髭 @ SHIBUYA-AX

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髭 @ SHIBUYA-AX - pics by Masaru Yamamotopics by Masaru Yamamoto
「『最高』? それはこっちのセリフだよ! 最高だぜ! なんで最高なのかって? それはみんなと一緒にいるからだよ! それを除けば、渋谷にいるだけだからね。渋谷も角度を変えればこんなに楽しい街なんだね!」という須藤寿の、あの確信犯と超天然が入り混じったような独特のMCが、外の冷たい雨模様とは裏腹に序盤から沸騰状態のSHIBUYA-AXのフロアをさらに沸き返らせていく――昨年12月7日にリリースされた最新フルアルバム『それではみなさん良い旅を!』のリリース・ツアーとして、3月10日の札幌cube gardenから東京:SHIBUYA-AX/仙台:CLUB JUNK BOX/大阪:なんばHatch/福岡:DRUM Be-1/名古屋:CLUB Diamond Hallの全国6都市を回る『髭 2012 “それではみなさん良い旅を!” TOUR』の2日目=SHIBUYA-AX公演は、「髭です! みんな元気? 今日は最高の一晩にしようよ!」と序盤からぐいぐいオーディエンスを煽りまくる須藤のテンション&剛軟自在な6人のアンサンブルで、ステージとフロアが一丸となって歓喜の極点を目指すようなアクトだった。

髭 @ SHIBUYA-AX
まだまだツアーは続くため、演出やセットリストの掲載は割愛させていただくが[※テキスト中に曲名の記載がありますので、ネタバレ回避希望の方はツアー終了後にご覧いただければ幸いです]、選曲面での大きな特徴としては、『それではみなさん良い旅を!』の全14曲中13曲と『サンシャイン』(2010年)、『Chaos in Apple』(2007年)からそれぞれ4曲ずつ――というセレクトが、本編+アンコール計25曲の主軸を成していたこと。一方で、インディー時代からメジャー2作目『I Love Rock n' Roll』(2005年)までの楽曲は1曲もなし(厳密に言えば、中盤で披露した“Electric”の原型はインディー時代の楽曲“Acoustic”だが)。昨年12月に渋谷クラブクアトロで開催した「髭のディスコグラフィーを時系列順に3日間に分けて再現していくライブ・シリーズ」=『BACK TO THE FUTURE』で、6人の中で初期曲群に対して何らかの決着をつけたのかもしれないし、最近の楽曲だけで構成した「3日目」で圧巻の熱狂ぶりを生み出してみせたことが自信につながったのかもしれない。いずれにしてもこの日の髭は、白昼夢的なギター・ロックの音像越しに歓喜と高揚感を静脈注射していくようなかつてのスタイルとはまるで異なる、どこまでもオープンでラフでアッパーで無敵な「今」の髭そのものだった、ということだ。そしてそれによって、まるっきり無意味に見える歌と言葉から紛れもないロックの衝動と歓喜を立ち昇らせてしまう、という髭ならではのマジックが、よりダイレクトに頭と胸に飛び込んでくる。“それではみなさん良い旅を!”“ロックナンバー”“ラブ・ファントム(Let's go!)”での須藤/斉藤祐樹/アイゴンこと會田茂一のトリプル・ギター炸裂ポップ爆弾ぶりはすでに彼らの新たな得意技として血肉化されていたし、“トロピカーナ”や“テキーラ!テキーラ!”でハンドマイクでフロアを煽り「サンキュー!」と叫び何度もガッツポーズをキメる須藤の姿はそのまま「髭・最新型」の多幸感の象徴だった。

