●セットリスト
1.お人好しカメレオン
2.シャンデリア・ワルツ
3.君の瞳に恋してない
4.流星のスコール
5.instant EGOIST
6.リニアブルーを聴きながら
7.Invisible Sensation
8.8月、昼中の流れ星と飛行機雲
9.オトノバ中間試験
10.カウンターアイデンティティ
11.Catch up, latency
12.プログラムcontinued (15th style)
13.黄昏インザスパイ
14.春が来てぼくら
15.水と雨について
16.harmonized finale
17.cody beats
18.10% roll, 10% romance
19.天国と地獄
20.fake town baby
21.徹頭徹尾夜な夜なドライブ
22.シュガーソングとビターステップ
23.さわれない歌
24.桜のあと(all quartets lead to the?)
25.オリオンをなぞる
26.センチメンタルピリオド
定刻になると、斎藤宏介(Vo・G)、田淵智也(B)、鈴木貴雄(Dr)が登場。タイムラグのため、拍手の波が前から後ろへ広がっていくなか、演奏に臨む3人の真剣な面持ちが上手/下手に設置された大型スクリーンに映された。斎藤のアカペラから始まったのは4thアルバム『CIDER ROAD』収録曲“お人好しカメレオン”。曲が終わり、ジャカジャカとギターを鳴らす斎藤は下を向いているが、口角はわずかに上がっており、カメラがそれをすかさず捉えていた。
今年結成15周年を迎えたUNISON SQUARE GARDENは、アニバーサリー企画を中心に活動中。「今年は油断する」などと言いながら普段ならばおおよそやらないようなことを多数やっており、15周年記念ライブ=「プログラム15th」もそのうちの一つだ。ライブハウスやホールを中心に全国をまわるこのバンドは基本的に「君の街に行くから来たければ来ればいい」というスタンスだが、今回の会場はフェスが行われるような野外の大スペースであり、田淵は珍しくファンに対して「待ってるぞ。来てくれ。」と言っている。つまりこの日のライブは、通常営業からは大きく逸脱した、たまのお祭りのようなもの。……とはいえ、これまでライブで一度も演奏されたことのない曲が1曲目に選ばれるなんて、誰が想像していただろうか。曇天の空の下、白い雲の向こう側に行ってしまいそうな速度で過ぎていく斎藤の「ようこそ!」。彼が「今日は長いよ!」と投げかけると、歓迎の意を示すようにオーディエンスが歓声を上げた。
ちょうどそよ風が吹き、野外ならではの風情が生まれた“8月、昼中の流れ星と飛行機雲”、約2万5千人の「物好き」が集まったこの場でやるからこその痛快さがあった“オトノバ中間試験”など、次々と曲を披露。“Catch up, latency”は最後の音を伸ばさず短めに留め、気がつけば次の“プログラムcontinued (15th style)”に突入している流れだ。“プログラムcontinued (15th style)”は、10周年の時に作られた曲の歌詞を15周年仕様に書き換えたもの。こういうタイプの曲は、ライブの終盤や泣けるMCのあとに演るのが鉄板だと思うが、そうはせず、サラッと忍ばせる感じが何とも心憎い。斎藤が「優しくなくても 正しくなくても 今日ぐらいは祝ってくれないかな」というフレーズを歌い終えると、それに応えるように拍手が発生。優しくなくて正しくないからこそ、ユニゾンがいいのだという人がこれだけたくさんいる。その事実に胸がいっぱいになってしまった。
まさに黄昏時に演奏された“黄昏インザスパイ”、《笑顔が溢れて 見たことない色になって 視界に収まらないから》というフレーズが奇しくもこの日の光景を言い当てていた“春が来てぼくら”とバラード2曲を経てMC。ここでは斎藤が、今では「(ライブで観客を)煽るのはダサい」とインタビューなどで発言しているが、初期の頃はユニゾンもそういうことをしていたと前置きしつつ、「黒歴史」として当時の自分たちの言動を紹介。そして「次の曲はちょっと当時を思い返して、インディーズの頃によくやってた曲をやってみたいと思います」と“水と雨について”へ繋げた。同曲ももちろん良かったが、次に演奏された“harmonized finale”の懐の深さも印象に残っている。この曲の時はスクリーンに映るメンバーの表情も一際穏やかだった。
