「実に8年ぶりのプラシーボ来日実現!」と話題を集めた昨年のサマーソニックでは、最終日の大阪のステージで1曲やったところでモルコ(Vo・G)がダウン、無念の途中終了となってしまった。ので、今回の東京=赤坂BLITZ×2公演を含む東名阪ツアーは、彼ら的にも自然とリベンジ・ジャパン!的な気迫のこもるものだっただろうし、日本の新旧入り乱れたファンにしてみれば久々の、本当に久々の単独ツアーだ。19:00にフロアの照明が消え、モルコ/ステファン(B・G)/スティーヴ(Dr)/サポート・メンバー3人がステージに現れた瞬間の怒号のような力強い歓声が、オーディエンスの渇望感を物語っている。モルコのMCは「ドモアリガト! プラシーボ・フロム・ロンドン!」という挨拶と曲説明ぐらいの極めてシンプルなものだったが、何よりその楽曲の表現力が饒舌といえるほどに豊潤だった。
ツアー初日なのでセットリストは割愛するが、アンコールまで含めて20曲以上の約半分を“アシュトレイ・ハート”“ブリーズ・アンダーウォーター”など『バトル・フォー・ザ・サン』収録曲で固める攻めの内容。もちろん“エヴリー・ユー・エヴリー・ミー”やるし、“ソング・トゥ・セイ・グッバイ”やるし、“スペシャルK”やるし、という問答無用の曲目……なのだが。そこから浮かび上がってくるのは、個々の楽曲のすごさよりも、プラシーボというバンドそのもののすごさであり、異様さだった。
「UKバンド」ではありながら、90年代以降のUKロックのどの文脈も彼らの音楽を捕捉することはできなかったし、グラム/ニューウェーヴ/ポストパンクとかいう音楽のエッセンスやロバート・スミス的なる妖艶さをDNAレベルでは受け継ぎつつも、彼らはそこからまったく別種の、濃密な薫りを放つ強靭なロックの肉体美を築き上げてみせた。プラシーボより音がヘヴィだったりラウドだったりするバンドは今ではたくさんいるが、逆にプラシーボが描き出す音の深淵には、ほとんどのバンドは手を伸ばすことすら叶わない。その幽玄で解析不能の世界を、幽玄で解析不能なまま最強にビルド・アップしてしまったのが『バトル・フォー・ザ・サン』だった。その自信が、この日のライブにもみなぎっていた。
合唱やハンドクラップをBLITZ狭しと巻き起こし、20:35終演。明日もここ赤坂BLITZでライブをやった後、8日には大阪・心斎橋クラブクアトロ、9日には名古屋クラブクアトロ、とツアーは続く。大阪/名古屋は若干当日券もあるようなので、ぜひ。(高橋智樹)