RHYMESTER @ Zepp Tokyo

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本編だけでも2部構成、アンコール含めあわや3時間。その間はひたすら大トロだけを出し続けるというような、超濃厚なショウであった。ライムスターの『KING OF STAGE Vol.8~マニフェスト RELEASE TOUR 2010~』東京公演。まだ5月14日の川崎追加公演が残されているが、このツアーで彼らの本格再始動~『マニフェスト』の季節はひとまず完結するということになる。

オープニングSEとして流れる“午前零時”から“ONCE AGAIN”という決意表明による開演以降、本編第1部は『マニフェスト』の楽曲を中心にステージが進行し、特に現段階ではリリースも決定していないというCOMA-CHIとのコラボレーションによる新曲“トーキョーショック”を投下して第1部は終了。まるでハーフタイム・ショウのようにCOMA-CHIに一曲ステージを預けてしまった後の第2部は、極めて予測不可能なライムスのバラエティ性/エンターテインメント性を見せつける時間帯になった。

“ONCE AGAIN”からのラップ・チューン3曲でMummy-D(以下「Dさん」)が「安心してください。ここまでが一番盛り上がるところです」と告げてしまったり、楽曲の合間にもサービス精神旺盛にトークを挟む宇多丸(以下、文字数増えてるけど「宇多さん」)のノリがますますお笑い方面にエスカレートしていたりで、3時間の間に中弛みがないわけではなかった。むしろ、何度もあった。本来ならば大味でクドい大トロだけではなく、引き締まった極上ネタの幾つかをぽんぽん、と出してステージを構成することが出来てしまう人たちである。しかし、それをやらなかった。

「どこまでも右肩上がりの人生なんてね、ないんだよ!」と宇多さんがはぐらかしてはオーディエンスの笑いを誘っていたが、その思いを笑いのオブラートに包まずにトラックに乗せて差し出せば、あのジャパニーズ・ヒップ・ホップの栄枯盛衰をエモーショナルに描き出した『マニフェスト』そのものであるということにも気付く。

彼らは、どんな極上ネタでも、飽きられてしまえばそれで終わりだということを知っているのだ。パターン化することを何よりも恐れているのだ。だから、考え過ぎなぐらいアイデアを盛り込んでしまう。ロマンクルーを呼び込んでの“紳士同盟”へと繋ぐ前フリとしてオーディエンスに演奏曲の希望を募ろうと、やたらレトロなデザインの人間大ロボット「しゅうけいくん」を登場させたり、その後のジャジーでチルな“ちょうどいい”の前にはDさんが「じゃあここで俺に20分ちょうだい。グダグダにするから。……どう、最近なんかおもしろいことあった?」と余りにあんまりなステージMCをかましていたり。要は、それをせずにはいられないのである。

そういった過剰な「サシ」の部分を取っ払ってみると、ライムスは本当にとんでもないパフォーマンスをしている。ライブ序盤からいきなり凄かったのは先に書いた通りだが、Dさんが「ここまでが一番盛り上がるところです」と告げる前に、僕は内心「ここで終わったら真に伝説のライブになるな」と思っていた。ここは本当にZepp Tokyoかというソリッドなビートとラップの直撃に、オーディエンスは悲鳴を上げながら弾け飛んでいた。メロディアスでエモーショナルな、つまりポップな楽曲と、“ライカライカ”や“トーキョーショック”のような、前衛的でリスナーに挑みかかるような楽曲との、両極端を行き来するスタイルで「凄さ」の多層構造を描き出していた。

アンコールでの、COMA-CHIと男女ブレイクダンサーを交えての“B-Boyイズム+B-Girlイズム”はとりわけ素晴らしかった。ダンサー陣の、オールドスクール・マナーでありながら極限まで洗練されたブレイキングには、ヒップ・ホップの視覚に訴える感情表現が鮮やかに躍動していた。そしてDABO、TWIGY、Zeebraがマイク・リレーする“ONCE AGAIN Remix”。JCBホールでのライムス20周年ライブ『R20』でも観たが、このマイク・リレーによるこの曲は何度観ても鳥肌が立つ。面子がそのまま「意味」になってしまっているからだ。

「一所懸命に考えたステージ。K.U.F.U.したステージ。楽しんで貰えたら嬉しいです。ヒップ・ホップは、まだまだ誤解されている部分があると俺は思っていて、あれだろ、バカみたいにチェケラッチョってやってるやつだろ、とか。ヒップ・ホップは、頭を使うアートだと俺は思ってるから。またすぐ、新作を出してそれを証明します」。とDさんは最後に告げていた。もう今は決意のときではなく、実践のときなのだ。最後に鳴り響いた“ラストヴァース”は感動的なフィナーレというよりむしろ、ひどく熱のこもった次回予告のようにしか聴こえなかった。(小池宏和)
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