椿屋四重奏@日比谷野外大音楽堂

椿屋四重奏@日比谷野外大音楽堂
椿屋四重奏@日比谷野外大音楽堂
椿屋四重奏@日比谷野外大音楽堂
椿屋四重奏@日比谷野外大音楽堂
「5年ぶりの野音でございます! あの頃は何もかもがつたなかった。今日は5年も経ちましたので大人になった椿屋四重奏を存分に楽しんでもらえればと思います!」

ちょっと背伸びして大人を気取っていたのが5年前の野音だとしたら、今日の野音は真の大人になって帰ってきたとでも言えばいいだろうか。とにかく最高に格好よくて溢れんばかりの大人のエロスに包まれたライブだった。しかも、それを肩肘張らずにきちんと自然体で鳴らせているということが本当に素晴らしい。8月に発売されたアルバム『孤独のカンパネラを鳴らせ』を携えてスタートした全国ツアー『TOUR'10 BRIGHTEST DARKNESS』の東京公演。まだまだツアーの途中ということもあるので、詳しいセットリストなどは書けないのだが、今日の野音のために組まれたんじゃないかとすら思えるひたすらアーバンな椿屋四重奏を堪能できる曲の並びに思わず恍惚としてしまった。

妖しく揺れるペニンシュラホテルのライティングを背に、高くそびえ立つビル群に囲まれる野音。椿屋のアルバムで言えば『TOKYO CITY RHAPSODY』のジャケット的なイメージで絶好のロケーションだ。おなじみのサポートキーボーディストYANCYと前回の『熱視線8』からサポートギタリストとして参加している手島大輔に加えて、今回はコーラスに中田と長年の付き合いだというシンガーのさとう智文を迎えた6人体制で届けられたのだが、このバンド・アンサンブルがまた素晴らしい。決して音圧を出すためだけではなく、音を重ねることで各パートをより立体的に浮かび上がらせるためのアレンジがなされていて、「歌モノ」としての椿屋四重奏が存分に表現されていた。小気味よく刻まれる小寺のリズムと曲中のクライマックス感を生み出す永田のベースラインはお互いが主張し合いながらきちんと歌に寄り添っているし、互いに切磋琢磨するようにリフを繰り出していく中田と手島の自由なギター・アンサンブルもいい。そして、何より小寺に加えてさとうのコーラスが入ることで幾重にも織り成されるコーラスワークがライブ上で実現し、中田の抜群の歌唱力が映えるのだ。今の椿屋四重奏はバンドとしてすごく自由度が高まっているような気がする。

それと同時に感じたのは、今彼らがやりたいこととリスナーが求めていることが絶妙なバランスで一致していて、それが絶好なタイミングで実現できているのではないかなということ。シーンの中で常に異色の存在感を放ってきた椿屋四重奏が、もがきながらもそのスタイルを貫き続けてきて10年。今はすごく自然体でやりたいことを表現できているようだ。「椿屋四重奏はこういうことがやりたかったんだ」「中田が描きたかった都会感ってこういうことだったんだ」ということがバンドとリスナーの間で一つの共通理解として共有できた時間だったと思う。これは勝手な想像でしかないけど、この10年、きっとメンバーも続けてきてよかったと思っていると思うし、リスナーの立場として私もずっと見続けてきてよかったなと心底から思う。その極みとなったのは「人生、生きることとはマテリアルを集めていくことで、その集合体が自分を作っているのかなという思いがあります。いろんなマテリアルを取捨選択しながら自分というものを作っていくという思いがあってこの曲を作りました」という曲紹介で始まった11月24日に発売されるニュー・シングルの“マテリアル”。良いことも悪いことも、結果的にそのすべてが今の自分を作っている素材の一つであるという、常日頃からの素直な思いを託したバラードナンバーが胸を打つ。

そんな感動的な場面から、歌い出しを間違えて一旦演奏を止めては何事もなかったかのように再び始まった初期の楽曲“導火線”は、今のモードに合わせたようなジャジーなアレンジで蘇っていたし、「次の曲はここ日比谷公園が舞台のあの曲です。東京のみなさーん! 夜の生活を営みましょう!」なんて大声で叫んで突入した、アルバムの中でも異色を放つ“NIGHTLIFE”では、中田が繰り出していくラップに会場全員が腕を左右、上下に振りながら盛り上がるというこれまでの椿屋にはなかったグルーヴを生み出していく。枠にとらわれずに出てきたものを素直にアウトプットすることの楽しさと歓びに満ちていて、ここからまた新しい椿屋四重奏が始まる予感をひしひしと感じさせてくれた。

「だいぶ、こういうところが似合うバンドになってきたと思いますが、どうですか?」とアンコールで問いかけていたけど、名実ともに成熟したバンドの姿を見事に見せつけてくれた椿屋四重奏。ファイナルは12月26日(日)中野サンプラザでのリベンジ公演(2006年のカウントダウンライブで半分しか人が埋まらなかったのだ…)だ。ツアータイトルどおり、一際輝く暗闇を描き出し、そこから見据えた鮮やかな未来を見せてくれるに違いない。(阿部英理子)
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