“10% roll, 10% romance”演奏後、「オンドラムス、タカオ・スズキ!」(斎藤)と鈴木のドラムソロへ。展開が進むにつれて月が満ちていく映像演出や同期の導入など、これまでになかった要素を取り入れつつ、ファンが思わずニヤリとするような他曲からの引用も。スポットライトが激しく明滅するなか、怒涛の連打で5分に及ぶソロを締め括ると、観客に背を見せながらポーズをとり、歓声を浴びたのだった。3人での演奏に戻ると、やがて聞き覚えのあるコードが鳴り、斎藤の威勢のよいタイトルコールから“天国と地獄”へ。この頃になると日は完全に落ちていて、ビビッドな照明もよく映える。夜の闇の中での“徹頭徹尾夜な夜なドライブ”はハイにならざるをえない。
2度目のMCではまず斎藤が、15年間自分たちだけのために音楽をやってきたにもかかわらず、ファンやスタッフに恵まれている現状に触れ、「これは当たり前ではないことだと思ってます」とコメント。さらに「僕はUNISON SQUARE GARDENを好きな人のことをできるだけ大切にしたいと思ってます。で、どうやったら大切にできるかを知ってます。それは、これからも自分たちだけのために音楽を続けること」とバンドの変わらぬスタンスを改めて明言し、観客への感謝を伝えた。
そして普段のライブではMCをしない2人も今日ばかりはマイクへ向かう。「ドラマーは料理における器、音楽におけるスピーカーみたいなもの」と語った鈴木は「才能ある2人に見捨てられず、今日ここに立ててること――」と続けると思いきや、「いや、今日のライブカッコいいわ!」とストレートに表現。「これからもよろしく……とは言わないけど、今日まで好きでいてくれた人、今日初めて来てくれた人の心に火をつけられるようにドラムを叩いていきたいと思います」と締め括った。一方、田淵は腕を組み数秒間黙ったままだったが、「UNISON SQUARE GARDENっちゅーのはスッゲーバンドだな! 今日はよく来た! またやるぞー!」と一言。全開の笑顔で大きく万歳したのだった。
その後、「よし、やりますか」と斎藤が歌い始めたのは《僕が今日も旅に出る理由は/多分君には教えないけれど》の一節であり、“さわれない歌”から演奏が再開したのだから、これはもう、グッとこないわけがない。戯れ合うように音を合わせる3人の姿がどこまでも眩しかった“桜のあと(all quartets lead to the?)”、《僕がいて あなたがいて それだけで 十分かな》の《あなた》の部分が強めに歌われた“オリオンをなぞる”――とクライマックスへ向かうなか、セッションとタイトルコールを経て始まったこの日最後の曲は“センチメンタルピリオド”。2008年にリリースされたメジャーデビュー曲だった。爽快に疾走しながらも、一音一音、真ん中を射抜くように。世界の音に耳を塞ぎ、背伸びしながらロックを鳴らしていたかつての少年へ、あの頃より大人になった、しかしそれでもロックバンドを続けている3人が投げかける“センチメンタルピリオド”。
全26曲、2時間半に及んだライブは、時には迷いながらも、ひとつの道を貫き続けた彼らの15年の結晶そのもの。バンドの哲学を色濃く反映した歌詞の一つひとつを今ここで聴く感慨や、どこまでも瑞々しい3ピースサウンドに対する高揚感を抱きながら、私たちは何度も「ユニゾンに出会えてよかった」という気持ちをじっくり噛み締めていたのだ。人知れず抱いたこの感情が、誰のどんな言葉にも侵されないものであることを、彼らがその音で証明してみせたのはこれでもう何度目だろうか。
ベースを置いてハンドスプリングし始めた田淵が再び楽器を構えるのを待ち、3人がジャーンと音を合わせる。去り際、斎藤がいつもと同じように「UNISON SQUARE GARDENでした! バイバイ!」と挨拶し、とうとうライブが終了。――と思いきや、スクリーン上に「2004」と映り、そこから数字がカウントアップ。その意味に気づいた人から順に声を出してカウントを行うなか、15発の花火が上がったのだった(これがこの日唯一の特効である)。UNISON SQUARE GARDENだけのために上がる花火がとてつもなく美しかったことについてはもはや語るまでもないだろう。UNISON SQUARE GARDENを好きでよかったし、そのような感性を持ち合わせた自分のことを誇りにすら思う。……って、祝いに行ったつもりだったのに逆に励まされてしまったなあとも感じつつ。本当に、素晴らしいライブだった。(蜂須賀ちなみ)