クリープハイプ @ 赤坂BLITZ

クリープハイプ @ 赤坂BLITZ
クリープハイプ @ 赤坂BLITZ
クリープハイプ @ 赤坂BLITZ
「すごいですね、この景色は。5年前の自分に見せてやりたいと思ってます。練習に行く時とか、スタジオに行く時から、こういう景色を思い浮かべてました……幸せです!」。序盤から“愛の標識”“愛は”“NE-TAXI”を畳み掛け、満場の赤坂BLITZを見回して感慨深げに語る尾崎世界観(Vo・G)。フロア狭しと沸き上がる熱い拍手喝采は、ライブハウスのノルマ代を稼ぐため深夜バイトに勤しむバンドマンの姿を悲しいくらいにカラッと歌い上げる“バイトバイトバイト”でさらに熱を増していく……メジャー1stアルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』を引っ提げて、5月18日・仙台PARK SQUAREを皮切りに札幌/名古屋/福岡/広島/大阪と全国を回ってきたクリープハイプのツアー『つま先はその先へ』のファイナル=赤坂BLITZ公演は、「今日は、世間では6月9日ということで、ロックの日とか言われてるけど、関係ないです! 今日はクリープハイプのツアー・ファイナルの日です! 忘れられない日にしましょう!」と尾崎が(若干噛みつつも)選手宣誓的MCを放ったオープニングの瞬間から、Wアンコールの“蜂蜜と風呂場”で湧き起こった割れんばかりのクラップまで、「どうにもならない日常への焦燥感の自然発火的表現」としてのロックの極致のような音とヴァイブが濃密に渦巻いていた。

 悲鳴と慈愛のせめぎ合いのような歌が聴く者の胸を突き上げる、尾崎世界観の超ハイトーン・ヴォイス。軽快なロックンロールから4つ打ちディスコ・ビート、ソリッドなエモ・ナンバー、ファンキーでねっとりしたグルーヴまで自在に鳴らしてみせる、小川幸慈(G)/長谷川カオナシ(B)/小泉拓(Dr)の剛軟自在なアンサンブル。“火まつり”“ABCDC”など最新アルバム『死ぬまで一生~』収録曲はもちろん、“愛は”“あの嫌いのうた”“グレーマンのせいにする”(2011年『待ちくたびれて朝がくる』収録)、“リグレット”“風にふかれて”“ごめんなさい”(2010年『踊り場から愛をこめて』)など、活動スタートから10年以上に及ぶクリープハイプの足跡を総動員して、自らの「今」と「その先」を全力で指し示すようなアグレッシブなアクト。《死ぬまで一生愛されてると思ってたよ 信じていたのに嘘だったんだ》という退廃感と諦念をそのままロックンロールの爆発力に変えてみせる“愛の標識”といい、抑え難く噴き上がる自己嫌悪を明日へと突き抜けるドライブ感に直結する“あの嫌いのうた”といい、思うようにいかない現実とそこにまとわりつくネガティビティを、圧縮もデフォルメもすることなくヴィヴィッドに描き切ることで、辛辣なはずの歌とメロディがそのままアッパーな福音として降り注ぎ、フロアを熱狂空間へと巻き込んでいく。

 「……広すぎて緊張するわ!」と言いつつ、フロアからしゃべりかける声にいちいち答えていく尾崎。「念入りにヒゲを剃りすぎて、口の下が赤く腫れております(笑)」とこの日のステージに懸ける気合い(?)のほどを示したり、「すごい雨でしょ? 大変だったでしょ? こんなに雨が降ったのは誰のせい? こんなに雨が降ったのは……グレーマンのせい!」という前振りから“グレーマンのせいにする”へつないでみせたり、「僕には尾崎マサルという父がいますが……」と以前からMCネタにしている父親に関して「……今日来ております!」と発表して歓声を誘ったり、「顔を洗ってたら指が鼻にズボッと入って鼻血出て、車で迎えに来ていた小川を待たせた話&小川が着いた時、電気料金の取り立ての人に『今お金持ってないんで』と言っているところを見られた話」でフロアとの距離感をさらに近づけてみせたり……といったMCの数々が、「物語にもならない僕らの日々」をこの上なくアッパーでスリリングなロックンロール・ストーリーに編み上げる楽曲と一体になって、会場の温度をじりじりと上げていく。「今日はほんとどうもありがとう! ツアーを回って、各地で最高のライブをしてきましたが……東京はすごく『帰ってきたな』という気がして。見たことないようなライブができて、幸せです」と、この日尾崎は繰り返し言っていたが、その熱量は取りも直さず、クリープハイプがーーというか、一時はメンバーたった1人になりながらもクリープハイプという表現を背負って10年以上進んできた尾崎の信念が生んだものだ。

