都心近くの緑豊かな環境で、老若男女を問わず、レジャーシートに座ってゆったりと音楽に浸ることのできる新たな形のフェスを目指し、高橋幸宏とアートディレクターの信藤三雄が昨年からスタートさせたWorld Happiness。この日のために託児室や、8歳以下の子どもが遊ぶことのできる「キッズランド」が設けられた新木場・夢の島公園陸上競技場には、他のフェスに比べてかなり多くの30代〜40代の観客が足を運んだ。子どもたちもちらほらいて、お父さんに肩車してもらっている姿も見られる。
客席は競技場の芝生部分で、そこに入り口でもらったシートを敷いて座る形式になっている。正面にセンター・ステージ、向かって左隣に小さめのレフト・ステージ。一方のステージで演奏を行っているあいだにもう片方では次のアーティストのセッティングが行われ、待ち時間なく交互にライブを楽しめるという仕組み。センター・ステージには巨大なスクリーンもついている。
以下、14組と多いので簡単に触れるだけになってしまいますが、注目のアーティストばかりなので全出演者のレポートをします。
mi-gu(13時/レフト・ステージ)
トップバッターは、CORNELIUSを始め、錚々たるアーティストたちのサポート・ドラマーを務めており、この5月には自身の3rdアルバムもリリースしたあらきゆうこのソロ・プロジェクト、mi-gu。「みなさん暑いので水分補給ちゃんとしてくださいね」と観客に気を配りながら、テクニカルなドラムとボーカルをこなす彼女の音楽の異次元的な広がり方には、どこか先日フジロックで来日したゴングに似たものを感じた。新作のSFっぽいテーマのせいかもしれない。
pupa(13時20分/センター・ステージ)
「僕は天気には強いので、適度な風をこれから吹かせます。最後まで楽しんでいって下さい」と主催者らしいMCを行った高橋幸宏の呼びかけにより結成されたpupaは、去年に続き2度目の出演。今日は他にもLOVE PSYCHEDELICOにCharaにYMOのサポートと大忙しの権藤知彦が吹く、ホルンとトランペットが一緒になったみたいな楽器(ユーフォニアムというそうだ)の牧歌的な響きが、エレクトロニクスと気持ちよく絡み合う。曲によって変わるメイン・ボーカルの後ろに常時2人くらいがコーラスにつき、各曲に温かな感触を与えていた。
コトリンゴ(13時50分/レフト・ステージ)
綺麗な白のワンピースでレフト・ステージのピアノに座ったコトリンゴは、「こんにちは、コトリンゴです。わあーっ」と手を振る観客に楽しそうに応える。遠くから見ていてもほれぼれとしてしまう柔らかなタッチから、技量が技量として完結せずに、曲の世界を自然に拡げていくような伴奏が展開され、そこに染み通るような歌声が乗せられる。
LOVE PSYCHEDELICO(14時15分/センター・ステージ)
ステージに現れたボーカルのKUMIが客席に向かって大きく手を振って声を上げたとき、「おー、フェスっぽい!」と思ってしまった。ここまでじっくりと聴かせるアーティストが続いていたので、急に目を覚まされたような感じがしたのだ。人気曲“Last Smile”から、フェス映えするラストの“Lady Madonna”に入る頃には、客席はほぼ総立ちでダンス。この“Lady Madonna”は途切れなくYellow Magic Orchestra の“NICE AGE”になったり、また戻ったりして、YMOへのオマージュにもなっていた。
高野寛(14時45分/レフト・ステージ)
代表曲“ベステンダンク”、“虹の都”、“夢の中で会えるでしょう”に加え、6月リリースの新曲“Black & White”を披露してくれた高野寛。持ち前のアップビートで、ポジティブで、ポップな楽曲を歌っているときには表情があまり変わらないが、MCでは笑顔がこぼれる。「昨日ふと気づいたんですが、86年にオーディションを受けたときの審査員が高橋幸宏さんとムーンライダーズで、司会者がいとうせいこうさんだったんですね。今日はその人たちの前で23年ぶりに演奏するわけです」と、この日の不思議な巡り合わせについても話してくれた。
Y. Sunahara(15時05分/センター・ステージ)
「The next performing artist is…Y. Sunahara!」と他のアーティストと同じようにスクリーン上で紹介されると、ひときわ大きな歓声が上がった。無人のステージに曲だけが流れる中、1分ほど経ってからY. Sunaharaことまりん(こと砂原良徳)が、サポートの久川大志(ARM)とともに登場。先日LIQUIDROOMで7年ぶりのライブを行い、サマソニにも出演したばかりの彼のセットが始まってから、それまでの会場の雰囲気ががらりと変わったような気がした。曲ごとに用意された映像を観ながら聴いていると、競技場の周りの木立や、まだ明るい空が視界から後退していくような感覚がある。MCなどのアクションは一切なし。最後に一礼してステージを去っていった。
ASA-CHANG&巡礼(15時35分/レフト・ステージ)
6月にリリースされたニュー・アルバム『影のないヒト』のタイトル曲、すごくいいけど、やるのかな? フェス向きじゃないからやらないかな? と思っていたらやってくれた。「子どもが泣きそうな曲ランキング」をやったら1位になりそうなこの曲を、「World Happiness」という名のつく場所でやり、しかもそんな曲こそ逆に「World Happiness」というコンセプトに一番近い場所にいるのかもしれないと思わせる彼らはやはりすごい。少なくとも自分の周りに泣いている子どもはいなかった。そして演奏が終わったときの拍手は意外なほど大きかった。
