サカナクション @ Zepp Tokyo

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サカナクション @ Zepp Tokyo
サカナクション @ Zepp Tokyo
 最高のツアー・ファイナル――であろうことはライブ前から期待していたし予想もした上で臨んだのだが、驚愕どころか戦慄レベルでその期待値をあっさりと飛び越える壮大なエンターテインメントが、折しも首都圏を台風4号が直撃しつつあった6月19日・Zepp Tokyoでは確かに展開されていた。「自分の想いを伝える」とか「楽曲の世界観を伝える」とかというパーソナルな側面を持つ表現としてのロックが/音楽が同時に、そのまま無上のエンターテインメントであることを体現してきたのが、特に『kikUUiki』『DocumentaLy』でのサカナクションだったーーというのは今さら書くまでもないが、昨年幕張メッセでのワンマン・ライブで巨大な熱狂空間を生み出すことに成功した5人が、2012年の今この場所で描き出す音世界は、もっとエネルギッシュで、爽快で、なおかつ強靭な底力を感じさせるものだった。

サカナクション @ Zepp Tokyo
サカナクション @ Zepp Tokyo
 昨年6月にも札幌・名古屋・大阪・東京の4会場6公演にわたって行われた、サカナクションのZeppツアー=『SAKANAQUARIUM 2011 "ZEPP ALIVE"』。今年『SAKANAQUARIUM 2012 "ZEPP ALIVE"』として再び決行されたZeppツアーは6会場・9公演の拡大開催ながら全公演ソールドアウト。激しい雨風をものともせずに集まった2700人のオーディエンスの熱気が、開演前SEのパーカッションの響きとともに大きなクラップへと形を変える。暗転した空間の中、ステージを覆う白幕に5人DJ状態でステージ前方に一列に並んだ姿が浮かび上がり……というオープニングの場面に、その熱気が一瞬にして割れんばかりの大歓声へと変わる! そして、江島啓一が、草刈愛美が、岡崎英美が、岩寺基晴が、山口一郎が定位置につき、“Klee”の《始まりです 始まりです》のフレーズを響かせ、“アルクアラウンド”“セントレイ”とサカナクション・アンセムを連射した序盤の時点で、ジャンプ&シンガロング巻き起こるこの日のZepp Tokyoの祝祭感はすでに沸点を軽く越えていた。山口の真摯な歌と響き合い呼応し合う、迷いなきビート、鋭利なギター、輝度とスリルに満ちたシンセ・サウンド……着実に未来へと歩を進めるようなサカナクションのリズムが、他ならぬ僕らの魂の鼓動として高らかに、誇らしく鳴り渡っていく。

サカナクション @ Zepp Tokyo
サカナクション @ Zepp Tokyo
 が、オーディエンスのむせ返るような歓喜を、アコギの響きをフィーチャーしたゆるやかなナンバー“フクロウ”で受け止めた5人は、聴く者すべてを震撼させるヘヴィ・バラード“壁”を、なんと機材のランプ以外は全消灯状態の漆黒の闇の中で披露していく。さらに、最新シングル『僕と花』カップリングの“ネプトゥーヌス”では、リアルタイムで形を変えるオイル・アートの映像をバックに《僕は砂》と妖しい歌で観客の心をまさぐっていく。4つ打ちビートや電子音など、誰よりもダンス・ロック的なテクスチャーを擁しながら、単なる高気圧的なダンス・フロアを演出するだけではなく、あくまで歌として/音楽としてのアートフォームを捨てることなく、いやむしろそれを積極的に内包し、自分たちの音楽世界の中で強烈なコントラストを描いていくことで、サカナクションという表現をどこまでも鮮やかなタペストリーとして編み上げている……そして。観客を異世界へ誘った後は、“『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』”の極彩色コーラスで悦楽の頂点へ連れていくことも忘れない。天井からつり下げられた15個のボールが平面や立体を描き出す――という独特のライティングが、もう何度も聴いたり観たりしている名曲にさらなる驚きと感激を与えていく。バンド・メンバーやPAスタッフのみならず、照明/舞台装置などを含めて高度にトータル・コーディネートされた「チーム・サカナクション」の機能性の高さを、そのステージがもたらす快楽性が何より明確に物語っている。

