モノクローム・セット @ 下北沢GARDEN

昨年のトム・ヴァーレインもそうだったけれど、ここ下北沢GARDENは「まさか自分が生きているうちに目撃が適うとは思わなかった伝説上のバンド・人物」の公演を観る機会に恵まれるライブハウスだ。今回のモノクローム・セットの本当に、本当に久しぶりの来日公演もしかり。本来は昨年10月に来日するはずが、フロントマンのビドの急病によってキャンセルになってしまった公演の振り替え公演であり、サポート・アクトにフレンズ、そしてオープニング・アクトとして日本のギタポ・シーンを代表してsloppy joeが登場するという、ギター・ポップの博覧状態となった貴重なジョイント・ライブである。

エントランスではモノクローム・セットとフレンズのセットリストがメンバー全員のサイン入りでチャリティ購入できる仕組みになっていて、ひとたびべニューに足を踏み入れれば熱心なギタポ・フリークがひしめき合っての大盛況だ。トップバッターのsloppy joeの時点で既にみっしり埋まったフロアには歓声と緩い横揺れが広がっていて、今夜のお客さんがモノクローム・セットのファンであると同時にギタポのスピリットを愛するコミューンを形成した文字通り「スモール・サークル・オブ・フレンズ」の住人であることが分かる。

開始から45分が経過した時点で、ネクスト・アクトのフレンズが登場する。ステージ上の彼らの「おじいさん」と呼ぶべき風貌に一瞬驚きつつも、そんな彼らが初っ端の“On A Day Like This”から瑞々しいとしか言いようがないジャングリー・ポップを奏で始めるものだからますます驚いてしまう。鉄板の“Far And Away”等もきっちり挟みつつの1時間のセットはギタポの教本のようなアルペジオもあり、楽しい輪唱コーラスもありの大満足の内容で、モノクローム・セットへと温まった空気のバトンを渡していく。

そして、遂にモノクローム・セットの登場である。ラフ・トレード、チェリー・レッド、ブランコ・イ・ネグロと、錚々たるインディの名門を渡り歩いてきたキング・オブ・ギター・ポップたる彼らが、後のバンド達に与えた影響のデカさは今更言うまでもないだろう。本国での評価はもちろんのこと、「ネオアコ」なる和製英語を生み、とりわけ強烈なギタポ偏愛傾向を持つ我々日本人にとってもモノクローム・セットは重要すぎるバンドであり、オレンジ・ジュースやアズテック・カメラと並ぶ元祖であり経典であり続けている。

ただ、これはオレンジ・ジュースにもアズテック・カメラにも、そしてこのモノクローム・セットにも共通して言えることだが、彼らの音楽の源泉となっているものは「胸キュン」といった形容詞で括られる日本のネオアコ信仰とはかなり異なっているのが面白い。この日の彼らのパフォーマンスもそれは顕著で、そもそもギター・ポップとはポスト・パンクから派生したアヴァンギャルドの一種であったことを証明する、スリリングな内容になっていた。

出だしは「永遠のアマチュアイズム」を露呈するかのようなギクシャクと拙い演奏に少々ずっこけてしまったのも事実なのだが、その後は徐々に態勢を立て直し、カラフルなサイケデリックやじゃりじゃり粗いリフが炸裂するガレージ、軽妙なスカもあればオールディーズなロカビリーもあり、時々フォークで時々エスニックな旋律も顔を出すという、バラエティ豊かなパフォーマンスを見せてくれた。ビドのキャラクターを反映したマントラ風味というかヨーデル風味というか、とにかく裏声ユニークなボーカルも曲を重ねるごとに冴え冴えとしていく。

「コニチワ、マタコレテウレシイデス」とアンチョコ片手のMCも挟みつつ和やかな空気の中進んでいくショウだったが、愛すべきギタポの懐古モードと同時に初めてモノクローム・セットを目の当たりにした人も多いだろう。オーディエンスの驚きも連鎖していく様が手に取るように見えた。ギター・ポップの王道という意味ではこの日登場した3組の中で最も異質なのがこのモノクローム・セットであり、そんな彼らが同時に元祖でもあるというねじれの現象がギター・ポップのファミリー・トゥリーに更なる面白さを与えていたと思う。

“The Jet Set Junta”、“Jacob’s Ladder”、それに“Eine Symphonie”といった誰もが望む歴史的名曲も惜しみなく披露しつつ、30年以上のキャリアの厚みも実感させつつ、オリジネイターである所以も厳かに告げつつ、しかし誰ひとり疎外しないギタポのフレンドリーさを最上の価値観として保っているという、流石のパフォーマンスだった。ちなみに少しだけ恰幅良くなっていたが、相変わらずビドは超ダンディでした。

そんなモノクローム・セットの公演も残すところあと2日。次はいつ観ることができるか分かりません。伝説目撃の数少ないチャンスをお見逃しなく!(粉川しの)

4月10日(日)高田馬場AREA
4月12日(火)大阪MUSE HALL
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする