ずっと真夜中でいいのに。/「オンラインライブ NIWA TO NIRA(有料)」

ずっと真夜中でいいのに。/「オンラインライブ NIWA TO NIRA(有料)」 - All Photo by 鳥居洋介All Photo by 鳥居洋介
最新ミニアルバム『朗らかな皮膚とて不服』リリースの翌日に、ずっと真夜中でいいのに。が開催した「オンラインライブ NIWA TO NIRA(有料)」。この日はそもそも、幕張メッセ幕張イベントホール2Days「クリーニングライブ『定期連絡の業務』」2日目の延期日程だったが、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、同公演は2021年5月に再延期となった。自宅からのライブ配信「お風呂場ライブ 定期連絡の業務」などもあったけれど、フルバンド編成によるライブ披露は今回が2020年に入って初めてである。

2018年にYouTubeでの初めてのMV投稿で一躍注目を集め、2019年にツアーや大型フェス出演、初のフルアルバム発表を経てきたずとまよは、本来であればこの2020年、「体験するべきライブ」に一層尽力するはずだったろう。ただアーティストの姿を目の当たりにし、楽曲に触れるだけには留まらない、キッチュであり愛らしくもあり、そして切迫した感情が込められた唯一無二の世界が、ずとまよのライブ表現にはある。もちろん、今回のライブもそうなったし、素晴らしい内容だった。ただ、それは決してリアルライブに代替するものではなく、「体験するべきライブ」への飢餓感を増幅させるものに他ならなかったのだ。終演後に映し出されたACAねによる直筆メッセージの最後の一文「会ってライブしたいねえ…」は、視聴者が抱く飢餓感にしっかりと寄り添っていたはずだ。

ずっと真夜中でいいのに。/「オンラインライブ NIWA TO NIRA(有料)」
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退廃した生活感を受け止めさせる、ずとまよらしい幻想的なステージ装飾。吊るされた薬缶からは湯気が立ち上り、姿を見せたACAねはおもむろに、包丁を手に夏野菜を切り始める。ニラを切る音とビートが次第にシンクロし、不思議な光景が自然に音楽と溶け合って今回のステージは始まった。バンドメンバーは、村山☆潤(Key・Manipulator/Band Master)、河村吉宏(Dr)、二家本亮介(B)、佐々木“コジロー”貴之(G・Violin)、西村奈央(Key)ら“低血ボルト”参加ミュージシャンの顔ぶれと、以前にもライブ共演を果たしているOpen Reel Ensembleの和田永(Open Reel・TV Drums)、吉田悠(Open Reel)、吉田匡(Open Reel・Tape Recordion)。互いが互いに、卓越した演奏技術と遊び心を引き出すようにしながら、生々しいダイナミズムを育んでゆく。

そして何より、痛ましいトーンを振りまきながら、決して破綻することなく凛とした魂の輪郭を浮かび上がらせるACAねの歌である。MCでは途端におずおずとした口調になるのに、歌っているときの彼女は配信映像でも巨大な存在として目に映る。敢えてハンディカメラを用いた映像も、演奏の生々しい躍動感を助長していた。バンドメンバーが会場屋外のプールサイドに移動して演奏する一幕もあり、ここではオープンリールと鍵盤によるメロウで物憂いサウンドが印象的な“マリンブルーの庭園”など、過去の楽曲も含めた夏に相応しい選曲が並んだ。ACAねが切った夏野菜を、串焼きのバーベキューにする様子も楽しそうだ。2020年の夏は、決して失われた季節ではない、とでも言うように。

また、和田永が自身のプロジェクト=「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」で取り組んでいる、古い家電製品を再利用したユニークな電磁楽器の活躍は、ライブ映像としてのインパクトも絶大であった。ブラウン管打楽器はそれぞれにノイズ混じりの個性豊かな音色を奏で(“お勉強しといてよ”のMVにちなんで「強」の文字が浮かぶブラウン管も)、扇風機を流用した扇風琴は、ファンの回転が音色の変化をもたらす仕組みなのだという。実験的・前衛的でありながらも見るからにポップで楽しい、そんなクリエイターたちのイマジネーションと絶えず交差してゆくのが、ずとまよというプロジェクトなのだ。

ずっと真夜中でいいのに。/「オンラインライブ NIWA TO NIRA(有料)」
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参加ミュージシャンのもたらす技術とアイデアがひたすらに雄弁だからこそ、こう書くとずいぶん混沌とした演奏に思われてしまうかも知れない。しかしとりわけ圧巻だったのは、ACAねの歌を軸にしながらグッとタイトに、ロックなアタック感をもって奏でられた“低血ボルト”以降の展開だった。理解を求め、しかしそれ以上に上辺だけの共鳴を疑う、どこまでもナイーブな自我の強烈な迸りが、確かにこのときのパフォーマンスには感じられていた。『朗らかな皮膚とて不服』という新作がそうであるように、ずとまよはリスナーに挑むようにして、より深い理解を求めてゆく。ACAねはそのときどうしても、生の、リアルなレスポンスを欲しているのだと思う。

その場にオーディエンスがいないにもかかわらず、切にリスナーの歌声を求める瞬間もあった。いつか必ず、再会して共有されなければならない時間。パフォーマンスが素晴らしければ素晴らしいほどに、それをひしひしと感じさせる配信ライブであった。ずとまよのライブ体験は、もっと凄いものになる。我々も、心して準備しておかなければならない。(小池宏和)

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