とんでもないライブだった。と言っても「歌のスキルがアップしていた」とか「コンセプチュアルなライブだった」とか「観客との一体感がすさまじかった」とか、そういうレベルの話じゃない。もっと抽象的で言葉にならないエネルギーと感動が武道館を呑み込みとてつもなくデッカい磁場を形成してしまった感じ――。ピュアな声と真摯なパフォーマンスで「YUIをYUIたらしめる歌」を届けていく彼女のライブには以前から圧倒的な説得力があったけど、その純度と深さと包容力が格段に増し、より大きく開かれた表現として聴き手の胸を根底から揺さぶる強靭な力となっていたことに胸が震えた。
YUIの「5th Tour 2011-2012 Cruising」セミファイナルとなる武道館2日目。25日の沖縄ファイナルを控えているので詳細は明かせないが、ツアータイトルの「クルージング」にちなんだ趣向が舞台セットや演出を随所に散りばめたエンタテインメントなアクト。前回のツアーでは竹内結子が声の出演をして観客を楽しませたりしていたけれど、今回も仰天のゲストが登場したり、某芸人が声の出演をしたMCコーナーがあったりと、会場に足を運んでくれた観客を少しでも楽しませようとする姿勢が強く表れた構成となった。セットリストも、最新アルバム『HOW CRAZY YOUR LOVE』の楽曲を中心に、ヒット・チューンや初期の重要な曲を並べ立てた豪華な内容。中盤のアコースティック・コーナーでは“CHE.R.RY”のアコースティック・ヴァージョンが披露され、パーカッションや鍵盤を加えた南国ムード溢れるサウンドで「クルージング」らしいリラクシンな空気を醸し出していたのが印象的だった。
そして、特筆すべきはYUIの歌が飛躍的に成長していたことだ。とにかく一音一音に込められる熱量と感情の大きさが尋常じゃない。華やかなポップサウンドに乗って瑞々しくキュートな歌声がエネルギッシュに弾けた“It’s My Life”。燃え盛るグルーヴの上で《Nobody Knows 強くありたい》という熱っぽい歌声が一気にスパークした“Nobody Knows”。「日本が元気になるようにという願いを込めました」という紹介から光を一心に見つめる透明な歌声がシリアスに響いた“Green a.live”――。低音と高音を巧みに操り、合間に発する吐息すらもエネルギーに変えながら、ヴァリエーション豊かなエモーションを表現していた最新アルバムの楽曲には鳥肌が立ったし、色褪せるどころかさらにピュアな輝きを増していたデビュー当時の楽曲にも呆気にとられた。キャリアを積めばスキルがついて、歌もどんどん小慣れてくるのがヴォーカリストの性である。しかしYUIの歌声は、逆にどんどん瑞々しく繊細になっていく。まるで「本当に大切なもの」だけを結晶化させたように、聖なる輝きを増していくその歌声には何度聴いても驚かされるばかりだ。
とは言え、YUIが人間離れした歌声と感性を備えた孤高のアーティストであるかというと、そうじゃない。オープニングMCで「初っ端からイヤモニ付け忘れて焦った~」と茶目っ気たっぷりに口にするYUI。「元気にしとっとるー?」「かわいー!」という観客の呼びかけに、「元気にしとっとるよ!」「ありがとうございます」とぎこちなく応えるYUI。アンコールでは「もう1曲やろうかな」と予定になかった“TOKYO”を最後に演奏し、感極まって大粒の涙を流したYUI。観客をできる限り喜ばせようという心遣いが細部まで行きわたったライブ演出も含めて、この日武道館に足を運んだ1万人の観客となんら変わらぬ感覚で日々を生きる等身大の女性としての素が、そこには露になっていた。そしてそれこそが、どんなに透明に磨かれようと、YUIの歌が万人の心にまっすぐ届く普遍性と親しみやすさを失わない理由だろう。何よりすごいのは、「YUIをYUIたらしめる歌」と真摯に向き合おうとする毅然とした意志を胸に秘めながら、その両極端とも思える表現をストイックに磨き上げているところだ。あくまでもナチュラルな姿勢でそれを成し遂げてしまっている柔軟さも含めて、改めて稀有なアーティストだと思う。そんなYUIの偉大さを痛感させられた、衝撃的で濃密な2時間半のアクトだった。(齋藤美穂)
YUI @ 日本武道館
2012.01.19