サカナクション @ Zepp Tokyo
 ほぼMCもなしで、ライブ中盤まで曲と曲の間をシーケンスや残響音でつなぎながらほぼノンストップ状態でのアクトを展開していく5人。ステージ全体でふっと息をつくような静寂の後で披露されたのは、ドラマ『37歳で医者になった僕~研修医純情物語~』の主題歌にもなっている新曲“僕と花”(山口も触れていたが、奇しくもこの日がドラマ最終回放送日だった)。柔らかく脳裏を包み込むようなセンチメンタルなサウンドとともにフロアに広がる《つまりは僕の目は花 探してた》という歌声が、オーディエンス1人1人の心の中に艶やかな大輪の花を咲かせーーたかと思うと、そのまま再び5人DJ状態で前列に並んだ5人がMacBookを操りながら“boku to hana remix”へと雪崩れ込む。感覚すべてを塗り替えるような、レーザー光線と電子音の海へ……「Zepp Tokyo!」という山口のコールとともに“ネイティブンダンサー”“アイデンティティ”“ルーキー”“エンドレス”と会場一丸の本編クライマックスへと突入する直前、その音世界がひときわ狂おしく目映い輝きを放った瞬間だった。

 1時間半ほどの本編に続き、アンコールでは“Ame(B)”の壮麗なコーラスワークから“ライトダンス”へ、そして「新曲聴きたい?」の山口の言葉に導かれて、すでにモード学園CM曲としてOAされている新曲を披露。CMで披露されているのが実は楽曲の「ほんの一部」で、多彩な曲展開とともに1歩1歩絶頂へ歩んでいく楽曲について「タイトルは“夜の踊り子”。“伊豆の踊り子”じゃないですよ(笑)」と紹介していた山口。「札幌からぐるっと回って、昨日も東京だったんですけど。最後……台風来ましたね(笑)。『持ってる』のかどうかわからないですけど……こんなに多くの人が集まってくれてありがとうございます」というMCに、満場のオーディエンスもここぞと拍手喝采で応える。「本編MCなしで、今のサカナクションをーー過去の曲とかも含めて、今の『チーム・サカナクション』を体感していただいたわけですが、いかがでしたでしょうか? 僕らだけじゃなくて、チーム・サカナクションにも拍手をいただけたらと思います!」の言葉に、さらに高らかな拍手が広がる。

サカナクション @ Zepp Tokyo
 「すべてはこの日のために精進してきました!」と岩寺。「去年の(『SAKANAQUARIUM』ツアーの)こととか、曲をやるたびに頭に浮かんできて」と岡崎。「台風なんて呼んじゃって……いろんな奇跡が起きてるから(笑)。またツアーでみなさんの前に戻ってくると思います。楽しみに待っててください」と草刈。「全公演ソールド・アウトで、東京もこんなたくさんの人が……これ、当たり前じゃないよね?」と江島ーーというところで、「どうしたの、お前? 泣いてんの?」と絡む山口。「泣ーけ! 泣ーけ!」と煽るオーディエンス。稀代のロック・アート集団たるサカナクションが、ほんの一瞬「5人のミュージシャン」に戻った瞬間だった。

サカナクション @ Zepp Tokyo
 「今日のZepp Tokyoで僕、ちょっと見えたんです。『ロック・エンターテインメントを、バンドを使ってやる』っていうやり方が」と、山口は語っていた。「ドラマ主題歌も……面白いと思いました。僕、ほとんどテレビ見ないんですけど、たくさんの人に知ってもらえると、いろんなことができるんだなあって実感したし。もっと外に出て挑戦していこうと思います……歌番組は出ないと思うけど(笑)」……自分の表現欲求と「いろんな戦略を立てて、音楽を好きな人を増やそうと思ってます」(山口)というシビアな冒険心を両手に携えたサカナクションだからこそ、さらなる高みへと僕らを連れていってくれるに違いないーーと、アンコール最後の“ナイトフィッシングイズグッド”とWアンコール“三日月サンセット”を聴きながら強く思った。終演後、帰路の嵐の中でも、胸に熱く残ったその確信は微塵も薄らぐことはなかった。(高橋智樹)
サカナクション @ Zepp Tokyo
サカナクション @ Zepp Tokyo

[SET LIST]
01.Klee
02.アルクアラウンド
03.セントレイ
04.モノクロトウキョー
05.フクロウ
06.壁
07.ネプトゥーヌス
08.『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
09.ホーリーダンス
10.インナーワールド
11.サンプル
12.僕と花
13.boku to hana remix
14.ネイティブダンサー
15.アイデンティティ
16.ルーキー
17.エンドレス

Encore 1
18.Ame(B)
19.ライトダンス
20.夜の踊り子(新曲)
21.ナイトフィッシングイズグッド

Encore 2
22.三日月サンセット
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