パッション・ピット@原宿アストロホール

2008年に6曲入りEP『Chunk of Change』をリリースし、瞬く間に米インディーシーンを席巻した5人組エレクトロ・ポップ集団、パッション・ピット。昨年10月にデビュー・アルバム『!マナー』をリリースし、同アルバムを引っ提げた待望の来日公演。昨日の渋谷Duo Music Exchangeに続いて、本日原宿アストロホールでの追加公演もソールドアウトし、会場後方までオーディエンスが詰めかけすし詰め状態の超満員だ。

「ウォーミングアップがてら踊っていきましょう!」とまずはオープニング・アクトとして登場したThe Brixton Academyが、マンチェスター・サウンド全開のシンセ音とシンプルな4つ打ちリズムでフロアを温める。この日のために仕立ててきたというグレーのスーツに蝶ネクタイという出で立ちでキメた4人は、暗闇の中、極彩色の映像の光のみをライティングにしてダンサブルなナンバーを繰り出していった。ひたすらループする無機質なトラックの中にもシンセのフレーズを掛け合いながら速弾きで魅せるなど、どんどん熱を帯びていくバンド・サウンドにフロアからは歓声が沸き起こる。しかし、「もうすぐ Passion Pitだから、待ってくれ。まきで行くぞ! まかさせてくれ!」と若干自虐気味なメンバーたち。ラストは“Turn Around”のキャッチーなメロディに呑み込まれてフロアは身体を揺らした。

そして、お待ちかねのパッション・ピットが登場! もじゃもじゃ頭に髭をたくわえた赤いチェックのシャツが似合うフロントマン、マイケルを筆頭にオタクな風貌のメンバーがステージに現れるとフロアは忽ち大興奮。“アイヴ・ガッチュア・ナンバー”でライブがスタートするとフロアはハイジャンプで踊り狂う。マイケルはマイクをぶんぶん振り回しながら、どこからそんな声が出てるのかと疑いたくなるくらいに甲高いファルセットを余裕の表情で出していく。トラックメイカーとしての秀逸さはさることながら、ボーカリストとしての能力の高さも兼ね備えていて、野暮ったい風貌だけど歌っている時は見違えるほどに恰好よく見える。その分、MCの時の物腰柔らかなしゃべり方とのギャップが激しいのですが……。

“ザ・リーリング”でバキバキな4つ打ちリズムに踊らされ、“モスス・ウイングス”では高音メロディを一生懸命に大合唱。満面の笑みでオーディエンスにマイクを向けるマイケルがもの凄くキュートで、観ているこちらまでも温かい気分にさせてくれる。しかし、不思議なことにこんなにも楽しくて笑顔の絶えないポップなメロディラインなのに、そのメロディの中にはどこか切ない内にこもった悲哀が感じられるのだ。それはパッション・ピットの音楽が純正たるヘッドフォン・ミュージックだからなのだと思う。ライブやクラブでこうして盛り上がるのはもちろん当然のことだけど、“スウィミング・イン・ザ・フラッド”や“トゥ・キングダム・カム”のようなナンバーを聴いていると、音と一対一で向き合って奥深くのめりこんでいくような感覚になる。

彼らが多大なる影響を受けているという中田ヤスタカばりの極太キック音とアップリフティングなベースラインがたまらない“フォールズ・イン・ユア・ハンズ”から、一気にBPMを上げて“スマイル・アポン・ミー”へと全力疾走していったのにはフロアも堪らず両手を掲げて足を踏み鳴らしながら身体を揺らす。人を楽しませたり、盛り上げたりするのに、勢いでそれができる人と、緻密に練り上げてやる人といるけど、パッション・ピットの場合は明らかに後者だ。本編ラストのゴスペルのような壮大なコーラスを会場全員で大合唱した“リトル・シークレット”。このキラキラとした瑞々しいメロディーと弾むようなソウルフルなグルーヴは5人の音楽オタクが創り出した確信犯的ポップほかならない。

アンコールではなんとザ・クランベリーズの“ドリームス”のカバーを披露! BPMを上げて4つ打ち感を全面に出したパッション・ピット流“ドリームス”。意外性満載な選曲だったけど、これがまたマイケルの高音ファルセットがうまくマッチしていて良い! そして、最後は待ってましたの“スリーピーヘッド”。みんなこの曲を待っていた!と言わんばかりの大歓声がイントロのシンセをかき消すくらいの勢いで狂喜乱舞の祝祭ムードに。ハンドベルを全力で鳴らしてオーディエンスを煽っているのが、草食男子(?)5人組、パッション・ピットらしくてなんとも微笑ましかった。

今年の夏には再来日してくれるのかどうか、それはまだ分からないが、その時が本当に楽しみで仕方がない! それまではヘッドフォンで爆音にして踊り狂って待ってます。(阿部英理子)

セットリスト(2月8日追記)
1. I've Got Your Number
2. Make Light
3. Better Things
4. The Reeling
5. Moth's Wings
6. Swimming In The Flood
7. To Kingdom Come
8. Let Your Love Grow Tall
9. Folds In Your Hands
10. Smile Upon Me
11. Seaweed Song
12. Little Secrets

アンコール
13. Eyes As Candles
14. Dreams
15. Sleepyhead
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