokeiPhoto by Kazumichi Kokei

この日のアンコールは2回、最初のアンコールはアコースティック・セットだったのだが、ここで“That's Entertainment”、“English Rose”、“Monday”と、アコースティック映えするジャムのナンバーを3曲連続でやってくれたのは流石に感涙ものだった。“That's Entertainment”は今回の来日での初披露だ。どの曲もジャムのリリシズム、当時ハタチそこそこだったポール・ウェラーの言わば「凛としたナイーヴィティ」が宿った蒼く美しいメロディが光る名曲揃いで、還暦を目前に控えた現在のウェラーはその美しさを一瞬も損なうことなく歌い上げる。

そしてそこからソロ時代の渋みの極み曲である“Wild Wood”へ、極力押し殺した抑揚の中でスリリングなインストが進行していく “Foot of the Mountain”へと、59歳のポール・ウェラーならではの奥深い音楽の求道へと途切れることなく続いていったのが、何より感動的だったのだ。

2度目のアンコールで、まるでライブのオープニングのようにアンセミックな“From the Floorboards Up”をブチかましてしまうウェラーは若々しいにも程があったが、ラストの“Town Called Malice”はもちろんステージの彼らもフロアの私たちも弾けまくった万感のフィナーレ! 生ける伝説ポール・ウェラー、その伝説がまた一歩更新された一夜だった。(粉川しの)

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〈SETLIST〉

White Sky
Long Time
My Ever Changing Moods
Nova
The Eton Rifles 
Saturns Pattern
Going My Way
Woo Sé Mama
She Moves With the Fayre
Into Tomorrow
Man in the Corner Shop 
Have You Ever Had It Blue 
Up in Suze's Room
Hung Up
Shout to the Top! 
Let It Be Me (Gilbert Bécaud cover)
The Cranes Are Back
22 Dreams
Peacock Suit
Friday Street
Come On/Let's Go
Start! 
(encore1)
That's Entertainment
English Rose 
Monday 
Wild Wood
Foot of the Mountain
(Encore2)
From the Floorboards Up
Town Called Malice
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