トップ・バッターはTOTALFATだ。メロディックだがそれに加えてハード&ヘヴィな、パンクとハード・ロックを等価に愛するTOTALFAT節が序盤から全開になっていく。シンプルで実に入り易いコーラス・フレーズを楽曲に織り交ぜるのがうまく、ファンを中心に早くもシンガロングが広がっていった。Shunが「俺らもこれ終わったらすぐそっちに行くんで!」とか「NFGは03年の初来日から何回も見てる」と、溢れ出るリスペクト精神を隠さない。でも、やはり日本人ならではの勤勉さ/几帳面さがそうさせるのか、ガッチリした演奏という意味ではむしろ今回の出演者の中でもトップだった気がする。この5月にリリース予定の新作の収録曲も織り交ぜながら、果敢なプレイでオーディエンスを焚き付けてくれた。
続いてはNFGと同郷のフロリダ出身、アンバーリンである。ダーク&ゴシックな美をエモな演奏で描いていくスタイルは、この顔ぶれの中でもやはり独特の存在感を放っている。スティーヴンの艶のある歌声も、そんな音世界の中でよく映える。のだが、いまひとつそのスティーヴンの喉の調子が上がりきらない。時折メロディ・ラインを中断してコーラスに預けてしまったりする。Drive-Thru時代の曲から、メジャー・デビューの最新AL『ニュー・サレンダー』のリード曲“ブレイキング”まで、持ち時間の割にキャリアの中から広く選曲していて熱心なファンには喜ばれていたが、スティーヴンは終盤、何かを振り切るようにして咆哮をあげた。表現する世界は特別なものであるだけに、やや不完全燃焼な感じが残念だった。
さて、今度はダラスのエレ・パワー・ポップ集団、フォーエヴァー・ザ・シッケスト・キッズだ。昨年のサマソニと直後の1公演しか日本国内でのステージを経験していないのに、“崖の上のポニョ”のオープニングSEと共に沸き上がった歓声は凄かった。かなりの人気者である。ケントが狂おしくチャーミングなキーボード・サウンドを打ち鳴らし、ジョナサンは中央に置かれた機材ケースをお立ち台にして煽り立てる。歌メロをいきなりオーディエンスに丸投げしてしまったりするのだが、それにきっちりと応えるファンが素晴らしい。「去年サマーソニックに来た人いる?」大きな歓声でレスポンスが返る。「俺たちは去年サマーソニックで初来日して、今回また日本に来たよ。また戻ってきた理由は、みんながこうして歌ってくれるからだ」。ますますシンガロングの輪が広がってゆく。美しい光景だ。演奏は、目立って凄いことをやっているわけではない。エレ・ポップとメロディック・パンクとエモが好き勝手に混じり合って生み出された、年寄りの歴史の都合なんか知るか、という感じの若くて自由でたくましいポップ・ミュージックである。それをファンががっちり受け止めて、ステージ上にエネルギーを投げ返している。相乗効果で会場のヴォルテージが天井知らずに高まってゆく。なんか目頭が熱くなってきた。遂にはジョナサンがフロアの柵によじ登り、オーディエンスとゼロ距離で共に歌う。最後の“ワァー・オゥ!ボクは追い込まれた”では、シンガロングとスウェイとクラウドサーフが同時に巻き起こるという歓喜のカオスへ。なんだこりゃ。多分みんなは、ここに新しい「発明」が起こっていることに気付いていない。バンドもファンも、ただ楽しんでいるだけだ。そうなんだよ、歴史の定義なんてのは、ただ事実のあとに付いてくるだけなんだ。
いよいよニュー・ファウンド・グローリーである。“ロッキーのテーマ”に乗って登場したメンバーは、「日本」と書かれたベタな日の丸ハチマキ姿だ。そういう直球のおバカっぷりが、彼らの人気を根底で支えてるのかも知れない。ポップ・パンクのヴァイブス。オーディエンスが身につけているNFGのオフィシャルTシャツには「POP PUNKS NOT DEAD」とバックプリントされたタイプのものも目立つ。“オール・ダウンヒル・フロム・ヒア”から、いきなりのシンガロングが開始された。エピタフに移籍して初となる最新アルバムからのナンバー“ドント・レット・ハー・プル”に至っても、多くのオーディエンスに歌われている。“トゥルース・オブ・マイ・ユース”ではチャドの電光石火のような必殺ギター・フレーズが煌めき、歓声が上がる。更には上半身裸のイアンがヘヴィ級のベース・イントロから“シンシアリー・ミー”へ。歌わせるポイントと聴かせるポイントが見事なバランスで両立している。「サマーソニックでも会った?暑い日だったよな」と、まるで友達と話すようなノリでMCを挟み込むのはチャドである。疾走感溢れる“フェイラーズ・ノット・フラタリング”、力強いリフが刻まれる“ドレスト・トゥ・キル”と、キャリアを俯瞰したまさにオール・タイム・ベストな選曲。と思えば、ジョーダンがご機嫌に「アーリガットー、ドモアリガットー♪」とアドリブで作曲して勝手に歌い出したりしている。それにサッとビートを加えてゆくのはナイスなバイラスである。“ヘッド・オン・コリジョン”の後はシックスペンス・ノン・ザ・リッチャー“キス・ミー”のカヴァー投下だ。パンクがポップで、ポップがパンクなステージ。メロディック・パンク・バンドとして後発だったNFGは、だからこそパンクを徹底的にポップなものにし、ポップをパンクに鳴らすのだろう。そこにアイデンティティの置き所と、きっと何か生き甲斐のようなものが、あるのだろう。
アンコールはイアンの見事なヒューマン・ビートボクシングで始まった。ジョーダンがそこにおかしなラップを乗せる。調子に乗ってそのままオーラル・テクニックだけでマイケル・ジャクソンの“ビリー・ジーン”までやってしまいそうな二人である。さあ、本当のラストは“マイ・フレンズ・オーヴァー・ユー”だ。フロア後方まで照明が当てられ、特大シンガロングが視覚的にも実感できる光景となっていた。ポップ・パンクは、終われないのである。それはもはや、バンドの手を離れた歌だからだ。(小池宏和)