日本マドンナ @ 新宿紅布

都内を中心に活動する3人組のガールズ・パンクバンド日本マドンナ初のワンマンライブが新宿紅布で行われた。これまで、先輩バンドや同世代のバンドに混じって“バンドやめろ”だの“生理”だの歌い散らし、たとえアウェーでも幾度となく勝利をもぎ取ってきた彼女たちだが、その強烈な「異物感」はワンマンにおいても損なわれることはないのか。また、ある意味ではお客さん全員が「味方」と言えるワンマンという状況下で、ちゃんと「殺したい」気持ちで《殺したい》と、「息苦しい」気持ちで《息苦しい》と歌えるのだろうか。そんなことをあれこれ考えながら会場に足を運んだわけだが、始まってすぐにそれが全くの見当違いであることに気が付いた。なぜなら彼女たちのパンクが、「対バン相手が〜」とか、「お客さんの反応が〜」とか、そんな外部環境でどうにかなってしまうようなシロモノではないということが、目の前の光景から即座に伝わってきたからだ。彼女たちはなぜパンクを選んだのか。なぜパンクでなければいけなかったのか。その答えがステージからこれでもかというほど溢れ出していた、非常に濃密な1時間半だった。

開演時間から15分押しの19時15分。身動きをとることが少し困難になるほど多くの人で埋め尽くされた会場に、あんな(Vo/G)、まりな(G/Cho)、さとこ(Dr)の3人が登場。ガスマスクを着けたあんながバレエを踊ってから、いつも通り“ラップ”でライヴはスタート。《今日私たちは爆弾になりたいのです/一人一人の心を握りつぶすように/一人一人の心をえぐるように/そんな歌を、心をこめて歌います》。まずは挨拶代わりにと、そんな大胆なフリースタイル・ラップでフロアに宣戦布告を告げるあんな。彼女たちは続いて“徴兵制度”“アンチ大人”と、『月経前症候群〜PMS〜』の順番に沿って楽曲を展開。その後も「生温い気持ちのやつがバンドをやって、心底心底心底、悔しくて悔しくて悔しくて!」と“バンドやめろ”、そして「畜生畜生畜生!」と“畜生”を披露して、周囲に対する反骨精神を思いっきりぶちまけていく3人。叫ばずにはいられないという調子で、カッ!と目を見開いて歌うあんな、ダイナミックなストロークでぶっ叩くようにギターを弾くまりな、何かに取り憑かれたようにすごい勢いでドラムを叩くさとこ。バンドのアンサンブル全体を覆う張りつめた空気は、ここ何ヶ月かでさらに濃くなった印象を受ける。

またこの日のライヴでは、音源未発表の曲や、目下の最新作『月経前〜』以降に作られた新曲もたくさん披露された。とりあえずざっと曲名だけ書き出してみても、“アイドル”“メディアダンス”“どうせ血と骨と肉のかたまり”“お前を墓場にぶちこみたい”“死ねと言われて安心した”と、どれもアクの強いものばかり。歌詞の内容も、さながらサリンジャーの青春小説『ライ麦畑でつかまえて』の主人公ホールデンのように、「わかった気になってる」連中の欺瞞に満ちた言動に怒り狂い、捨て身の体当たりをかまし、その度にあちこちに傷を作っていく日本マドンナ節が一貫して炸裂しまくっている。そしてなんと言っても見逃せないのは、「ライヴで『みんなで一つになって楽しもう!』みたいなMCをするバンドマン」「メディアに踊らされる馬鹿」「興味がないのに話しかけてくる奴」と、多岐にわたる怒りの矛先とは裏腹に、その怒りの原因がどの曲も「そいつが嘘くさいから」という一言でほぼ全て説明できてしまうところだ。「本当のこと」に執着しすぎるあまり、周囲の「嘘くささ」を敏感に察知し、人を遠ざけ、居場所を失い、アウトサイダーとして生きることを余儀なくされた人は、一生を日陰でひっそりと過ごしていけばいいのか。それとも来世に期待して、さっさと自分で命を絶ってしまえばいいのか。そんな抜き差しならない状況の中で、彼女たちはそのどちらでもなく、最も困難な道を、「嘘くささ」に反抗することを選んだ。そしてそのための手段として、パンク・ロックをつかみ取った。だからこそ、ステージに立って演奏するときの3人の表情は、あんなにも切羽詰まっていて、悲壮感に満ちているだろう。

遠藤ミチロウ(正式にはMichiro Get The Help!名義)の“オデッセイ・1985・SEX”のカヴァーなどを織り交ぜつつ、1時間強の尺の中に全21曲を詰め込んだ壮絶なライヴの本編を“田舎に暮らしたい”で締めくくった後、アンコールであんなは“これしかないのに”という新曲をやる前に、こんなことを語った。「私が歌う歌は、歌えば歌うほど、破滅的というか、(自分が)削れていってしまうような感覚を持っていて、すごく悲しくなったことがあって。それで音楽から離れようと思ったけど、私の生きる手段はこれしかないのに、と思って作った曲です」。そして曲が始まり、不器用なメロディーにのせて《これしかないのに/これしかないのに》と嗚咽するように歌うあんな。その姿はみっともないくらいに必死で、だけどそれゆえに、とても美しかった。

なお、日本マドンナは、12月29日(木)にCOUNTDOWN JAPAN 11/12に出演することが決まっている。「汚い言葉を使うのはよくない!」とか、「綺麗なものしか見たくない!」という方以外は、この機会にぜひ一度、彼女たちのライヴを体験してみてください。「あぁ、この人たちはこうだから、パンクをやるしかないんだな」ということが、一目でわかるはずなので。そしてそれって、かなりすごいことなので。(前島耕)


[セットリスト]

1. ラップ
2. 徴兵制度
3. アンチ大人
4. バンドやめろ
5. 畜生
6. アイドル
7. メディアダンス
8. あるがままに
9. 生理
10. 村上春樹つまらない
11. アンチポリス
12. 汚したい
13. オデッセイ・1985・SEX
14. クツガエス
15. どうせ血と骨と肉のかたまり
16. お前を墓場にぶち込みたい
17. 死ねと言われて安心した
18. 私は脳内殺人犯懲役死刑
19. 東京病気女子高生
20. 幸せカップルファッキンシット
21. 田舎に暮らしたい

アンコール
1. これしかないのに
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