1969年のメジャー・デビューに際し、UK CBSと巨額の契約を結んだことから「100万ドルのギタリスト」という異名で呼ばれたテキサス出身のブルース/ロックンロール・ヒーロー、ジョニー・ウィンター。現在御歳67。デビュー年には弟のエドガーと共に、ジミヘンやザ・バンドやCSN&Yと並んであのウッドストック・フェスティヴァル最終日に出演していたぐらいだから、真にロック史の生き証人と言える人物だ。彼の来日公演は一度1990年に予定されていたものの、これが中止となって以降永らく「来日していない最後の大物」と語られてもいた。それが2011年に入って、唐突に念願の初来日公演が果たされることになる。Zepp Tokyo3日間連続公演の2日目は、36歳の僕が見事に青二才と言えるような年季の入ったロック・ファンで大入りである。15日の最終日公演に参加予定の方は、以下レポートのネタバレにご注意を。
歓声の中にまずドラマーのヴィト・リウッツィ、ベーシストのスコット・スプレイ、ギタリストのポール・ネルソンの3人が登場し、景気のいいロックンロール・セッションを開始する。そしてその演奏の最中に現れたのが、カウボーイ・ハットにトレード・マークの長髪姿のジョニー・ウィンターだ。女性スタッフに付き添われてヨタヨタとステージ中央に歩を進める姿はさすがに高齢というところだが、ブロンドやシルバーというよりも鮮やかな黄色に見える長髪は、地毛だろうかウィッグだろうか。何にしろオシャレさんである。肩にかけたガウンを女性スタッフに外されると、これまたトレード・マークのタトゥーまみれの腕が覗く。椅子に腰掛けて、ヘッドのない形状が特徴的なギター=アールワイン・レーザーを手に取った。
正直、その目に見えて明らかな高齢ぶりには一瞬不安が頭をよぎったし、ハラハラしてしまった。ところが、第一音が繰り出される瞬間にはそうした不安がすべて吹き飛ばされることになる。初っ端から絶好調のギター・ワーク、そして鋭い出音。割れんばかりの喝采がジョニーに贈られている。「ハーイ、コニチハー」と挨拶も早々に、フレディ・キングの“ハイダウェイ”へと突入していくのだった。ピックと指弾きを複合させたジョニーならではのテクニカルなギター・プレイで、独自に解釈されたブルースのカバーやオリジナル曲を次々に披露してゆく。
ジョニーの古くからのカバー・レパートリーであるサニー・ボーイ・ウィリアムソンの“グッド・モーニング・リトル・スクール・ガール”や、長いキャリアに渡って縁深い関係であり続けたブルースの巨人マディ・ウォーターズの名曲“ガット・トゥ・モジョ・ワーキン”と、ノリノリながら味わい深い歌も聴かせながらパフォーマンスをこなしてゆく。「じゃあ、ロックンロールに戻ろうか」と勢い良くプレイされたのは、出た、“ジョニー・B・グッド”だ。無論、フロアは熱狂そして沸騰である。
その後も熱いパフォーマンスが展開されてゆく中で、あることに気づいた。ギタリストのポールやベーシストのスコットは、ジョニーのプレイから片時も目を離さずにいる。バンド・メンバーがそれぞれ優れたプレイヤーであることは分かるのだが、楽曲の演奏自体はシステマティックにカチッと纏まったものではなくて、尺の長さもはっきりとは決められていないようだ。スタンダードなブルースやロックンロールなのに、スリリングなライブ感、セッション感に満ちたものになっている。
つまり、バンド演奏としてのフィーリングが、エルヴィス・プレスリーの古いレコードに見られるようなごく初期のロックンロールの、ブルースやジャズやカントリーの演奏がゴッタ煮になった冒険的で遊び心に溢れた演奏に近いものになっているのだ。これがジョニー・ウィンターのロックンロールなのだろう。バックの演奏に合わせてテクニカルなフレーズを弾くのではなく、情感に満ちた鋭い演奏でグイグイとセッションを引っ張ってゆく、これが真の「リード・ギター」だと言わんばかりのものになっているのである。目から鱗がボロボロと落ちる思いがした。ジョニーにとって、セッションやライブ空間を仕切るぐらいのリード・ギターを弾くということは、そのままギタリストとしての存在が賭けられたものなのだ。ヨイショと担ぎ出されて、用意された箱の中で小手先の技を披露するだけではダメなのだ。逆に言えば、こういう真剣勝負の場でなければ、この歳になるまでステージに立つことなど出来ないのだろう。
目下の最新アルバム『I’m A Bluesman~永遠のブルースマン~』の収録曲である“一匹狼”を歌いまくり、“ドント・テイク・アドヴァンテージ”ではローリング・ストーンズのギター・フレーズを挟み込んだりもしてオーディエンスを沸かせる。ああ、“ジャンピン・ジャック・フラッシュ”も、聴きたかったな。初日の公演ではジミヘンの“レッド・ハウス”もやったそうだし。しかし本編ラストとなった“イッツ・オール・オーヴァー・ナウ”では、ポールとダブル・リードの交錯を轟かせて、最後まで加熱し続けるショウを見せてくれた。
アンコールでジョニーが抱えたギターは、彼のシンボルとも言えるギブソン・ファイヤーバードだ。これをボトルネック・スライドで弾き倒す、ロバート・ジョンソンの“ダスト・マイ・ブルーム”。ジョニーの来る新作はポールがプロデュースしていて、嬉しいことに来日直前には制作がフィニッシュしたという。“ダスト・マイ・ブルーム”はこの『Roots』というタイトルが付けられる予定の新作に収録されるらしい。そして最後の最後に披露されたナンバーは、シャッフル・ビートの中にまたもや序盤からスライドが荒れ狂う、凄まじい解釈のボブ・ディラン“追憶のハイウェイ61”だ。本当にあっという間の1時間半だったけれど、ロック・リスナーとして多くのことを教えられたパフォーマンスだった。日本に来てくれてありがとう、ジョニー。(小池宏和)
セット・リスト
1:INTRO
2:HIDEAWAY
3:SUGAR COATED LOVE
4:SHE LIKES TO BOOGIE REAL LOW
5:GOOD MORNING LITTLE SCHOOL GIRL
6:GOT MY MOJO WORKIN'
7:JOHNNY B. GOODE
8:BLACKJACK
9:ALL TORE DOWN
10:LONE WOLF
11:DON'T TAKE ADVANTAGE OF ME
12:BONY MARONIE
13:IT'S ALL OVER NOW
EN-1:DUST MY BROOM
EN-2:HIGHWAY 61 REVISITED
ジョニー・ウィンター @ Zepp Tokyo
2011.04.14