このイベント「FLY LIKE AN EAGLE」は2008年10月から始まったもので、今回が7回目。テーマは、簡単に言うと、気鋭のニューフェイスに集合してもらうといったもので、まさに第1回目に凛として時雨が登場しており、その後も気の利いたラインナップ続きでロックファンを楽しませている。
今回の3組は必ずしもニューフェイスというわけではないものの、凛として時雨のTKは初のソロアルバムリリース後の初の単独ライヴ。初恋の嵐は10年の歳月を超え再始動したところ。そしてストレイテナーは今年からチャレンジしているアコースティック編成での出演。と、よくよく考えてみれば新展開を見せるライナップが揃った、やはり見所の多い組み合わせとなった今回の「FLY LIKE AN EAGLE」。それでは登場順にレポートしていきます。
ストレイテナー
開演時刻18時きっかりに登場した4人。すでにアコースティックアレンジでのツアーも体験しているだけあって、足取りも佇まいも実に落ち着いたもの。シンペイ以外の3人がソフト帽子を被るなど(日向は眼鏡も着用)、視覚的な要素も含め“今年のテナー”を登場の瞬間からしっかりとアピールしてくる。全員が着席したところで、息を合わせる意味で4人がちょっとしたアドリブで音を紡ぎ合ったりするのだが、その緩やかな音色で何気に場内を彼等の色で包んでいく手法も上手い。イベントながら、こういう悠々自適さを忘れない小憎らしさもまたテナー。
曲はミディアムの“YOU and I”からスタート。アコースティックアレンジとはいえ、ホリエの歌唱は高音の伸びを充分に効かせた、それこそバンドバージョンと変わらない声量でなかなかに熱い。歌い終わるや「サンキュー」の一言ともに、早くもピアノの前に移動。ここでもアコースティック用にテンポを落とした“Toneless Twilight”が登場するが、声高ぶりはさらに加熱していくという、メロディーをしっかり聞かせるというアコースティックーアレンジの本懐を一気に強めていく流れで聞かせる。
3曲演奏したところで、今や最初の挨拶としてお馴染になったホリエの「俺達、ストレイテナーといいます。よろしくお願いします」という一言からちょっとしたMCタイム。ここではイベントのトップらしく後続への期待感を募らせる意味で、日向がこの後、TK from 凛として時雨 でもベーシストとして登場することを告知。そのほか、TKとは実は飲み友達で「ああ見えて、よく笑います」「ああ見えて、甘いお酒が好きです」等々、意外なエピソード話で場内を笑いに誘うものの、シンペイの「ピエール(中野)に怒られるかもよ」とのフォローで、話をほどよく切り上げ次の曲へ。OJのゆるいリフから聞き覚えのあるピアノのフレーズを絡めていく“SIX DAY WONDER”、独白をフィーチャーした“LIVES”と、この夏のアコースティックーツアーでも中盤のアクセントになった曲を次々と披露し、時間の流れをさらに支配。そのまま一気に必殺技ともいえる“KILLER TUNE”“Melodic Storm”という王道メニューへと立て続けに繋げていく。40分の持ち時間で8曲と、ちょっと駆け足過ぎてもったいないくらいの展開だったが、今年のアコースティックツアーの特に効果的だった部分をしっかりと抽出した、むしろそんなタイトさがいいライヴだった。
2012年の収穫だったアコースティックアレンジは「今回を以ってしばらく封印」(ホリエ談)ということもあり、やはり、今日のライヴは彼等にとっても特別な感慨があったようで、最後、全員がステージ最前列に揃い肩を組んでお辞儀をしていた光景は、まだ1番手なのにすでにイベントの大団円を飾るかのような晴れやかさ。いいテンションだけでなく健やかな余韻を残してイベントを次へと繋げていった4人でした。
1 YOU and I
2 Toneless Twilight
3 Sad Code
4 SIX DAY WONDER
5 LIVES
6 シンクロ
7 KILLER TUNE
8 Melodic Storm
初恋の嵐
2002年のメジャーデビュー以前からリスナー間の評判も高かった彼等。デビューも果たし、さてこれから!という、そんな矢先にフロントマンのギター&ヴォーカル西山達郎が急逝し、惜しくも活動を停止してしまった初恋の嵐。しかし、現在最前線で活躍するアーティスト達の中に、かつて初恋の嵐を愛聴していたという面々が殊の外多いことから、複数のヴォーカリストに曲毎にゲスト参加してもらうという、前代未聞のスタイルで昨年から活動を再開した隅倉弘至と鈴木正敏の2人。本日のライヴで事前に告知されていた登場ヴォーカリスト達は岩崎慧(セカイイチ)、クボケンジ(メレンゲ)、菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)、堂島孝平という面々からも、この初恋の嵐というバンドがいかに特別な存在だったのかを感じていただけると思う。
