My Hair is Bad/日比谷野外大音楽堂

My Hair is Bad/日比谷野外大音楽堂

●セットリスト
1. 優しさの行方
2. アフターアワー
3. グッバイ・マイマリー
4. ドラマみたいだ
5. 愛ゆえに
6. 最愛の果て
7. 復讐
8. 熱狂を終え
9. クリサンセマム
10. 元彼氏として
11. 燃える偉人たち
12. 白熱灯、焼ける朝
13. 彼氏として
14. 悪い癖
15. 運命
16. フロムナウオン
17. 戦争を知らない大人たち
18. シャトルに乗って
19. 幻
20. 最近のこと
21. 真赤
22. 告白
23. 噂
(アンコール)
EN1. いつか結婚しても
EN2. 音楽家になりたくて


大阪・東京の2ヶ所で開催されたMy Hair is Badの「オーガニックホームランツアー」のファイナル公演が、5月13日に日比谷野外大音楽堂にて行われた。彼らにとって約1年振り2度目となる日比谷野音公演は、なんと天候大荒れの超豪雨。オーディエンスは全員雨ガッパ着用、5月とは思えない寒さの中で挑まれた日だったが、そんな過酷な状況だったというのに彼らはこの日、過去最高ライブを完膚なきまでに更新した。それくらいに3人から放たれる想いが凄まじかったし、文句の一つもつけようのない完璧なライブだった。そしてそれは豪雨という特別な環境がそう思わせたのではなく、特別な環境を見事にライブの一部に仕立て上げたMy Hair is Badがそう思わせた――まさにそんな一夜だった。

My Hair is Bad/日比谷野外大音楽堂
びしょ濡れのステージに登場し「この雨をいい思い出にするために新潟県上越My Hair is Bad 始めます!」と“優しさの行方”で幕を開けた山田淳(Dr)、山本大樹(B・Cho)、椎木知仁(Vo・G)の3人は、「二度とない今日へ! ドキドキしようぜ!」と“アフターアワー”、さらに「大切な東京の歌を」と“グッバイ・マイマリー”と序盤からアクセル全開! 「大丈夫? やばいよね? 風邪引いてほしくないな……。少しでもロックバンドの熱が伝わるように、僕らいつも以上に燃やします」と会場を気遣いながら、“ドラマみたいだ”や「君になったつもりで歌います、久し振りの曲を」と“愛ゆえに”、さらに“最愛の果て”とラブソングを続けてプレイ。そして「ありがとね。でもみなさんが思っているより、こっちも雨です。ギター大丈夫かな……」とびしょ濡れの楽器を3人各々心配しつつ、“復讐”をドロップ! 山田が叩き散らすダイナミックなビートに乗った椎木は振り切ったように「たーのしい!」と笑顔だったし、そのテンションを落とさずにプレイされた“熱狂を終え”や、《君がなんか悲しそうで僕は嫌だった》との歌詞を《君がなんか楽しそうで僕は最高だ》と替えて歌った“クリサンセマム”、さらに“元彼氏として”では山本がその場で大きく一回転したプレイを見せるなど、悪天なんて気にしないと言わんばかりの3人のプレイに心が弾んだ。

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その後「俺らが今日ここで雨の中で会えているのは、約束をしたからだなぁと思っています。またここでワンマンやるっていう約束をして、みなさんが行ってやるよ!という約束をしてくれて今日が成り立っています。忘れていても、守ってくれた時に全部思い出します」と“白熱灯、焼ける朝”を奏で上げた3人。ぐっと聴き入るモードになった会場に“彼氏として”や椎木にスポットライトが当たって始まった“悪い癖”、“運命”が投げかけられた頃、この雨の影響だろう、椎木のギターのチューニングがズレ始めていた。けれど、負けないようにとギリギリの状態をどうにか踏ん張っているようなその音が皮肉にもこの状況に似合っていたし、がむしゃらなまでに真っ直ぐ貫く彼らが物凄く格好良く見えた。「こんな約束、別に守ってくれなくて良かったのに。本当は破って欲しかったよ」と悪天候の中でも集まった大勢の人に不器用に言葉を投げかけ、「雨降って地固まる、止まない雨はない、雨が降らないと虹は出ない。大丈夫だよ、その通りだ。でもまたいつか絶対雨は降るから。止んだって、また雨は降る! 繰り返す! だったらどうするんだよ!?……立ち向かえ!!」と力いっぱいにぶちかまされた“フロムナウオン”を聴いて、この日、この天気、この瞬間にしか生まれないその絶対的な説得力に身体の芯がグッと熱くなった。

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そんな余熱とハウリングがジーンと胸を刺す中、「また日が暮れて、ちゃんと朝が来ますように。始めて10年、あれから2年、全部同じ5月。僕らが僕らでいられますように」と歌われたのは“戦争を知らない大人たち”。この曲と、続いて演奏された“シャトルに乗って”との曲間で歓声や拍手はひとつも起こらなかった。というより、身動きを取る隙が一切なかった。それは圧迫感が故ではなく、会場にいた全員の意識が3人の音に完全に飲み込まれていたからだ。そんな空気の中でふっとライトが客席を向き、無数の雨粒が降り注ぐ景色がぱっと明るく照らされた。その瞬間、目の前に広がった光景のあまりの美しさに思わず息を飲んだ。雨足は強くなり気温は下がり続けたが、こんなにも綺麗な景色の中で、こんなにも胸を締め付けられる想いの込められた音楽を聴けるということがたまらなく幸せなことに思えたし、“幻”や「もう一曲だけバラード歌わしてください」と鳴らした“最近のこと”に至るまでその想いは強まる一方だった。

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そうして呼吸の音すら躊躇われる雰囲気を作り上げた彼らだが、続くMCでは「風邪を引かない方法」について和やかなトークを繰り広げて会場に笑いをもたらした。そういった人懐っこさで会場を明るくした彼らは、「一年振りに野音に来れて嬉しいです! 大事な曲がずっと大事な曲でありますように」と“真赤”を鳴らし、「今日はどうもありがとうございました! 感謝してるよ!」とラストに“告白”を盛大に掻き鳴らした……と思いきや、その後にショートチューンの“噂”をプレイ! 意表を突かれて興奮状態の会場に向けて「風邪引かないでくれよ! 愛しています! My Hair is Badでした!」との言葉と共に深々とお辞儀をし、彼らはステージを後にした。そして、変わらぬ豪雨の中でも鳴り止まないアンコールに応えて再度登場した3人。椎木がぽろっと零した「気を遣わせてごめんね」との言葉の謙虚さがなんとも彼らしいなと思いながら、「最後はあったかい曲を!」と“いつか結婚しても”と“音楽家になりたくて”を届け、伝説的ライブの幕を閉じた。

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約2時間に及ぶ公演中に雨脚が弱まることはなかったし、実際のところあの場にいた全員がかなり厳しい状況だったのは間違いなかったが、それでもこちらが視認できる限り途中退席した人はほとんどいなかった。それはきっとあの場に居た人たちの中に「彼らが歴史を更新する瞬間を絶対に見逃したくない」という強い想いがあったからだろう。その選択は間違っていなかったと、この先どれほどの時間が経とうとも言い切れる。心からそう思えるほど、本当に素晴らしい夜だった。(峯岸利恵)

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