サカナクション/Zepp Tokyo

サカナクション/Zepp Tokyo - All photo by Saki YagiAll photo by Saki Yagi
ベスト盤『魚図鑑』リリースに伴うツアー「SAKANAQUARIUM2018 “魚図鑑ゼミナール”」は、6月13・14日の札幌をはじめとして、名古屋、大阪、仙台、東京の各都市で2公演ずつ計10公演がスケジュールされた。さらに、秋からは大規模な全国ホールツアー、そしてEX THEATER ROPPONGIの5周年を記念する4デイズが予定されている。今回は、ライブハウス編のファイナルにあたるZepp Tokyo2日目の模様をレポートしたい。以下本文は少々の演奏曲表記などネタバレを含むので、ホール公演を楽しみにしている方は閲覧にご注意を。

サカナクション/Zepp Tokyo
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波打ち際のオープニング映像が、スタッフロールを含めたCGグラフィックへと移り変わると、山口一郎(Vo・G)、岩寺基晴(G)、草刈愛美(B)、岡崎英美(Key)、江島啓一(Dr)が歓声に包まれながら暗転したステージに立つ。後に山口は、『魚図鑑』の「深海」チャプターから始まる今回のライブを「沁みながら踊る」感覚だと説明した(もともとはD.A.N.のメンバーとの対話の中で発せられた言葉らしい)が、深いブルーの照明に彼の歌が伝い、フォーキー&サイケデリックに展開する“朝の歌”は、音楽の力を借りて心の深層へとダイブするサカナクションの真髄を提示していた。

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この序盤で素晴らしかったのは、岡崎のキーボードフレーズに導かれて詩的な感情表現が次々に浮かんでゆく“enough”だ。ダンス性もオルタナティブなサウンドの刺激も巧みにコントロールし、歌心を膨らませてゆく今の5人の技量が光る。

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紗幕スクリーンの演出を用いて一気に「中層」チャプターへと移行(オーディエンスにちょっとした悪戯を仕掛ける遊び心も)すると、バンドはいよいよ強力なダンスグルーヴを発揮し始める。山口も熱い煽り文句を投げかけ、フロア一面が大きく波打つのだった。孤独なモラトリアムに閉じ込められた魂に火を灯す、極めてサカナクションらしいダンスの動機。たとえば“明日から”にはそれが感じられていた。

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『魚図鑑』は、サカナクションのキャリアの蓄積を深い部分までポップにガイドする機能を備えたベスト盤だ。それは「魚図鑑ゼミナール」のドラマティックな進行にも反映されていて、楽しみながら新しい発見を促す周到な構成になっている。シームレスに、粋なコンビネーションを刻みつけて歌を分かち合う“ワード”も、今回の選曲の中で重要な役割を担っていた。それぞれに情緒を抱え込んだ音が、豊かに折り重なって心模様のレイヤーを生み出してゆく。

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そしてライブ後半の「浅瀬」チャプターは、シングル曲を中心にした抗い難い高揚感の時間帯である。身を乗り出してギラついたギターフレーズを弾き倒す岩寺にしても、ブリブリと強力にファンキーなベースラインを繰り出す草刈にしても、それぞれに見せ場を作り率先してライブ空間を楽しみ尽くそうとしている。江島は、ハーフエレクトロニックなダンスグルーヴの中でオーディエンスを煽り立てつつ、ロックなアタック感へと移行するサカナクションのダイナミズムの屋台骨を見事に担っていた。

サカナクション/Zepp Tokyo
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メロディがエモーショナルに踊る“表参道26時”でオーディエンスに歌詞を預け、MacBookを携えた横一線のフォーメーションから始まる“ミュージック”では、降り注ぐシャボン玉にレーザー演出が乱反射する。まるでダイヤモンドダストのような幻想的な光景だ。辿り着いた本編のクライマックスでは、出た、これが山口一郎のマイクケーブル縄跳びか。噂には聞いていたけど、ファイナルの舞台でもきっちりやってくれるのがさすがだ。音楽をより深い部分まで楽しみ尽くそうとする、今のサカナクションを象徴するような一幕であった。

サカナクション/Zepp Tokyo
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アンコールで山口は、初めて誕生日に岩寺がお祝いの言葉をかけてくれなかった、とチクリとやりつつ(岩寺は決して忘れていたわけではないらしい)、この2日後から新たなマテリアルのレコーディングに入ること、その結果によっては今後のライブの内容も変わってくる可能性があることなどを語る。もともとスロウな演奏だったという曲をギターで弾き語りしては「人間だからさ、全部、音楽にしたいんだよね。沁みながら、チームサカナクションと踊りましょう」と、自身の表現欲求に正直に向き合う姿勢を明らかにしていた。そして終演後、彼は「笑いすぎて、ほっぺたが痛い」と告げる。それほどの笑顔をもたらすサカナクションの新しい選択は、信じるに値するものだと僕は思う。(小池宏和)

サカナクション/Zepp Tokyo

終演後ブログ
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