ライヴは、まずドラマーの鈴木正敏が一人で登場し、客席に向かっての深いお辞儀からスタート。彼がマーチとボレロが合体したようなゆっくりとしたリズムを奏で始めると、次にベーシストの隅倉弘至が登場し「こんばんは、初恋の嵐です」と挨拶。そこから、ギター2人、キーボード、パーカッションの4人が加わり6人編成となったバンドサウンドが鳴り響き舞台が整うと、隅倉の紹介で次々とヴォーカリストが入れ替わり立ち代わり登場するという贅沢な時間が始まる。
それにしても初恋の嵐の楽曲は、オリジナル盤の西山の落ち着いた歌声からナイーヴな印象が強かったのだが、メロディーの起伏という点で実はなかなかにエモーショナルなんだな、ということに今更ながら感じ入ってしまった。演奏は基本的に原曲に即したもので、先陣を切って登場した堂島孝平にせよ2番手のクボケンジにせよ歌メロをほぼ忠実に歌おうとするのだが、意外にどの曲も歌う側に狂おしい高音や激しい抑揚を強いるところがある。なので歌う側もついつい情感を高めざるを得ないというか、油断できないというか、緊張感が張り詰めた風情にこちらもついつい身体に力が入ってしまった。後半に登場した岩崎慧、そして菅原卓郎についてもそれは同様で、曲調がバラードやミディアムであってもいつしか声が昂ぶっており、メロディーに食らいついているという佇まいへと豹変していくのが面白い。進行の手際の良さもあり、10年の時空を超えて蘇った6曲30分が過ぎていくのは、あっという間の出来事だった。
1 罪の意識(Vo.堂島孝平)
2 Untitled(Vo.クボケンジ)
3 真夏の夜の事(Vo.クボケンジ)
4 初恋に捧ぐ(Vo.岩崎慧)
5 星空のバラード(Vo.菅原卓郎)
6 君の名前を呼べば(Vo.菅原卓郎)
TK from 凛として時雨
そして最後に登場したのが、本日ソロ初ライヴを披露するこの人。舞台転換時の機材搬入はスムーズで「意外に早く始まるかな?」と思ったものの、そこからのサウンドチェックが入念で一層期待度が高まる。バンドメンバーは事前に告知されていたとおり、べースに日向秀和、ドラムにBOBOという強靭過ぎるリズム隊に加え、そこにバイオリン、チェロ、キーボードが加わるというほぼレコーディング通り編成のほか、もうひとりのギターにART-SCHOOLの戸高賢史も参加した豪華編成。
ステージ中央のTKを背後から取り囲むように半円形に6人のミュージシャンがずらり並んだ光景はそれだけでゴージャス感もたっぷりだが、そんな優雅な気分を切り裂くように、いきなりイントロのギターストローク一発目で、そしてハイトーン・ボイスの付き抜けで、エネルギーマックスのスタートを見せるTKの瞬発力がものすごい。場の空気が一瞬にして変わるや、そうなると遠慮しないのが日向&BOBOのリズム隊。アルバム以上のスピード感で応戦体勢に入るが、しかしその追い風を悠然と受け止めギターと歌の渾然一体状態をさらに強めていくTKの逞しさがまた美しい。時折「ありがとう」と囁く以外にMCもほとんど無いまま、まずはアルバムの中でもラウドな曲を畳み掛けるように飛ばしていく前半戦。イントロも無いままいきなり始まる“12th laser”ではそのインパクトが一層明確に発揮されており、ソロらしい大胆さ、思い切りのよさが際立った瞬間として強く印象に残った。
一転して中盤から後半にかけては、ダウナーなサウンドアレンジでじっくりと聞かせる曲を中心に並べていく。TKがアコースティックギターに持ち変えて演奏する“haze”“fourth”といったメロウな曲が続くのだが、そこで一層活躍するのが女性メンバーで揃えた弦&鍵盤。“fourth”でフィーチャーされるチェロの響きは、TKの足元に置かれたランプだけが灯る闇を描いた照明効果にさらに奥行きを加える一方、スローナンバー“film A moment”では音数とスピードを絞った「間」で聞かせるピアノのイントロに日向のベースが絡むアンサンブルから全体の熱量を時間と手間隙をかけてふつふつと上げていく贅沢なアレンジで披露。視覚的なアイデアも含め、曲想をライヴの現場においても丁寧に再現していこうとする、初ライヴにしてかなり贅沢な内容を誇るステージとなったが、その充足感は40分をほぼノンストップで駆け抜けた後、実に誇らしげにステージを去っていたTK本人の足取りに示されていたと思う。
しばらくの間、どよめきに包まれていた場内だったが、しばらくすると我に返ったようにアンコールを求める拍手が始まる。「あの調子だとアンコールあるかも…でも、やるとしたら何?」と考えていたら、5分ほど経ったところで一人でTKが登場。「カバーとか普段はやらないんですけれど、今日は初恋の嵐さんの曲を」といった短いMCに続いて彼がアコースティックギターの弾き語りで歌い始めたのは“涙の旅路”。一番手のストレイテナーと同じアコースティックアレンジ、2番手の初恋の嵐の楽曲、という意味合いも含め、何気に今日のイベントの総まとめを粋なふるまいで締め括ったTKでした。(小池清彦)
1 Abnormal trick
2 12th laser
3 phase to phrase
4 flower
5 haze
6 fourth
7 film A moment
アンコール
1 涙の旅路