 ステージを真っ赤に染め上げる“火まつり”のハード・エッジなロックンロール。“左耳”のソリッドなダイナミズム。“ABCDC”のヘヴィ&ラウドなサウンドと競い合うようにスパークする尾崎の超高音スクリーム……1曲1曲が感情の決定的瞬間のようなアクトは、あっという間に終盤へ。「去年、どうにもならない時に作った曲が、僕たちをいろんなところに連れていってくれて……続けてくことはすごく大事で。みんなも『やめたい』と思ったことでも続けてほしいと思う。今からやる曲の3分半の間だけは、そういう気持ちになってもらえたらなと思います」という尾崎の言葉に導かれて鳴り響いたのは、『死ぬまで一生~』の中でもひときわ目映い輝きを放つ名曲“オレンジ”。華やかな生活に憧れ、大切な人と離れて初めて気づく「退屈な日々」の幸せーーそんな狂おしいほどの切なさと悲しさが、《あのオレンジの光の先へ その先へ行く》というフレーズ&晴れやかなサウンドスケープを通して、僕らの胸の中にこびりついた後悔や懺悔の念と共振し、でっかい高揚感とともに解き放っていく。最高に感動的な場面だった。

 “HE IS MINE”の前には尾崎が「今日ね、家族が来てるんですよ! 勘弁していただけないでしょうか? 息子のこんな姿を……よしみんな、絶対言うなよ!(笑)」と悪戯っぽく言いつつ、「♪今度会ったらーー」「♪セックスしよう!」とうれし恥ずかしの特大コール&レスポンスをキメて、BLITZ一丸の共犯関係とでも言うべき狂騒感を描き出していく。オーディエンスとの「共鳴」を越えた、お互いの肌触りまで伝わるようなリアルな悦楽感が、この場所には確かにあった。“イノチミジカシコイセヨオトメ”“手と手”でフロアをでっかいダンスとジャンプと熱狂で包んだところで本編終了。アンコールでマイナー・コードのロックンロール“欠伸”を披露して一度引っ込んだ後、4人は再びステージに登場。

 「大きな会場になっても、こういうライブのやり方なのはよくないのかもしれないけど……」と尾崎。「100人ぐらいのライブハウスで、みんなの声が聴こえるようなところでしかやってなかったから。今日は後ろのほうの声とかよく聴こえないんだけど、どこに行っても、こういうやり方しかできないなと思いました。これからも、どうぞよろしくお願いします!」――その言葉に応えるように、熱い歓声が沸き上がる。正真正銘ラスト・ナンバー“蜂蜜と風呂場”のパワフルなダンス・ビートに合わせて、ツアーの成功を会場全体で祝福するような、高らかなクラップの響きが、いつまでも胸に残った。すべての音が止んだ後、「今から、ツアー・ファイナルによくあるやつをやります!」(尾崎)と、4人が手を取り合って深々と一礼。「……メンバーの手とか久しぶりに触ったな」と笑う尾崎の顔にも充実感が滲む。クリープハイプという名の強烈な磁場とロックンロールは、これからもっともっと僕らを激しく鼓舞してくれるに違いない……そんな確信を強く与えてくれる一夜だった。(高橋智樹)



[SET LIST]

01.愛の標識
02.愛は
03.NE-TAXI
04.バイトバイトバイト
05.あの嫌いのうた
06.リグレット
07.チロルとポルノ
08.グレーマンのせいにする
09.火まつり
10.風にふかれて
11.ごめんなさい
12.左耳
13.ABCDC
14.SHE IS FINE
15.オレンジ
16.ウワノソラ
17.身も蓋もない水槽
18.HE IS MINE
19.イノチミジカシコイセヨオトメ
20.手と手

Encore 1
21.欠伸

Encore 2
22.蜂蜜と風呂場
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