「まだまだ175Rが走り続けるために、ちょっと充電してきます。また戻ってきたときに、みんながそのキラキラした笑顔でいてくれなきゃダメだよ」。アンコールで最後のナンバーを歌う前に、SHOGOはそう告げていた。いや、本編中にも何度も「必ず戻ってくる」という意思表明を繰り返していた。今年9月6日に、年内をもって活動休止することをオフィシャルHPで発表していた175R。それと同時に告知されていたのが、今回の『Thank you! Hello! TOUR 2010』の開催だ。休止前最後のワンマン・ツアー、東京・SHIBUYA-AX公演はその初日である。「セット・リストはツアー中に変わるかも知れない」という話もあったのだが、今後の公演に出掛ける予定の方は、どうぞご注意下さい。
メンバー全員が真っ白いシャツ姿(それぞれデザインは異なっていて、ISAKICKはネクタイを締めていた)で登場すると、「会いたかったぞシブヤー! 最高の1日にしましょう。一緒に歌おうね!」というSHOGOの晴れやかな挨拶とともに、バンドはメジャー・デビュー・シングル“ハッピーライフ”からパフォーマンスをスタートさせる。クリスピーで抜けの良い歌声を届けながら、SHOGOはお立ち台に乗り上がって煽り立てている。そして“旅人”“GLORY DAYS”というキャリア初期の人気ナンバーを立て続けに放ち、開演後ものの数分でこれぞ175Rのライブ、という大シンガロング空間を生み出してしまった。凄い。スピード感に満ち満ちた演奏なのに、オーディエンスを誰一人として置き去りにしない、この感じ。彼らは最初から、この光景を見越して楽曲を生み出し、活動してきたのだな。
「皆さんもいろんなことを思いながら今日のライブを迎えたと思いますけど、僕たちもスタッフも、それぞれいろんなことを思いながらこのライブに臨んでいます。昨日なんか、いつになく緊張しちゃったし」とSHOGO。そして今年リリースされた『JAPON』から、切なく狂おしいボーカルで聴かせる“new world”が披露される。“雨のち君”では、雨音のように美しく響き渡るサポート・メンバー小林哲也のピアノがフィーチャーされ、名曲“手紙”ではオーディエンスが印象的なハンド・クラップをばっちりと決める。早々のシンガロング大会から「届ける」モードの美曲たちへと移り変わっていったステージは、彼らのキャリアから楽曲群を総動員させてひとつの大きな流れを生み出してゆくように感じられていた。
「飛ばし過ぎですね。声も枯れるっちゅうの。今回のツアーは、リリースも何もないので、自分たちがやりたい曲とか、みんなはこんな曲を聴きたいんじゃないかとか、そういうふうに曲をチョイスして、お届けしているわけですけれども。このSHIBUYA-AXは、今まで俺たちがライブしてきた会場の中で、たぶん一番多いんじゃないかな? ツアー・ファイナルとかイベントとか。想い出、いっぱいあるよね。ちょうど今日、まさに今日、AX10周年です! もしかしてアニバーサリー企画なんじゃないかという」。……なんか、ツアーの趣旨から全速で遠ざかってゆくSHOGOである。「えー、たとえ1曲でも、ひとりずつ届くように歌っていきたいと思います」。
“僕の声”で踊るようなカッティングが大活躍するKAZYAのギター。“YOUR SONG”でこの日最速のビートを繰り出していたYOSHIAKIのドラム。そして“Hello”でのSHOGOは、情感に満ちたブルース・ハープを吹き鳴らすだけには留まらず、マイクレスで広いAXのフロアにその歌声を届けたりもしていた。演奏曲はとうに10を越えていると言うのに、このたった今始まったかのような、ライブの一体感を牽引してゆくアンサンブルと、それを支える個々のスキルはどうだろうか。
YOSHIAKI:「ほんと、手首を痛めちゃった人がいるぐらい練習して。めちゃめちゃ緊張してたんですけど、こんなに人が集まってくれて嬉しいです。」
SHOGO:「え? 手首痛めてたの!?」
YOSHIAKI:「僕じゃないですけど(と、指差す)。」
ISAKICK:「ここで、そんなこと紹介されても(笑)大丈夫です。」
