●セットリスト
1.SINGLES
2.Monster
3.himawari
4.幻聴
5.HANABI
6.NOT FOUND
7.忘れ得ぬ人
8.花 -Mémento-Mori-
9.addiction
10.Dance Dance Dance
11.ハル
12.and I love you
13.しるし
14.海にて、心は裸になりたがる
15.擬態
16.Worlds end
17.皮膚呼吸
(アンコール)
EN1.here comes my love
EN2.風と星とメビウスの輪
EN3.秋がくれた切符
EN4.Your Song
「さあ始まったぞ横浜アリーナ! さあ行くぞ、もっと行くぞ。ついてきてよ! Mr.Childrenだ!」
冒頭から割れんばかりのシンガロングを呼び起こして客席を震わせていた熱演の中、桜井和寿(Vo・G)のシャウトが痛快な高揚感をもって響き、横浜アリーナの大空間をさらなる熱気で満たしていく――。
10月6日・7日の広島グリーンアリーナを皮切りに国内は全国12都市・24公演にわたって行われてきたMr.Childrenのアリーナツアー「Mr.Children Tour 2018-19 重力と呼吸」。
12月23日の大阪城ホール公演をもって国内ファイナルを迎えた同ツアーの終盤=横浜アリーナ2Daysの2日目。「この会場、Mr.Childrenが一番ライブをしてる会場なんだよ。もうね、ホームグラウンドだと思ってます!」という桜井の言葉通り、『重力と呼吸』を生んだMr.Childrenの力強い「今」のロック感がひときわ伸びやかな一体感を描き出した、至上のステージだった。
Mr.Childrenのライブではお馴染みのSUNNY(Key・Vo・G)に加え、“忙しい僕ら”でアレンジを手掛けた世武裕子(Key)が新たにサポートメンバーとして参加した6人編成でこの日の舞台に臨んだMr.Children。
巨大会場につきもののビジョンの映像もない中、桜井を囲むようなシンプルな照明効果とともに“SINGLES”でライブはスタート。鈴木英哉(Dr)&中川敬輔(B)のタフなビートと田原健一(G)のソリッドなサウンドが吹き抜けの巨大建築物の如き迫力と開放感を生み出し、ステージと客席の距離を一気に無効化してみせる。
すると、続く“Monster”では舞台背後と両袖のLEDビジョンが点灯。背後のビジョンは時にメンバーとサウンドの背景を彩ったり、時に天井の低い屋根のように水平に近くまで傾いたり、と曲の展開に合わせて刻々とセッティングを変えていく(袖のビジョンも縦長だったり横長だったり曲によって回転)。そして、雄大なミディアムスロウのリズムに生命力を吹き込むような桜井の華麗なステップから流れ込んだ“himawari”では、舞台の床に設置されたLEDがさらなる鮮烈な視覚効果を生み――といった具合に、1曲ごとにステージのセッティングと見え方が変わるような意匠が施され、観る者すべてを驚きと感激の先へと導いていく。
“幻聴”では田原&中川が両袖に広く展開&桜井が舞台前方の花道に進み出て、一面のクラップとシンガロングをさらに壮大な歓喜の風景へと編み上げてみせる。
「何回か僕らのライブを観た人も、初めての人も、僕らとみなさんの出会いを祝して、この曲を贈ります――」という桜井のメッセージとともに披露されたのは“HANABI”。《もう一回 もう一回》のフレーズを会場に委ねる桜井に、満場の観客が高らかな大合唱で応えてみせる。
それこそ“Monster”や“NOT FOUND”、“ハル”など、ここ数年のツアーのメニューとは異なる選曲が印象的だった「重力と呼吸」ツアー。
ライブ中盤、「続いては、僕らが1996年にリリースした曲を……」という桜井の前置きとともに“花 -Mémento-Mori-”へ。花道にドラムがセッティングされ、縦に直列に並んで左右を向いた4人それぞれの立ち位置にスクリーンが現れ、あたかもアリーナ中央にもうひとつ横向きのメインステージが出現したようなスペシャルな効果を生み出しながら、22年前の剥き身の名曲にさらにビビッドな肉体性を注ぎ込み、今この瞬間にしなやかに解き放っていった。
そんなアクトの中でも、特に強靭な訴求力をもって響いていたのは『重力と呼吸』の楽曲群だった。《more more more!》のシンガロングに横アリが沸いた“addiction”の、武装も飾りも脱ぎ捨てたようなタイトで露わなビート感。「みんなを素っ裸にしたいと思います!」のコールとともに流れ込んだビートパンク直系ナンバー“海にて、心は裸になりたがる”のアグレッシブな疾走感が巻き起こす、真夏の熱風のような突き抜ける多幸感――。そんな『重力と呼吸』曲のひとつひとつと、“しるし”、“擬態”、“Worlds end”といった各年代の重要曲が織り重なって、2010年代が終わろうとする今この時代のロックとリアルを改めて構築し提示するかのようなスリリングな時間を繰り広げていく。
「実は僕ら、まだまだやりたいことがあって、憧れがあって、理想があって、夢があって。そこにはまだ辿り着いてないけど、今からでも遅くない、一歩ずつでもいいから、ちょっとずつでもいいから近づいて行きたい――そんなふうに思いながら、新しいアルバムの制作に入りました」
本編終盤、桜井がひと言ずつ噛み締めるように静かに語りかける。「ティーンエイジャーでなくても、『今から少しずつそこに近づいて行きたい』と思ってていいと思ってます。僕らにも、みんなにも、まだまだ伸びしろがあるんだと、そう信じてます」……そんな言葉とともに『重力と呼吸』から届けられた“皮膚呼吸”の、《I’m still dreamin’, I’m still believin’/I can’t stop dreamin’》という桜井自身の決意を歌ったフレーズが、この場に集まった人すべてへの何よりのエールとして響いた。
アンコールでは“here comes my love”から流れ込んだ“風と星とメビウスの輪”の桜井渾身のスクリームが横アリを感激と戦慄で包み、そこから一転「公園のベンチに座ってるような気持ちで……」と“秋がくれた切符”で穏やかな景色を描き上げていく。
「最後の最後に、僕らの情熱と愛情のすべてをこの曲に乗せて――みんなの歌です。みんなへの歌です」というコールに続けて披露したこの日最後の曲はもちろん、『重力と呼吸』のリード曲“Your Song”。どれだけの音圧の轟音や精緻なプログラミングを尽くしても辿り着けない、Mr.Childrenのロックでしか到達できないスケール感と包容力が、この日のライブには徹頭徹尾満ちあふれていて、胸が熱くなった。
「重力と呼吸」ツアーは来年=2019年2月の台北アリーナ公演をもって終幕を迎える。デビュー27年目にしてさらなる進化を遂げたモンスターバンドの「その先」に抑え難く心躍る一夜だった。(高橋智樹)
終演後ブログ