「ようこそ! 今日はギュウギュウなんで、無理しないでね。よろしくお願いします」。ハナレグミ=永積タカシがステージに登場するなりそう語ったように、詰めかけたオーディエンスの熱気が立込めるリキッドルームのフロア。そこにさっそくジェントルに響き渡り、一瞬で空気を塗り替えてしまう“ハンキーパンキー”の歌だ。9月にアルバム『オアシス』を発表したハナレグミは、リリース直後に代々木競技場第二体育館で2デイズの豪華ライヴ『オアシス〈YOYOGI DE 360° ステージ囲みまくって熱唱しまくっちゃいナイト〉』を行い(ライヴレポートはこちら→http://ro69.jp/live/detail/57542)、その後弾き語りシリーズ『弾きが旅だよ人生は!』を行いながら大阪・東京で計3回のライヴ・ハウス公演『live house live』を敢行した。東京・恵比寿リキッドルーム2デイズの2日目をレポートしたい。
バンド・メンバーは真船勝博(B.)、100sから玉田豊夢(Dr.)、SLY MONGOOSEからKUNI(Tp./Key.)、ヤマカミヒトミ(Sax)という、『〈YOYOGI DE 360°〜〉』とはホーン・セクションのみが引き継がれた編成。控えめに鳴り出したバンド・サウンドの余白が、この後に訪れる興奮を予感させるオープニングだ。肩肘張らない姿勢表明のような歌が、ホーン・セクションのソロ・リレーとオーディエンスによるシンガロングへと連なる。2曲目には『オアシス』収録の軽快なレゲエ・チューン“Crazy Love”が披露される。永積はギターから手を離し、バンド・グルーヴを全身に浴びるように両腕を広げるのだった。「こっからどんどん体が動いていく感じになるんでね。慌てなくていいですよ」。そして舞い上がるようなアコースティック・ギターのフレーズとともに放たれる“レター”では、2コーラス目の歌詞が《恵比寿のリキッドルームを目指すよ》と差し替えられて歓声を誘い、「みなさんにも手伝ってもらえるよね!」とスタートする躍動感に満ちたフォーキーな“音タイム”では、間の手を入れる歌声がフロアに広がるのだった。ヤマカミがサックスから持ち替えたフルートの旋律も効果的だ。
「恵比寿駅で、嬉しいことがあってですね、朝」。永積は、我慢しきれない、という感じで笑いながら語る。「恵比寿駅で、蛭子(能収)さんを見たんですよ。ああっ、蛭子さんだ!って、(物真似をしながら)なんか話してて、その上には恵比寿って看板がどーんとあって」。うん、ていうか、蛭子さんの物真似がパッと出るのも凄いけど。そしてステージではファンキー・ポップで賑々しいシンガロングが繰り広げられる“大安”へ。もうこの時点でクライマックスか、という様相を見せてしまうリキッドルームである。一旦、ステージ進行にアクセントをつけるようにゆったりとしたギターのアルペジオで切々と歌われる“きみはぼくのともだち”が、続いてこちらも静謐な歌心で紡ぎ出される“11DANDY”が披露される。この曲は、永積がダンサー・近藤良平による同名の舞台の音楽を担当したときに提供した楽曲だそうだ。そして“Spark”。『オアシス』における静のモードにしてエモーショナルな歌を、控えめながら実に効果的なバンド・アレンジで披露するという時間になった。
さて、一転してバンドの遊び心に満ちたスウィンギンなアレンジが光る“ボク・モード キミ・モード”。「ヒュー! オッサレー!」と自画自賛の永積である。そしてどっしりとした手応えで歌い聴かせながら、後半をアップ・テンポなカントリーで盛り上げてゆく“あいまいにあまい愛のまにまに”だ。再び、自然に体が揺れ出してしまう時間が戻ってきた。ファンキーなギター・フレーズのイントロが歓声を誘う“踊る人たち”では、永積は全身でバンドに合図を送りながら何度もトリッキーなブレイクを作ってスリリングな高揚感を導き出してみせる。そしてユーモラスな歌声が弾けるファンク・チューン“か!た!かたち!!”。ライヴ感をがっつりと演出してみせるアンサンブルが響き渡り、永積はその中で熱いギター・ソロも弾きまくる。控え目に絞り出していた力を一気に解放するような玉田のパワフルなドラム・ソロ、更には永積もスティックを振るって同期を交えた長いファンク・タイムを形成していった。拳を握らずに開き、笑顔で戦うハナレグミのタフなスタイルだ。
いよいよ本編のクライマックスに突入しようというとき、ステージにはスペシャル・ゲストとしてマダムギターこと長見順が迎え入れられた。披露するのはもちろん、“・・・がしかしの女”だ。跳ね上がるジャンプ・ブルースの中で繰り広げられる、ハナレグミVS.マダムギターの、歯に衣着せぬ男と女のガチバトル。笑いを交えながらも、ちょっとヒヤリとしてしまうような本音の衝突である。演奏を終えると健闘を称え合うように両者は握手し、華々しくカラフルなトロピカル・チューン“オアシス”を最後にプレイする。ここでパーカッショニストとしてバンドに加わるのは、吾妻光良&ザ・スウィンギン・バッパーズにして元ボ・ガンボスのドラマー、長見順とは私生活のパートナーでもある岡地曙裕だ。わお。玉田&岡地の強力なリズム・セクションによって叩き出されるサンバ・ビートが、多幸感に満ちあふれたフィナーレを生み出してくれた。
アンコールは、個人的に『オアシス』の中でも異様に好きな、高い中毒性を誇るスロー・ファンク・ナンバー“ごっつあんです~今夜はジュワイ欲中毒~”から、定番の日本語詞カヴァー“PEOPLE GET READY”。そしてドラマチックでエモーショナルな珠玉の名曲“ちきしょー”と素晴らしい楽曲群が並べ立てられる。この時点で既に筆者は感無量だったのだが、ダブル・アンコールに“明日天気になれ”を盛大にぶちかましてくれた。「今日、外に出てないから天気わからないんだけどさぁ、どうだった? 晴れてた? え? いい天気だった!?」というオーディエンスとのやり取りやコール&レスポンスも盛り込まれる、ダメ押しの1曲であった。
ハナレグミは、2012年の1月末から3月頭にかけて、全国11公演の『TOUR オアシス』を予定している。これが『オアシス』を携えての本格的なツアーとなるということか。今度はどういったバンド・メンバーで、どのようなステージを繰り広げてくれるのか、徐々に練り上げられてゆくはずの内容が、今から気になるところだ。(小池宏和)
セット・リスト
1: ハンキーパンキー
2: Crazy Love
3: レター
4: 音タイム
5: 大安
6: きみはぼくのともだち (弾き語り)
7: 11DANDY
8: Spark
9: ボク・モード キミ・モード
10: あいまいにあまい愛のまにまに
11: 踊る人たち
12: か!た!かたち!!
13: ・・・がしかしの女
14: オアシス
EN1-1: ごっつあんです~今夜はジュワイ欲中毒~
EN1-2: PEOPLE GET READY
EN1-3: ちきしょー
EN2: 明日天気になれ