175Rは、まず理想とする光景があって、それを具現化するためにありとあらゆる手段を講じるバンドだ。これは僕のひとりよがりな解釈でしかないのだけれど、もしかすると彼らは、最初に思い描いていた理想の光景に辿り着いてしまった感覚を抱いていて、それは今まさにこの場所にある笑顔まみれ、汗まみれ、歌声まみれのフロアそのもので、これから先は新しい形の理想を必要としているのではないか。それが、活動休止の理由のひとつなのではないか。この場所には、175Rの歌に、音楽に巡り会って心を揺さぶられ、ライブ会場に足を運び、そして初めてバンドと一緒に歌い、飛び跳ねたという人が、たくさんいるはずだ。その瞬間、確かに世界は変わったはずなのだ。
“東京”を交えたスペシャル・バージョンで“春風”が披露されると、ISAKICKが口を開く。「今までやってきて何が変わったかと言えば……白いシャツが似合わなくなったってことですかね? 今日は昔のスタッフとかもいっぱい来てくれて、顔を合わせるとみんな、あれ?って。それ以上は何も言わないんだけど。どうやら白いシャツのせいらしいっていう(笑)」。こちらはこちらでまたはぐらかすようなことを言っているが、“心から”では、それまで以上に激しいアクションを見せつけながらベースを弾き倒していった。終盤ではゴリゴリとした骨太なロックを次々に繰り出してゆく。色とりどりのバンダナやタオルがフロア一面に舞い踊った“BAN BAN BANG!”。オーオーオ、と大きなコール&レスポンスが場内を満たした“Party”、外は既に真冬の寒さだというのに、AXのフロアはそれを忘れるような暑さだ。
「今日はなんか、俺らの勝ちな気がすんだよな。どうすか? あのね、解散したんでしょ、とかね、言われるんですよ。ひどい人だと、SHOGOさん昔は神だったよ、とかね。まだやってるっちゅうの! まあ、音楽業界は、CDが売れないとか不景気なこと言ってますが、音楽はなくなりませんから。またライブで会いましょう」。そしていよいよ本編最後のナンバーが披露される。このときの“SAKURA”でオーディエンスたちがそれぞれに用意した紙吹雪が一面に舞い上がる光景は、これまで観たどの“SAKURA”よりも壮観で、美しかった。これが175Rの夢見た、175Rがファンと共に育て上げてきた理想、或いは、それを超えた光景だ。
バンドの活動休止や、或いは解散を前に「湿っぽいのは嫌い」と語られることはしばしばあるけれども、そんな言葉すらもろくに出てこないぐらい、どこもかしこも笑顔ばかりのステージだった。こんなの、見たことない。新しい旅立ちを決意した人、そしてそれを見送り新しい明日を迎える人に、掛けられる言葉はそう多くない。でも、この日この場所で繰り広げられた2時間半を越えるショウは、紛れもなく175Rで、また彼らとともに一日また一日を生きてきたファンたちの姿だった。この日、初めて175Rのライブに来たという人もいた。終演後に、寒い冬の夜空の下で、175Rとの出会いやら思い出やらを熱っぽく語り合うファンたちの声が、とても印象的であった。
今後175Rは、名古屋、大阪でそれぞれステージに立った後、12/28には彼らの故郷・福岡で今回のツアーをフィニッシュする。またその二日後12/30には、幕張メッセで行われるCOUNTDOWN JAPAN 10/11において、GALAXY STAGEのトリを務めるべく登場予定。彼らの勇姿を、ぜひその目に焼き付けて欲しい。(小池宏和)
セット・リスト
1:ハッピーライフ
2:旅人
3:GLORY DAYS
4:果てなき明日へと
5:Freedom
6:PICASSO
7:new world
8:雨のち君
9:「手紙」
10:シャイン、光の道しるべ
11:I believe my way
12:僕の声
13:YOUR SONG
14:Hello
15:和
16:春風(Thank you! Hello! Tour Ver.)
17:心から
18:ビューティフルデイズ
19:愛情メタボ
20:BAN BAN BANG!
21:Party
22:1085
23:明日へと向かう今その時
24:一番星
25:P.R.P
26:SAKURA
EN-1:空に唄えば
EN-2:サンキュー・フォー・ザ・ミュージック
175R @ SHIBUYA-AX
2010.12.16