中田裕二 @ 赤坂BLITZ

中田裕二 @ 赤坂BLITZ
中田裕二 @ 赤坂BLITZ
中田裕二 @ 赤坂BLITZ
「バンド全員『初めまして』の状態から始めて、お互い探り探りだったんですけど(笑)。26本回ってきた今のこのバンドの感じを観てもらいたくて、(追加公演で)赤坂BLITZを決めたんですけど……よかったでしょ?」とアンコールでフロアに呼びかける中田裕二に、熱い拍手喝采で応えるオーディエンス――昨年11月にリリースされた1stソロアルバム『école de romantisme』を引っ提げて、12月4日・仙台Rensa公演を皮切りに足掛け4ヵ月・全25公演にわたって日本全国をサーキットしてきたツアー『中田裕二TOUR '11-'12 tour de romantisme』。弾き語り形式のツアーは行っていたものの、新作を携えて、しかもバンド形式ではソロ初のツアーとなるこのツアーも、3月11日の京都MUSE公演で見事大団円。同ツアーの追加公演=26本目として行われたこの日の赤坂BLITZ公演は、「長い4ヵ月間を経て、久々に東京に帰ってまいりました! 今日はこの旅で得たすべてのものを発揮して、素敵な夜にしたいと思います!」という中田の言葉通り、彼がソロ・アーティストとして描き始めた音楽世界が、新たな編成のバンドという肉体を得て勢いよく咲き誇る、スリリングにして華麗な一夜だった。

街灯を模した照明が照らし出す、NYあたりの裏通りをイメージしたような舞台セット。三つ揃いのスーツに身を包んだ中田裕二、そして竹内朋康(G/Dezille Brothers etc.、ex. SUPER BUTTER DOG)、YANCY(Key)、小松秀行(B/ex. ORIGINAL LOVE)、小松シゲル(Dr/NONA REEVES)という強者揃いのメンバーが、さながら異国の地でストリート・ライブを展開しているような錯覚に陥るステージ風景だ。いきなり図太くうねるソウルフルなビートを叩き出すバンドの音が、中田があの艶かしい声で歌い始めた瞬間、一気に極彩色に花開いていく。男目線からの狂おしき情念を、いつどこで聴いても彼のものだとわかるくらいにドラマチックであでやかなメロディと言葉で、BLITZのフロアへと解き放っていく中田。曲ごとにロック/ジャズ/ファンクを自在に行き来しつつ、妖しく身体と心に絡みつくアンサンブルとして響かせていく竹内&YANCY&W小松の熱演。“虹の階段”の爽快にして雄大な音空間、YANCYのピアノがリードする“LOST GENERATION SOUL SINGER”のジャジーでポップなサウンド……と曲ごとにガラリと表情を変えながら、濃密な歌謡の薫り渦巻く中田の歌とエモーションが色彩豊かにステージを彩っていく。

まだソロ・キャリアをスタートして間もないにもかかわらず、椿屋四重奏時代の楽曲は本編で披露した“恋わずらい”“螺旋階段”の2曲のみ、あとはアルバム『école de romantisme』の全11曲と震災直後にYouTubeで発表した“ひかりのまち”+未音源化の新曲5曲でアンコール含めトータル2時間のステージをきっちり構成してみせた中田。「久しぶりの赤坂……もう2年以上になるんですねかね?」と、2009年12月の椿屋でのツアー以来となるBLITZのフロアを感慨深げに見渡す中田。「もうすぐ31になるんですけど、ようやく赤坂が似合う感じになってきたんじゃないかと思って……ちょっと古い赤坂感があるんですけど(笑)」と自らのスーツ姿を照れくさそうにネタにしつつ4ヵ月のツアーを振り返れば、竹内が「この時期、風邪もひかず事故もなく、よく26本完走できたな!と(笑)」と応える。「ソロ・アーティストとサポート・メンバー」の関係性に留まらない、「バンド」としての信頼感とグルーヴが、演奏やMCの至るところから滲み出してくる。そしてそれによって、愛情とエゴの狭間で悶える心を音に置き換えたような、あるいは日常と背徳のボーダーラインを踏み越える瞬間の苦悩と悦楽をそのまま活写したような、あの中田独特のメロディが、より活き活きとしたエネルギーと色合いを得て広がっていく。赤黒いギター・ロックで視界を塗り替えた“迷宮”、ファンキーなビートとともにハンドマイクでフロアを煽ってみせた“記憶の部屋”……時折「バンドマン・中田裕二」の面影を滲ませながらも、ソロ・アーティストとしての唯一無二の存在感を感じさせるアクトだった。