「『それではみなさん良い旅を!』ツアー、始まりましたよ! ここ、2日目! まさかの住んでる街2日目。初日でもファイナルでもなく2日目(笑)。今日は日曜でしょ、ね? ライブが早く始まって、早く終わる!」という須藤のMCに「明日仕事だよー!」と前列のファンが応えれば、「あーそうか……僕らはこれが終わったら、よくわからなくなるまでお酒を飲むでしょ? で……タモさんかな? 明日いちばんに見る顔は」ととぼけつつ「楽しもうよ! 今日は楽しむためにここに来たの。『今日いまいちだった』って思うために来たんじゃないの!」と再びAX丸ごと止まらない熱狂超特急に乗せてみせる。“ウルティン・ペリン”のイントロで須藤が派手にキーを間違えて中断したって、「だいたい僕たち、ライブやってると、どっかで1回お腹を壊すんだけど……すごい壊し方したよね?」(須藤)「あと5年はみんなに頭が上がらないくらいだよね(笑)」(斉藤)と笑いに変えて自分たちの音楽のガソリンにしていく。MCではとびっきりのニヒルを振り撒きながら、音楽ではニヒルの欠片も介在させることなくポップとロックを真っ向から受け入れ鳴らしていく――という境地に到達した髭だからこそ生み出せる至上の磁場。この日の“サンシャイン”がこの上なく目映く晴れやかなヴァイブをもって胸に響いたのも、その空気感あればこそだろう。

イスに腰掛けた須藤と斉藤&フィリポが極限ダルなハーモニーを聴かせてオーディエンスを異空間へトランスさせた“ロンリーボーイの話”。宮川トモユキ作曲のメロディが須藤とはまったく別種のサイケデリック・ポップ感を与えていた“バタフライ”……『それではみなさん良い旅を!』というアルバムに圧縮密封されていた音楽的トライアルの要素が、1曲1曲解凍されダイナミックに広がっていく。そして……この日のライブでもう1つの大きな特徴が、当初の「メイン・ドラム=フィリポ、ドラム&パーカッション=コテイスイ」という編成が完全に逆転していて、コテイスイがメガホン持って前面に出てきた“ガイジン”“I'm so sick”以外では一貫してメイン・ドラマーとしてビートを刻み、フィリポはドラム以外にも鍵盤やサンプラー、グロッケンなどを駆使して、6人の自由闊達なアンサンブルにさらなる音の幅を与える役を担っていたこと。須藤/コテイスイ/フィリポの立ち位置次第で、曲によって「3-1-2フォーメーション(トリプル・ギター+ベース+Wドラム)」だったり「2-2-2(2MC+Wギター+リズム隊)」だったりする髭の6人編成だが、「下手側(向かって左半分):須藤+宮川+コテイスイの3ピース、上手側(右側):アイゴン+斉藤+フィリポから成る音の奇術師チーム」とでも言うべき新たなフォーメーションが浮かび上がってくる瞬間が何度もあった。

『それではみなさん良い旅を!』は「6人全員ソングライティングという形」によって、須藤自身が曲や歌詞やバンド編成などの部分に異形感を盛り込みながら具現化してきた「空虚という名のカオス」を、初めてバンド内部に取り込むことに成功したアルバムだった。『サンシャイン』で外部ミュージシャン/プロデューサー入り乱れた制作方法をとることで逆にシンプルなポップ・アルバムを生み出したのと同じように、曲ごとのテイストも方向性も四方八方に弾けまくっている『それではみなさん良い旅を!』で髭は、というか須藤は初めて、自分の世界観と髭というバンドを同一化できたと言ってもいい。だからこそ、鼓膜をびりびり痙攣させるディストーション・サウンドも、立ち上がれなくなるくらいダウナー&ドリーミンな音像も、そのすべてが「表現の喜び」に満ちている。「やっぱり最高の日曜日になったでしょ?」「今夜はみんなのおかげで最高の夜になったよ!」と笑顔で繰り返し語る須藤の言葉は、自分と音楽との、そして音楽とオーディエンスとのより直接的なつながりを可能にした「髭・最新型」の手応えそのもののように見えて、なんだか嬉しくなった。

4月7日の名古屋公演までツアーを回った後は、4月13日には「13日の金曜日恒例」のライブ・シリーズ『CLUB JASON』が渋谷duo MUSIC EXCHANGEで開催される。オフィシャルHPによれば「ドレスコード:『JASON ホラー』 "13日の金曜日"という日をより一層楽しんでいただくため、当日は皆様にちょっとした仮装をしてご来場いただきたく思います。ジェイソン? 魔女? 猫耳ちゃん? スクリーム? ロックスター? アバター? 吸血鬼? お姫様? メイド? 囚人? どんなスタイルでもOK!!!!」とのことなのでそちらもお楽しみに。(高橋智樹)
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