WHITE ASH @ 下北沢SHELTER

WHITE ASH @ 下北沢SHELTER - pics by 柴田恵理pics by 柴田恵理
WHITE ASH @ 下北沢SHELTER
RO69JACK 2010に優勝し、同年のROCK IN JAPAN FES.に出場。今年7月にJACKMAN RECORDSからミニ・アルバム『WALTZ WITH VALKYRIE』(自身にとっては2作目)をリリースした4人組バンド=WHITE ASHのレコ発東名阪ツアーが、下北沢SHELTERでファイナルを迎えた。8月の終わりを駆け抜けたこのツアー『In The Black Box』は、WHITE ASHと同じく2作目のミニ・アルバム『spectracroma』を発表したwhite white sistersとのダブル・リリース・ツアーでもあった。開演時間が近づく頃に会場に足を踏み入れると、DJを務める鹿野淳(MUSICA)が温めるフロアは身じろぎが出来ない程の満員である。都内で活動してきたというアドバンテージを差し引いても、この厚い支持層は実に頼もしい。

先攻するのはwhite white sistersだ。yuya matsumura(Vo./G./Prog.)、kazumasa ishii(Dr.)というステージ上と、kouta tajima(VJ)から成る3人組バンドである。Matsumuraが組み上げるエレクトロニックなトラックというのが、英Rephlex Recordsや往年のWarp Recordsを想起させる知的かつ奥行きのあるサウンドで、なんでこれが出来るのにバンドなんだ?と一瞬不思議に思える。が、すべての楽曲が2人の演奏と歌によって、ドラマティックに、エモーショナルに、熱を帯びて展開してゆくのだ。なるほど、これはバンド編成にも頷ける。ナイーブであるがゆえの爆発力を見事に描き出しているのである。プロジェクターに投射されたCGアニメーションを、サウンドと同期させるVJも素晴らしい。徹底した構築美と、それを越えて咲き乱れる生々しい感情の形によって、既に独自のスタイルを完成させている末恐ろしいパフォーマンスだった。

さあ、いよいよWHITE ASHが登場である。ステージに姿を見せた4人は、言葉もなくいきなり『WALTZ WITH VALKYRIE』に収録された“Scar(t)”を披露する。うねるようなギター・フレーズがグルーヴを牽引し、動と静を自在に行き来するサウンドと歌をオーディエンスに浴びせかけるのだった。さっそく爆音の混沌の中へ突入する間奏も交えてこの曲をフィニッシュすると、「どうも、WHITE ASHです!よろしくお願いします!」とここで天然パーマに眼鏡姿の、サウスポーでギターを抱えたのび太(Vo./G.)が挨拶。続いては剛の跳ね上がるビートに紅一点・彩ののたうつベース・ラインが這い、ギラギラとギター・リフが煌めくキラー・チューン“Thunderous”だ。のび太はハンド・マイクでステージの淵に躍り出て歌う。《あんなtragedy so 洗うんだ world》。彼は以前のステージで「歌詞は意味よりも言葉の響きを重視しています」と語っていたことがあるが、ならばなぜWHITE ASHのサウンドと歌は、これほどまでに聴く者の胸を震わせ、聴く者を駆り立てるのだろうか。

ファースト・ミニ・アルバム『On The Other Hand,The Russia Is…』の冒頭を飾っていた“Stranger”をプレイすると、「はい! ということで『In The Black Box』ツアーのファイナルです! 夏の終わりで。皆さんどっか行きました? イベントとかフェスとか。行った人! 結構行ってるじゃん! 今日はその中でも、最高の夜をプレゼントしにやってきました!」と、のび太流のちゃっかりビッグ・マウスも冴え渡る。そして緩急のコンビネーションでスリリングに聴かせる“Reject”、センチメンタルな歌い出しから轟音オルタナティヴのアンサンブルへと急展開し、山さんが熱いギター・ソロを弾き倒す“B.B.”とパフォーマンスが続く。キャッチーな中にもトリッキーなフレーズや展開が散りばめられ、そんな意外性が一層強く楽曲へと聴く者を惹き付ける。意外性と言えば、こんなうだつのあがらないルックスのフロントマンが、サウスポーでギターを掻きむしりながら電撃そのもののようなロック・ナンバーを繰り出すということ自体、そもそも意外性に満ちたものだろう。

WHITE ASHはそこから始まったバンドなのだ。世界に失望し、溢れかえった口当たりが良いだけのポップ・ソングに辟易し、自らのび太を名乗ってWHITE ASHというスリルに満ちた小さな王国を作ることでしか世界に居場所を見つけることが出来なかった男がフロントを務めるバンドである。退屈なメッセージを吐くぐらいなら、言葉では追いつかないぐらいの思いを「響き」として歌詞にしたためた方がいい。だからその歌は、思いっきりエモーショナルに届けられる。「めっちゃ楽しいです! 待ちに待った今日ですよ。white white sistersもカッコ良くてね。『In The Black Box』には裏テーマで、どっちのホワイトがカッコいいか?っていうのがあって。もちろん今日は勝ちに行ってますけど。皆さん、まだまだ行けますか?」とのび太は告げる。彼のちゃっかりビッグ・マウスは、もともとが世界との戦いとして始まったWHITE ASHの姿勢表明でもあるのだろう。

リフ押しで一息に駆け抜ける“Ugly Marguerite”の後には、のび太と山さんのコーラスの掛け合いがフックになった『WALTZ WITH VALKYRIE』のオープニング・ナンバー“Ray”だ。メンバー全員がそれぞれにボーカルを受け持つ場面の見られるWHITE ASHのパフォーマンスは、スリリングな楽器の交錯の中にも歌の呼吸をしっかりと分かち合ったバンドであることがわかる。そして2本のギター・フレーズがもつれながら突き抜けてゆく“Flashback”をプレイし終えると、一足先に山さん、彩、剛の3人は拍手の中にステージを離れる。本編ラストはのび太の弾き語りによる、『WALTZ WITH VALKYRIE』の最後を飾っていたナンバーでもある“I'm Fine Too Thank You”だ。伸びやかな声が、詩的な日本語の歌を乗せて流れる。WHITE ASHという孤高の王国を「約束の場所」として指し示すような感動的な1曲だ。彼の歌はこのとき、ようやく伝えなければならない意味を明らかにすることになった。

「何気に初めてのアンコールです! 見るからに(フロアのスペースが)キツそうだけど、ここにいてくれるだけでもありがたいです。嬉しいんで、もう1コ新曲やってもいいですか!?」とのび太が煽り立てて、アグレッシブなダンス性を纏った新曲が投下された。強靭なグルーヴの中で山さんもギターを思うさま弾きまくる。そして最後に彩のボーカル・パートも挿入された“And Gypsy”をステージ所狭しという激しいアクションとともにプレイして、フィニッシュ。たった4人で始まった世界への逆襲が、多くの人々を巻き込んで現実のものになってゆく。そんな光景を目に焼き付けてくれたステージであった。(小池宏和)


WHITE ASH セット・リスト

1:Scar(t)
2:Thunderous
3:Stranger
4:Reject
5:B.B.
6:Maze
7:Hello,Afternoon
8:Ugly Marguerite
9:Ray
10:Flashback
11:I'm Fine Too Thank You
EN-1:新曲
EN-2:And Gypsy
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