1.おはよう こんにちは
2.ドビッシャー男
3.ファイティングマン
4.うつら うつら
5.too fine life
6.シャララ
7.道
8.人間って何だ
9.星の砂
10.パワー・イン・ザ・ワールド
11.生命賛歌
12.月夜の散歩
13.武蔵野
14.幸せよ、この指にとまれ
15.友達がいるのさ
16.赤き空よ!
17.新曲
18.月の夜
19.ハナウタ~遠い昔からの物語~
20.FLYER
21.ガストロンジャー
アンコール
22.珍奇男
23.Baby自転車
24.悲しみの果て
25.花男
26.デーデ
ダブルアンコール
27.新曲
ライブ定番ナンバーは含められてはいるものの、本編だけならシングル曲数が片手で足りてしまうというこの選曲である。おなじみ蔦谷好位置(Key.)と昼海幹音(G.)を含めた6人編成で叩き付けられる大振りなバンド・グルーヴに、宮本のタメを効かせたボーカルが引っ掛かるように絡む、良い意味で「タチの悪い」ロック・バンドとしてのエレカシが序盤から全開になっていた。それぞれのパートがバキッと立った音を奏でながら、それが極太の綱のように束になってぶん回されている感じ。音の密度が高くてそれが重みのある手応えを感じさせている。危ない。宮本はさまざまなボーカル・スタイルを持つシンガーだが、こんなふうにエモーションを剥き出しにして自らグルーヴを引っ掻き回しにいくスタイルの歌い方は、ずいぶん久しぶりな気がする。
とりわけ、オープニングから“生命賛歌”のあたりまでは、キャリア初期の若き宮本の尖った「生きにくさ」が溢れ返って社会に突き刺さってゆく名曲群が次々に畳み掛けられる。まるで、霞ヶ関に向こうを張って繰り広げられる不法集会のような様相を示していた。宮本は追従すべき導師ではなく、自ら生贄となって「生きにくさ」の姿を晒すロッカーである。かつては紛れもなくそちらに振り切れた表現者であった。『奴隷天国』に収録された、苛立ちがだだ漏れになって吐き出される名曲“道”を歌い終えると、宮本は「こんなの廃盤になって当たり前だっつう。みんなの前でやれて嬉しいです」とオーディエンスを笑わせていた。
“生命賛歌”までの圧巻のバンド・アンサンブルに支えられたロック・ナンバー連打から一転、“月夜の散歩”では、宮本がひとり椅子に腰掛けて穏やかな弾き語りを披露する。「30歳ぐらいで、いろんな歌を作るようになって。“ファイティングマン”とか“奴隷天国”だけじゃなくて、いろいろ思ってるんだから」と、そのキャリアの中での心情の変化を語る。口笛のメロディも届けられる穏やかな演奏に、木々の間からサラウンドで響くノイジーな蝉の声が重なって見事な風合のパフォーマンスになっていた。ムキになって息をするのも忘れるほどに悪態を吐きまくって、ようやく訪れる深呼吸がてらの大きな溜息のような時間帯だ。最新シングル“幸せよ、この指にとまれ”やカップリングの“赤き空よ”もここで披露される。そしてレコーディングを終えたばかりの新曲は、《満ち足りているのかい?》と柔らかく問いかけるナンバーだ。歩を進めながらも悩みや迷いは尽きない、かつての宮本と今の宮本の両方の顔が共存するような一曲であった。
「若いとき、デビューはしたんだけど普段は何もしてなくて、まあ今は働くのはいいことだってことにしてるんだけど、若いときってのはそういうことがあるんですよ、いい意味で! 夜に月みて無理やり感動して、そのときに作った曲です」。と再び弾き語りで“月の夜”へ。今回のステージは、まるで生きることと向き合いながらささくれだっていたばかりの頃の宮本を、思い起こして解き放つことが目的であるかのようなパフォーマンスを見せている。そして、エレカシというバンドはそこから逃れることもできないのだと、それを再確認する場でもあるように思えた。ここからバンドは再び凄まじいヒート・アップを見せる。きっちりと論理的に纏められた理由もなく、憤りにまかせてねじれ政権の背中にドロップ・キックを見舞うように轟いた本編ラストの“ガストロンジャー”は、決して論理的でないのに今回のエレカシの姿を見事に締めくくっていた。
収まりがつかない苛立ちがそのまま描き出されたアンコール。“花男”ではただでさえ難易度の高い日本語のロック・グルーヴを、宮本が更に引っ掻き回してアンサンブルが危ういまま転げてゆく。ダブルアンコールでは開放的な、美しく眩い曲調の新曲が披露されたが、それを歌い切った宮本は「サンキュー、エビバディ」と告げ、フラフラになってステージを去っていった。なお、今回生中継されたステージの模様はTBSチャンネル(CS放送)にて、8月29日(日)20:30から再放送される予定。(小池宏和)