ノー・エイジ @ 代官山UNIT

形としてはノー・エイジの来日公演にテレパシーとにせんねんもんだいがゲスト参加、ということになっている今回のライブ、最初に登場したのはにせんねんもんだいだった。ちなみにこの3組の結成年は、ノー・エイジが2006年、テレパシーが2004年で、1999年結成のにせんねんもんだいはバンドの存続期間という点では一番長いということになる(テレパシーとノー・エイジのメンバーもそれ以前に別のバンドをやっていたので、キャリア自体の長さはあまり変わらない)。東海岸、西海岸、東京と活動の中心地は遠く離れているし、音楽性にも全くといっていいほど共通点がない彼らだけれど、その共演が比較的すんなりと納得できるのは、彼らがいずれも自分たちの表現手法に対してきわめて意識的であるという点で共通しているからだろう。ちなみに、にせんねんもんだいはかつてアメリカ・ツアーですでにノー・エイジと共演済み。

5月3日に35分の表題曲1曲だけを収録したEP『FAN』をリリースしたばかりのにせんねんもんだい、やはり最初は“FAN”だった。CDと同様、サンプリングされたギターの音が反復されながらゆっくりとそのパターンを変え、そこにギター、バスドラ、シンバル、ベースの順で全ての音が追加されるまで、実に10分近くが経過する。けれど不思議と飽きが来ない。むしろ時間が経つにつれ、会場全体が演奏に集中していくのが感じられる。たぶん、音が1つ増えるたび、それまで鳴っていた音の聴こえ方、音の相対的な位置のようなものががらりと変わり、新たな展望が開けていく驚きがあるからだろう。

すべての音が出揃ってからは徐々にドラムの演奏が加熱していく。ドラムとベースは同じパターンを繰り返すだけ、というかなりドライで理念的なスタートをしたはずのこの曲が、いつの間にか激しく感情に訴えるものになっていることに、このあたりでふと気づくことになる。でもどこにその境界があったのか、うまく思い出せない。醒めた頭のままで激していくような分裂した作業が、彼女たちは本当にうまいと思う。2曲目では切れ目なく変化していく曲(数曲?)を演奏し、「ありがとうございます。にせんねんもんだいでした」とその張りつめた演奏とは裏腹な、頼りなげな声で挨拶をして終了。

ブルックリンの別々のバンドでそれぞれギターとドラムを演奏していたメリッサとビジーが、フリー・フォームな表現を目指して結成されたというテレパシー。なんといっても注目すべきは、今年1月にリリースしたデビュー・アルバム『ダンス・マザー』が、彼女たちの活動に目を留めたTVオン・ザ・レディオのデヴィッド・シーテックによってプロデュースされているということだろう。

向かって右手に立ったメリッサは街でたくさんの日本人がマスクをしているのに興味を持ったのか、マスクをつけて登場。「ハイ、トウキョウ、私たちテレパシー」と小さな声で言ってマスクを外すと、1曲目の“マイケル”へ。彼女たちのレパートリーの中では珍しくキャッチーで明確なメロディを持った曲だ。

2人で歌う曲も多いけれど、どちらかといえばメリッサがメイン・ボーカルのようで、ビジーは曲によってキーボードを弾いたり、小型のエレクトロニック・ドラムを叩いたりもしている。最後の“ソー・ファイン”ではメリッサが背後の機材に乗って歌ったりもしたが、全体として動きは少なく、淡々と曲をこなしていた。

ただ演奏を聴きながら、彼女たちの場合、他のバンドに比べて言葉の壁の問題が大きいだろうなと思った。すごくなんとなくの印象だけれど、“マイケル”のようなメロディアスな曲は別として、テレパシーのシンセサイザー・サウンドは、ボーカルのメロディよりは、歌詞の意味と響き合っているように感じられる。シンセサイザーの音とボーカルのメロディが一体になって空間に広がるというより、まず歌詞の世界、聴き手の頭の中で展開する世界ありきで、その上でサウンドがその世界を補完し、増幅させているように感じられるのだ。例えば6曲目に演奏された“デヴィルズ・トライデント”のボーカルがメロディを失ってポエトリー・リーディングの領域に入っていることや、こういう音を鳴らすバンドにしては意外なほど歌詞の量が多いこと(アルバムにインストゥルメンタル曲は1曲もない)は、彼女たちにどこかストーリーテラーのような印象を与えている。

