キャパ800のDuo Music Exchangeは見事にフルハウス。ここまで若い現役のロック・ファンでみっしり埋め尽くされたライブハウスの様子は久々で、ストロークスやらアンダートーンズやら「わかってる」感が漂うSEが続いた開演前から、まるでバーストする瞬間を今か今かと待ちわびているような熱気が満ちていた。
そして、ふぉんふぉんと響くフィードバックを断ち切るように始まったオープニングは“It Will All End In Tears”だったのだが、この冒頭で早くもオーディエンスは度肝を抜かれたのではないか。なにしろそれは、もはや「サーフィン」とかクリシェをかましている場合ではなかったのだ。音が、ビートが、歌声が、そしてエモーションが、まるで洪水のようにステージから溢れ出してくるのだ。足りないとか、欠けているとか言っている場合でもなかった。不安定なそよ風のような『ザ・ドラムス』の茫洋たるリヴァーヴを、そのリヴァーヴが示していた彼らの音楽の欠落をびっちり埋めて余りあるエネルギーがマックスでぶん回される2曲目の“Best Friend”で、それはもはや確信に変わった。
ジェイコブが一心不乱にブチ叩くタンバリンに煽られ、オーディエンスのモードも瞬時にリセットされていった。2010年最高の新人ロック・バンドを目撃する晴れがましさをも超越した、今・此処にいる喜びと本能的な興奮が薄暗いフロアで大きなうねりを起こしていく。「シンガロング!」、そうジョナサンが叫ぶや大合唱が巻き起こった“Make You Mine”、そして“Don’t Be a Jerk,Johnny”へと至った中盤には、彼らのパフォーマンスのあまりのがむしゃらっぷりに思わずフロアからどよめきが起きたほどだ。
そう、とにかくドラムスはがむしゃらだった。がむしゃらでしゃかりきだった。曲が終わるたびにジョナサンが連呼していた「コンニチワ!」はテンションが上がってくると「コマネチワ!」になり、さらに興奮が滾って最終的には「コニャニチワァッ!」になってしまっていたが、本当に、抑えきれない衝動のようなものすら閃かせながら急なスロープを全速力で駆け昇っていこうとするライブだったと思う。
ドラムスの4人がNYからやって来た生っ白いナードであることは疑いようがない。インディ・ロックの純潔を愛で、失われたクラシック・ポップに思いを馳せながら憂鬱なモダン・エイジをゆらゆらとサーフしていく、それが『ザ・ドラムス』というアルバムであり、2010年代の新星らしい戦い方であったことも間違いないだろう。
しかし彼らのライブは、そんなナードのささやかな矜持すらも大胆に捨て去って、どこまでも筋肉質な、肉体的なリアリティへと必死に変換しようとしていた。劇団四季の『ライオン・キング』かよ、と突っ込みたくなるようなどこか滑稽なオーバーアクションでぎくしゃく動き回り、声を枯らさんばかりに叫びまくるジョナサンも、ストロークをおろそかにしまくりな反復横飛びを自重することなく、むしろどこまで我を忘れられるかのトライアルのように跳ねまくるジェイコブも、どこまでも予想外に熱く、どこまでもリアルに発汗していた。リヴァーヴの彼方に隠匿されていた彼らの熱が、こんなにも熱いものだったとは。本当に予想外だった。
テンポもなにもあったものではなく、オーディエンスのハンドクラップに乗せられた演奏が殆どスカみたいな軽妙さで先へ先へと急いでいった“Let’s Go Surfing”。「1、2、3、レッツ・ゴー!」の掛け声と共にバックライトが激しく点滅し、ギターが最終コーナーにむかってうわんうわんとメーターを振り切る爆音を轟かせた“Saddest Summer”。本編最後のこの2曲は圧巻だった。そして、ブツッ!とそっけなく音が途切れたと思ったらマイクを放り投げ退場する4人。時計をみたらスタートからジャスト45分しか経っていなかった。アンコールを入れてちょうど1時間。そう、あまりにも濃密な1時間だった。
彼らが、そしてこの時代が予め失っていたものが遂に見つかったライブだった、とまでは言わない。しかし、『ザ・ドラムス』が喪失を受け入れる勇気のアルバムだったとしたら、この日の彼らは、喪失を前提にした未来を描くことを拒絶する、もうひとつの勇気、もうひとつの希望を差し出すようなライブをやったのだ。(粉川しの)