スチャダラパー(16時00分/センター・ステージ)
照明が灯ったスチャダラパーのステージには、客席総立ちで団扇を振って応える。1曲目は大人気曲“今夜はブギーバック”、そして2曲目はロボ宙が加わった“BD発言”。歌詞に出てくる企業のロゴマークが1つずつスクリーンに映し出された“Under the Sun”の後には、BOSEが「平均年齢40! オモロー!」、そして「みんなちゃんと立って聴いてくれて、マンモスうれ○ーです」とMC。ヒプノティックな曲が続いてぼんやりしていた自分も、このMCでぱっちり目を覚ます。
THE DUB FLOWER(16時30分/レフト・ステージ)
「風に揺れる草花のようだぜ! 揺れろー!」と団扇を振るオーディエンスを煽るいとうせいこうが率いるTHE DUB FLOWERは、このフェスがお披露目ライブとなる。今のところ7月29日にリリースされた公式コンピレーション盤『World Happiness』だけで聴くことのできる“からっぽフレーバー”の次には、かせきさいだぁ≡がマイクをとる井上陽水の“傘がない”と、ボブ・マーリーの“Exodus”がドッキングしたカバー曲を披露。終盤にかけて演奏が次第にダビーになっていくにつれ、「囚われ人よ、自由を! ピース!」と叫ぶいとうせいこうのMCにも熱が入った。
Chara(16時55分/センター・ステージ)
紫のショート・パンツと五線譜入りのワンピースでセンター・ステージに登場したCharaは、観客のひとつひとつの歓声に応えながら、リラックスした様子で“やさしい気持ち”と“Junior Sweet”を歌う。「今日は新曲も歌います。えーと、知らない人もいるかもしれないけど、私は単純でまだ愛に生きたいのよっていう歌です」と言って始められたのは、7月29日にリリースされたばかりの新曲“Breaking Hearts”。コール&レスポンスでは、「女子の声しか聞こえなかった。もうちょっと愛されたいな」と笑っていた。
グラノーラ・ボーイズ(17時25分/レフト・ステージ)
全員アロハシャツで現れたのは、こちらも本フェスで初お目見えとなるキリンジ堀込高樹の新バンド、グラノーラ・ボーイズ。1曲目はマイケル・ジャクソンの“アイ・キャント・ヘルプ・イット”のカバーなのだが、ウッド・ベースとペダル・スティールの柔らかな音色がラテンのような、カントリーのような、ハワイアンのような雰囲気。曲によってはバンジョーやピアニカも用いつつ、ネイティブ・アメリカンのサックス奏者ジム・ペッパーの“Witch Tai To”のカバーや、黒澤映画『どですかでん』の主題歌を披露した。
ムーンライダーズ(17時50分/センター・ステージ)
胸に「SUZUKI」と書かれた赤のユニフォームに、黒のショート・パンツと赤のソックス、という完全にサッカーをしに来たいでたちの鈴木慶一。オープニングの“ヴィデオ・ボーイ”からビートを効かせた演奏にエネルギーがみなぎり、“ヤッホーヤッホーナンマイダ”では、「みんなで叫ぼう、No War! No Rain! No Pain! まっぴら、まっぴら!」と会場の合唱を誘った。ラストの“BEATITUDE”ではギターの白井良明と一緒にステージ最前列でステップを刻み、去り際にはサッカーボールを客席に蹴りこむサービスもあった。
相対性理論(18時30分/レフト・ステージ)
レフト・ステージ前にぎっしりと押し寄せた観客の前に、メンバーに続いてゆっくりと登場したボーカルのやくしまるえつこが「こんばんは、相対性理論です」と言って最初に披露された曲は“LOVEずっきゅん”。向かって右からドラム、ボーカル、ベース、ギターという変則的な立ち位置で、すべての楽曲の作詞・作曲を手がけているベースの真部脩一はギターの永井聖一とときおりアイコンタクトを取りながら演奏する。他に演奏されたのは最新アルバムから“地獄先生”、“テレ東”、アタックが強調されたベースが印象的な、CDとは別アレンジの“品川ナンバー”、そして未発表曲“ペペロンチーノ・キャンディ”。MCはなかったが、曲の間で涼しい風が吹いたときには「あ、東風吹いてきた」とYellow Magic Orchestraを意識した(?)発言があった。最後は「チャオ」と一言。
Yellow Magic Orchestra with小山田圭吾・高田漣・権藤知彦(19時00分/センター・ステージ)
国内野外イベントの出演は初めてというYellow Magic Orchestraのステージは、なんとビートルズの“ハロー・グッドバイ”で幕を開けた。原曲に忠実なアレンジと高橋幸宏のメロウなボーカルがこの曲の楽しさと切なさを100%引き出していて、とにかくいい。それから生演奏が強烈なグルーヴを生んでいた“Rescue”、小山田圭吾のライトハンド奏法によるギター・ソロが飛び出した“Thousand Knives”、YMOの3人全員で歌った“The City of Light”と続く。坂本龍一は途中、何度か白抜きで「PACE」(イタリア語で「平和」の意味)と書かれた虹色の「平和の旗」を振る。余計なアクションのない無色系の照明が煌々と会場を照らす中、本編最後に披露されたのは、グロッケンシュピールのような音色のテーマ部にどことなく喪失感が漂う“Rydeen 79/09”。アンコールは、あのコミカルなリフレインが鳴り出した瞬間に大歓声が起こった“Fire Cracker”。曲の終わりにはステージ前で花火が吹き出し、お揃いの黒のベストと白のシャツをまとった6人全員が前に並んで礼をした。(高久聡明)
World Happiness 2009 @ 夢の島公園陸上競技場
2009.08.09