最後はノー・エイジ。ロサンジェルスのダウンタウンにあるライブ・ハウス「ザ・スメル」で2002年からライブ活動を始めて以来(当時はワイヴズとして活動)、その運営にも関わっている彼ら。トイレを増設するためにコンクリートに溝を掘って配管したりもしたのだとか。2007年には5つのレーベルから5枚のEPを同日にリリースし、それをコンピレーション・アルバム『ウィアード・リッパーズ』にまとめている(そのジャケット写真が「ザ・スメル」)。その後<サブ・ポップ>レーベルと契約し、2008年5月、『ノウンズ』をリリース。ピッチフォークが9.2点を与えるなど各メディアから高評価を得て、今年1月の国内盤リリースに至った。

今回のライブはまずランディのギター・ノイズで始まった。2007年にノー・エイジの特集記事を掲載したニューヨーカー誌は、これを「3人で演奏しているようなノイズ」と表現している。どういうエフェクトをかけているのか分からないけど、中核となっているきれいなメロディの周りで同時に激しいノイズが鳴っている。やがて膝に手をついて中腰で会場の様子を窺っていたドラムのディーンが椅子に座り、これまたニューヨーカー誌に「blunt(なまくら)」と形容された、まさに刃先の丸くなった刃物で無理やり殴りつけるような激しいプレイを見せ、“ティーン・クリープス”に入っていく。

曲が終わって歓声が起きると、ディーンが「ありがと。ハロー、トウキョウ」、ランディが「こんばんは、トウキョウ」と日本語で挨拶。それから2枚のアルバムの収録曲を織り交ぜつつ数曲演奏し、新曲も披露される。ノイジーなギターに合わせてヘッドバンギングしたり、“ネック・エスケイパー”では指弾きでアルペジオを奏でたりと、ランディの演奏はかなり多彩だ。

10曲演奏すると、「ごめん、日本語下手だから英語で話すよ。いい日本語の先生はいるんだけどさ。次の曲は新曲で、このツアーで初めて演奏するんだ」とランディが話し、またもや新曲を披露。やはりスピードのある激しい曲だが、テーマ部が繰り返し演奏され、これまでの彼らの曲に比べてやや長めなのが印象的。続けて、「じゃあ、古いやつを」と言って始められたのは人気曲“イレイサー”。『ノウンズ』の国内盤リリースは今年なのでなんとなく新しい印象があったけれど、言われてみれば本国でのリリースはちょうど1年前だし、彼らにとっては古い曲になるんだなと納得。

最後の曲“マイナー”が終わると、ディーンが「アリガトウ」と言って2人ともステージを去るが、マイクにエフェクトがかけられていて、無人のステージに「アリガトウ」が繰り返し流れる。かっこいいけど、なんか怖い。再びステージに現れ、アンコールの“ボーイ・ヴォイド”、“エヴリバディーズ・ダウン”というノー・エイジの中でも最も激しい2曲の演奏中には、ディーンがバスドラの上に立ったり、アンプの上に乗ったランディをディーンが記念撮影したり、ギターが満員のフロアに放り込まれ、いっせいに飛びついたオーディエンスの手から手へギターが渡っていくうちに結構いいノイズが出たり、とやりたい放題。最後はランディがアンプの電源を切って演奏終了。ギターは無事ステージへ。

結成以来それぞれロサンジェルスとブルックリンの文化に密着して活動を続けているノー・エイジとテレパシー、そして5月29日から3度目のヨーロッパ・ツアーを控えているにせんねんもんだいと、ローカルでありながら世界各地に熱心なファンを持つ彼らのライブからは、東京のファンを受け入れ、より広がりのある世界へ連れて行くような、敷居の低さと奥行きの広さが感じられた。決してアリーナをいっぱいにするようなバンドではない彼らだが、そのステージでは2009年、「今」の音楽が確かに奏でられていた。(高久聡明)

テレパシー
1.マイケル
2.イン・ユア・ライン
3.クロームズ・オン・イット
4.ヒート
5.ライツ・ゴー・ダウン
6.デヴィルズ・トライデント
7.ソー・ファイン

ノー・エイジ
1.ランド・カルリジアン
2.ティーン・クリープス
3.ヒア・シュッド・ビー・マイ・ホーム
4.カッポ
5.エヴリ・アーティスト・ニーズ・ア・トラジディ
6.マイ・ライフズ・オールライト・ウィズアウト・ユー
7.新曲
8.ネック・エスケイパー
9.デッド・プレイン
10.スリーパー・ホールド
11.フィーヴァー・ドリーミン(新曲)
12.イレイサー
13.ブレイン・バーナー
14.マイナー

アンコール
15.ボーイ・ヴォイド
16.エヴリバディーズ・ダウン
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