解散が決まっていてなお日本に来てくれるバンドなんて滅多にいないわけだが、彼らの場合は日本で、いや、何よりもフジ・ロックで自分達のキャリアの幕を閉じること自体にとてつもなく大きな意味を感じているバンドでもある。9年前のフジ・ロック初参戦、あの伝説のステージからザ・ミュージックの快進撃は始まったと言っても過言ではないし、ここまでフジを愛し、日本のファンを愛し、この国に「運命」を感じているUKバンドも近年ザ・ミュージックをおいて他にいないのではないだろうか。
この10年、ザ・ミュージックにとって日本とフジ・ロックが特別な場所であり続けてきたように、日本のファンにとってもザ・ミュージックは特別なバンドであり続けてきた。今回のファイナル・ツアーはもちろん各地で即完、この日も彼らの東京でのラスト・ラン(最新ツアーTシャツには「THE LAST DANCE」と銘打たれていた)を観るために詰めかけたコア・ファンによって場内は開演前から異様な熱気に包まれていた。もっとしんみりした空気になるかと思いきや、最後の一瞬まで完全燃焼しきってやろうとする前向きなモードをひしひしと感じる。
オープニング、SEの段階で早くも手拍子と大歓声、バックライトで4人のシルエットが浮かび上がるとそのボリュームはさらにヒートアップする。1曲目は“The Dance”。じょじょに加速&複雑化していくこの曲はウォーミングアップに最適で、過去にもしばしば初っ端で演奏されてきたナンバーだ。この日はいつにも増して余裕しゃくしゃくの滑り出し、ゆったりと立ち上がるグルーヴには風格を感じるほどだ。フロアのオーディエンスや最前列で撮っているカメラマンに目線を投げかけポーズを決めるなど、ロブが未だかつてないほどサービス精神旺盛でフレンドリーなのも驚かされる。
一方のステージ上の4人の風体はさほど、というか殆ど変化がなくて思わず笑ってしまった。相変わらずダボダボのスウェットを着込んだロブ、相変わらず何の変哲もないTシャツにデニムなアダム、相変わらず童顔なフィル、そして相変わらずむちっとしたポロシャツを着込んだスチュ。
10年前、“Take The Long Road~”でデビューした彼らが、「長い道を歩いて行け」と歌った18歳の少年達が、あれから10年を経たフィナーレのステージで再び“Take The Long Road”を歌う。しかし、ザ・ミュージックは「歩き終えた」わけでもないし、「長い道」は未だに彼らの目前に続いているに違いない。だって彼らは未だ20代、まだなにひとつ人生に終わりなどあるはずがない年齢なのだ。この日のステージが終始一貫してセンチメントとは程遠く、明日への意思に漲る熱いパフォーマンスとなったのは、彼ら自身がザ・ミュージックの終焉に新たな始まりを見出していたからではないか。
ただ同時に、ザ・ミュージックの解散が4人にとってある季節の終わりであることも間違いないのだ。これまで何十回とザ・ミュージックのライブを観てきたが、この日の彼らのパフォーマンスはびっくりするほどサイケデリックが希薄だった。ザ・ミュージックにとってサイケとはまだ見ぬ未来の象徴であり、未熟な演奏力の産物であり、音楽に答えを見出さない彼らの謙虚さの証でもあったわけだが、彼らはもはやそういう曖昧模糊とした余韻を必要としていないのだろうということが、一音一音ぴりっと角が立ったタイトなロックンロールを鳴らす彼らを観ていて思ったことだ。ザ・ミュージック史上最もサイケな“Human”にしても、こんなにも醒めたこの曲を聴いたのは初めてだった。ああ、終わりなんだなぁと、初めて実感した瞬間だった。
「トーキヨー、ユーアーソービューティフル!」とロブが呟いて始まったのは“Welcome To The North”。かつて彼らを苦しめたこの曲の、この曲が収録されたセカンド・アルバムのヘヴィネスが、瞬く間に開放されていくのを感じる。悠々とドライブする演奏、たしかにヘヴィには違いないが、それを自在にブン回す4人の逞しさにオーディエンスの興奮も最初の頂点を記録する。
以降、4つ打ちダンサブルな“Drugs”以降の後半戦はモダンなザ・ミュージックを改めて提示する未来志向のセクションとなっていて、今回のライブが彼らの集大成でありながらきっちりと次の彼らのキャリアをもブリッジする中継点の役割も果たしていることが見て取れた。
そして、“The People”が投下される。ザ・ミュージックと我々日本のファンの絆は、文字通りこの曲から始まったのだ。9年前のフジのレッドマーキー、“The People”のイントロが鳴った瞬間にマーキーの屋根が吹き飛ぶかと思うほどの歓声が轟いたあの日のことを、ついこの間のように思い出してしまう。もはやこの曲に関しては彼らも主導権を半分以上オーディエンスに明け渡していて、ロブは鉄壁のコール&レスポンスを受けて嬉しそうに踊っている。
ザ・ミュージックのライヴの本編は“Bleed From Within”、この曲で締めくくられるのが常套だ。そしてアンコールが“Walls Get Smaller”というのもよくあるパターンなのだけれども、東京リアル最終公演にも拘らず、エモい歌声もしめっぽい挨拶もすっ飛ばし、長大なインスト・ナンバーで、つまりは「無言」でストイックに締めくくるというのが何とも彼ららしかった。
さあ、ザ・ミュージックの本当の本当の日本最終公演まであと3日。フジに行かれる皆さん、彼らが苗場に何度目かの伝説を刻む時を、絶対に見逃さないようにしてください。(粉川しの)
The Dance
Take The Long Road Walk It
The Trurh Is No Words
Freedom Fighters
Fire
Human
The Spike
Welcome To The North
Drugs
Too High
Strength In Numbers
Getaway
The People
Bleed From Within
(encore)
Walls Get Smaller