ジョン・メイヤー @ JCBホール

ジョン・メイヤー @ JCBホール
ジョン・メイヤー @ JCBホール - pics by hachipics by hachi
「コンバンワー、トーキョー。ゲンキデスカー? ハハハァ!」。 チェック柄のシャツとゆったりめのジーンズで姿を現したジョンに、悲鳴のような歓声が沸き上がる。通算4作目となるアルバム『バトル・スタディーズ』を引っ提げての、『BATTLE STUDIES WORLD TOUR』。JCBホール3連発の初日である。技巧派がズラリと顔を並べたバンドとともに、序盤からクリアにして重量感たっぷりのサウンドを響かせていった。

まだ初日なのでセット・リストの詳細については差し控えるが、キャリアの早いうちからヒット・ナンバーを多く抱える彼にしては意外なくらい、新作『バトル・スタディーズ』からの楽曲を多くプレイしてゆく。ファンが聴きたい往年の人気曲を端折ることはなかなか大変な決断だと思うのだが、それだけ新作への自信が伺えるし、何よりも「新しいアルバムを出して、ツアーに出て、新しい曲を披露する」というサイクルの活動は、現役のアーティストとして極めて健全なものだ。生のジョン・メイヤーに触れてもっとも強く印象に残るのは、過剰な作為や力みがまったく感じられない、むしろ彼のトップ・アーティストたる立ち位置からは程遠く感じられもするような「健全さ」「自然体ぶり」なのである。

イブシ銀のボトルネック・スライドを聴かせるベテランのロビー・マッキントッシュと、ファンキーなリズム・ギターにコーラスも兼任する黒人シンガー・ソングライター=デイヴィッド・ライアン・ハリスという役者に挟まれながら、ジョンはタッピングの効いたリードを披露したり、ディレイとアーミングのコンボでユニークなフレーズを聴かせたり、彼の得意とするブルージーなプレイはもちろんのこと、涼しい顔をして歌いながら楽曲毎にさまざまな超絶テクニックを楽曲に忍ばせてゆく。これみよがしに見せるのではなく、あくまでも楽曲の構成要素のひとつとして、さらりともの凄い技巧を織り交ぜてゆくのだ。

ステージ中盤、ジョンが一人でアコースティック・ギターを爪弾き始める。このコードとアルペジオは……ボブ・ディランの“くよくよするなよ”(“Don’t Think Twice, It’s All Right”)だ。流麗な、しかし自由な歌メロの解釈で喝采を浴びる。先のディラン来日公演のチケット争奪戦にうっかり乗り遅れて涙を飲んだ僕としては、これは嬉し悲しのサプライズである。素晴らしいパフォーマンスだった。

ユニークなソング・ライティングが映える“フー・セイズ”では、歌詞を《It’s been a long time, in Tokyo tonight.》と換えて歌っていた。新世代のブルース・マンというよりも、ジョンの真の凄さは結果的に「ポップ」に集約されてゆくソング・ライティングにあるのだと思う。ロックにせよブルースにせよカントリーにせよソウルにせよ、彼の歌はどこまでも「アメリカンなポップ・ソング」を目指す。それは、「アメリカンなポップ・ソング」を愛してきた彼の中での、健全で自然体なリアクションなのだ。自ら磨き抜いた技術をもってそれを 生み出したとき、シーンにはそういうポップ・ソングを生み出せる若い表現者は存在していなかった。「ポップ」という大いなるアメリカの価値観は瓦解し、細分化していた。きっと、日本人である僕が思う以上に、ジョン・メイヤーというスタイルは米本国で渇望されるものなのだろう。

十代の頃に日本への留学経験もあるジョンらしく、「どういたしまして」だの「すごいね」だの日本語MCも披露しまくっていたのだが(これがまたボソボソとやるのでおかしい)、最も秀逸だったのは本編終盤、バンドのメンバー紹介の折に、例えば「Robbie McIntosh、ロビー・マッキントッシュ」と英語読み/日本語カタカナ読みの二つの発音で一人一人の名前をコールしていたことだ。度肝を抜かれた。日本語MCが達者な外国人アーティストの中でも、こんなのは初めてだ。アンコールの最後に圧巻のソウル・バラード“グラヴィティ”を披露し終えると、最前列のオーディエンスが自前で持ち込んだギターに快くサインを残して、ジョンは去っていったのだった。お宝ですねそれ。

約1時間半というボリュームだったが、それ以上に濃密に感じられるパフォーマンスであった。今回のジョン・メイヤー来日公演は引き続きJCBホールにて、5/12、5/13と行われる。(小池宏和)
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