「12月から始めて、気づけば3月14日……3月14日って何かあったっけ?」と、女性客率の高いフロアに向けて、中盤のMCで悪戯っぽく語りかける中田。「今日は、男の子が女の子に優しくしなきゃいけない日なんですよ!」と竹内に突っ込まれれば「え? 愛撫ですか?」と返し、「ああ、ホワイトデー……僕、大っ嫌いなんですよ」「チョコなんて、勝手にくれるもんでしょ? ねえ男? 日本人には要りませんよ、ホワイトデーなんて!」と惜しげもなくSっ気を振り撒き、「……最低ですね!(笑)」と自分で苦笑してみせる。そこから「じゃあ聴いてください、ホワイトデー! 直訳すると“白日”」とうまくつないだ――はずだったが、それを聞いた竹内は「あ、そっち行く?」と慌てた様子。どうやら本来の予定では“sunday monday”を挟んでから“白日”に行く流れだったはずが、中田自身がMCの話題に引っ張られて曲順を間違ってしまったらしい。キメキメの二枚目を装ってみせながら、完璧に決まりきらないそんな場面に照れまくる中田の姿に、会場中に「しょうがないなあ」と「だがそこがいい!」が同時に広がっていく。

「ソロになって最初のちゃんとした全国ツアーなんで、そんなに本数たくさんやんなくていいじゃん? 曲もないのに。12曲ぐらいしかないしさ(笑)。それで5曲ぐらい作ったんですけど」とアンコールのMCで中田は話していたが、その新曲がどれもよかった。“endless”の目映いバンド・ワルツ的世界から流れ込んだ、ピアノ基調の3拍子系ジャズ・ナンバーも、終盤“螺旋階段”でアゲ倒した後にシンセ・リードとダイナミックなファンク・サウンドが咲き乱れた曲も、ソングライターたる自分とバンド・サウンドとの関係性を客観視した上で改めてその必然性を全身で謳歌しているような躍動感に満ちていた。本編最後をアルバムのラスト・ナンバー“ご機嫌いかが”で締め括った後、鳴り止まないアンコールで再び中田がオン・ステージ。弾き語りで新曲を1曲披露した後、「『エコール・ド・エロティシズム』のみなさんを呼びたいと思います!」のコールでバンド・メンバーが再登場(このバンドの名前は日ごとに違うらしい)。「エコール・ド・エロティシズムです!」とせっかく竹内が応えたところで、「エコール・ド・ロマン……」とまたも言い間違えてしまう中田。BLITZがどっと笑いに包まれる。

スーツでビシッと固めた出で立ちも含め、同世代のロック・アーティストの中では明らかに異彩を放つ彼だが、「みんなバラバラの格好してる中で、1人だけスーツ着てて。最初はバックバンド連れた演歌歌手みたいで……(笑)」と改めてツアー初期を振り返るその言葉も、「1人だけ(シーンの中で)立ち位置のわからないところにいますけど……こう、グワーっといけそうな感じでいます!」の声も、新たな表現のフォーマットを得た「今」の充実感に満ちている。“セレナーデ”と題された新曲の後、“ひかりのまち”に籠めた想いを真摯な歌声で一言一言丁寧に歌い上げ……終了。ツアーの総決算というよりは、中田裕二というアーティストの「その先」への壮大な予告編のような一夜だった。(高橋智樹)


[SET LIST]

01.リバースのカード
02.虹の階段
03.LOST GENERATION SOUL SINGER
04.新曲
05.バルコニー
06.迷宮
07.記憶の部屋
08.恋わずらい
09.白日
10.sunday monday
11.endless
12.新曲
13.ベール
14.螺旋階段
15.新曲
16.ご機嫌いかが

Encore
17.新曲
18.セレナーデ(新曲)
19.ひかりのまち
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