「『それではみなさん良い旅を!』ツアー、始まりましたよ! ここ、2日目! まさかの住んでる街2日目。初日でもファイナルでもなく2日目(笑)。今日は日曜でしょ、ね? ライブが早く始まって、早く終わる!」という須藤のMCに「明日仕事だよー!」と前列のファンが応えれば、「あーそうか……僕らはこれが終わったら、よくわからなくなるまでお酒を飲むでしょ? で……タモさんかな? 明日いちばんに見る顔は」ととぼけつつ「楽しもうよ! 今日は楽しむためにここに来たの。『今日いまいちだった』って思うために来たんじゃないの!」と再びAX丸ごと止まらない熱狂超特急に乗せてみせる。“ウルティン・ペリン”のイントロで須藤が派手にキーを間違えて中断したって、「だいたい僕たち、ライブやってると、どっかで1回お腹を壊すんだけど……すごい壊し方したよね?」(須藤)「あと5年はみんなに頭が上がらないくらいだよね(笑)」(斉藤)と笑いに変えて自分たちの音楽のガソリンにしていく。MCではとびっきりのニヒルを振り撒きながら、音楽ではニヒルの欠片も介在させることなくポップとロックを真っ向から受け入れ鳴らしていく――という境地に到達した髭だからこそ生み出せる至上の磁場。この日の“サンシャイン”がこの上なく目映く晴れやかなヴァイブをもって胸に響いたのも、その空気感あればこそだろう。
イスに腰掛けた須藤と斉藤&フィリポが極限ダルなハーモニーを聴かせてオーディエンスを異空間へトランスさせた“ロンリーボーイの話”。宮川トモユキ作曲のメロディが須藤とはまったく別種のサイケデリック・ポップ感を与えていた“バタフライ”……『それではみなさん良い旅を!』というアルバムに圧縮密封されていた音楽的トライアルの要素が、1曲1曲解凍されダイナミックに広がっていく。そして……この日のライブでもう1つの大きな特徴が、当初の「メイン・ドラム=フィリポ、ドラム&パーカッション=コテイスイ」という編成が完全に逆転していて、コテイスイがメガホン持って前面に出てきた“ガイジン”“I'm so sick”以外では一貫してメイン・ドラマーとしてビートを刻み、フィリポはドラム以外にも鍵盤やサンプラー、グロッケンなどを駆使して、6人の自由闊達なアンサンブルにさらなる音の幅を与える役を担っていたこと。須藤/コテイスイ/フィリポの立ち位置次第で、曲によって「3-1-2フォーメーション(トリプル・ギター+ベース+Wドラム)」だったり「2-2-2(2MC+Wギター+リズム隊)」だったりする髭の6人編成だが、「下手側(向かって左半分):須藤+宮川+コテイスイの3ピース、上手側(右側):アイゴン+斉藤+フィリポから成る音の奇術師チーム」とでも言うべき新たなフォーメーションが浮かび上がってくる瞬間が何度もあった。
『それではみなさん良い旅を!』は「6人全員ソングライティングという形」によって、須藤自身が曲や歌詞やバンド編成などの部分に異形感を盛り込みながら具現化してきた「空虚という名のカオス」を、初めてバンド内部に取り込むことに成功したアルバムだった。『サンシャイン』で外部ミュージシャン/プロデューサー入り乱れた制作方法をとることで逆にシンプルなポップ・アルバムを生み出したのと同じように、曲ごとのテイストも方向性も四方八方に弾けまくっている『それではみなさん良い旅を!』で髭は、というか須藤は初めて、自分の世界観と髭というバンドを同一化できたと言ってもいい。だからこそ、鼓膜をびりびり痙攣させるディストーション・サウンドも、立ち上がれなくなるくらいダウナー&ドリーミンな音像も、そのすべてが「表現の喜び」に満ちている。「やっぱり最高の日曜日になったでしょ?」「今夜はみんなのおかげで最高の夜になったよ!」と笑顔で繰り返し語る須藤の言葉は、自分と音楽との、そして音楽とオーディエンスとのより直接的なつながりを可能にした「髭・最新型」の手応えそのもののように見えて、なんだか嬉しくなった。
4月7日の名古屋公演までツアーを回った後は、4月13日には「13日の金曜日恒例」のライブ・シリーズ『CLUB JASON』が渋谷duo MUSIC EXCHANGEで開催される。オフィシャルHPによれば「ドレスコード:『JASON ホラー』 "13日の金曜日"という日をより一層楽しんでいただくため、当日は皆様にちょっとした仮装をしてご来場いただきたく思います。ジェイソン? 魔女? 猫耳ちゃん? スクリーム? ロックスター? アバター? 吸血鬼? お姫様? メイド? 囚人? どんなスタイルでもOK!!!!」とのことなのでそちらもお楽しみに。(高橋智樹)