今年1月に発表した2ndアルバム『ワールド イズ ユアーズ』が各方面で反響を呼び、リリース・ツアーも2月5日から彼女たちの地元・神戸よりスタート。MASS OF THE FERMENTING DREGS、その第二章は何もかも順調に推移しているように思えたが、5本を終えたところでベース&ボーカルの宮本菜津子(以下、なっちゃん)の、以前から痛めていたという声帯が悪化。“慢性声帯炎”との診断で、このまま続行すれば今後のミュージシャン生命にもかかわるとあって、後半6本を断腸の思いでキャンセル(6月に延期公演が決定!)。キャリア始まって以来の試練を乗り越えて迎えたこの渋谷クアトロ・ワンマンだ。ソールド・アウトの盛況となった会場には、晴れ晴れしい待望感のようなムードがみっちり充満している。すごい熱気だ。
午後6時40分。場内の暗転とともに沸きあがった大歓声のなか、ドラムス・吉野功、ギター・石本知恵美、そして満面の笑顔でなっちゃんが登場。復活を高々とアピールするように、両の手でピース・サインをかざしている。そして威勢良く「せ〜の!」と呼吸をあわせて、“She is inside, He is outside”へ突入。バシバシバシッとフラッシュ・ライトが明滅し、ものスゴい轟音がステージから溢れ出してくる。左からドラムス、ベース、ギターと半円状に陣取り、時おりアイ・コンタクトを交えてセッションする3人から発せられるのは、再びステージに立って、こうして音を鳴らせることへの光り輝くような歓喜だ。なっちゃんのノドの具合もすこぶる良好。フロアは特大のオイ・コールやモッシュに沸き立ち、クアトロは序盤から凄絶な盛り上がりとなった。
最初のMCでなっちゃん、「今回のことで、たくさんの人に心配やご迷惑をおかけしました」と、声を震わせて謝罪。責任感の強い彼女のこと、よほど今回のことで心を痛めたのだろう。「いろんな人に支えられて…・・・ひとりじゃないんやって気づきました」と、振り絞るように言葉を続けるうち、こらえ切れず涙が溢れ出てしまう。「頑張って!」とフロアからの声援に押されて、「ごめんやで、泣いて(苦笑)。今日はありがとうっていう気持ちを込めて、全曲やります!!」と力強く宣言。感傷を断ち切って“なんなん”を勇ましくプレイし、再びクアトロを轟音で埋め尽くしていくマスドレだった。
中盤にはコンピレーション・アルバム『Kill your TV’09』(4月22日リリース)へ提供した“ないものねだり”を披露。なっちゃんのピアノを交えた新境地といえる1曲で、ゲスト・ベーシストには『ワールド イズ ユアーズ』のプロデューサー・中尾憲太郎が登場! キーボードの設定ミスでいきなり急停車するも、イカれた前衛ジャズ・セッションみたいな疾走感がマジかっこいい! 続けて“そのスピードの先へ”もピアノ・アレンジで届けられ、4人のスリリングなせめぎ合いがクアトロをどこまでも熱狂させていくのだった(「いっそのこと加入しちゃえばいいのに!」と思っちゃったくらい、マスドレとハモりまくりの憲太郎さんでした。再演、熱望します!)。
フィナーレを迎える前には、「後ろまで見えるように」と客電が全開に。ステージに向けて数えきれないくらいのコブシが屹立する様は、掛け値なしに感動的な光景だった。ほんと、スゲぇ温かい空間だったなあ、今夜のクアトロは(来場していたLOW IQ イッチャンも、「よかったね〜! センスがいい!!」と惜しみない絶賛を送っておりました)。完全復活を遂げたマスドレ、延期公演でもきっと胸の抄くようなリベンジを果たしてくれるはずだ。(奥村明裕)
1.She is inside, He is outside
2.I F A SURFER
3.青い、濃い、橙色の日
4.RAT
5.なんなん
6.さんざめく
7.delusionalism
8.エンドロール
9.ないものねだり
10.このスピードの先へ
11.かくいうもの
12.skabetty
13.ワールドイズユアーズ
14.ハイライト
15.ベアーズ