岡村靖幸 @ Zepp DiverCity

岡村靖幸 @ Zepp DiverCity
『岡村靖幸 LIVE TOUR 2013「むこうみずでいじらしくて」』

3/15・16のSHIBUYA-AX2デイズで幕を開け、4/27の青森市民ホールまで15公演を駆け抜ける最新ツアーの、10本目。2デイズ開催となったZepp DiverCityの2日目の模様をレポートしたい。昨年初頭の『エチケット+』と同様、1ヶ月の間に都内だけでも4本のワンマンを敢行してしまうという、今の岡村ちゃんである。全15公演という本数は、2011年の復帰以降のツアーでは最多。というわけで、今後は金沢、新潟、静岡、仙台、青森と公演を控えているため、参加を楽しみにしている方は、以下少々のネタバレを含むレポートの閲覧にご注意を。

まずバンド・メンバーは、上良典(Dr.)、大古富士子(Key.)、上杉雄一(Sax.)、澤野博敬(Tp.)、YOKORINこと横倉和夫(Ba.)、「夜の羅針盤」(ツアー各地で歓楽街を案内してくれるらしい)こと佐藤純朗(G.)、そしてMC兼任の白石元久(マニピュレーター)というお馴染みの面々。女性ダンス・チームにTHE GALAXXXXY★(YUMIE & JUNKO)、更に今回の公演では、スペシャル・ゲストとして男性ダンサーたちも加わっていた。その人数と岡村ちゃん含めてのダンス・パフォーマンスにより、視覚的にもかなり賑やかで華やいだステージだ。女性ダンサーとはそれぞれ手を取り合って踊ってみせたり、男性ダンサーとはビシッと指を差し合ってキメたり、岡村ちゃんも楽しそうだった。オープニング・ナンバーは、へえ、この曲なのかという少し意外な選曲なのだけれど、楽曲の認知度は高いはずだし、パフォーマンスの滑り出しにもうってつけである。

セット・リストは、単純に楽曲タイトルだけで言えば近年披露されているものと大きく異なることはないのだけれど、『LIVE エチケット』や『エチケット+』の頃と比べると、リアレンジが加えられた楽曲がまた随分増えている。BPM130ぐらいのアップテンポな“どぉなっちゃってんだよ”などもあるが、あの強烈な音圧のマッシヴなファンクを叩き付けられ、オーディエンスがぶっ飛ばされる、という感じの手応えが後退して、たっぷりスウィング感を含んだジャジーな演奏だったり、フィリー・ソウルばりに優しくじっくりと岡村ちゃんの歌を聴かせてくれたり、大人の余裕と深みを受け止めさせるアレンジが多くなった。今はもう、岡村ちゃんががっちりとコンディションを整えて、体を作って、ライヴに臨んでいることはみんな知っているし、力強さだけを殊更にアピールする必要はない。そういう変化に思えた。

岡村靖幸 @ Zepp DiverCity
すると、どうなるか。爆音と張り合うようにして声を上げていた岡村ちゃんの歌が、きっちりとオーディエンスの胸元ど真ん中に届けられるようになり、以前よりも歌そのものをよりインタラクティヴに楽しめるようになったのだ。具体的には、オーディエンスと一緒に“ビスケットLOVE”の《あなたとならSexフレンド最高に楽しそう》を歌いながら岡村ちゃんが「すごいこと言うね!」とツッコんで笑わせてくれたり、BUCK-TICKの櫻井敦司ソロに提供した“SMELL”の官能的なパフォーマンスをたっぷり堪能させてくれたり、若いリビドー放出型の変態性というよりも、アダルトでスマートな、そのぶん一層タチが悪い、今の岡村ちゃんに相応しいと思える変態性が炸裂していて最高なのだ。そして白石元久が「新曲いきまーす!」と告げて始まった一幕。世を憂いながらも人々に呼びかけて人生を突き進む、そんなポジティヴなタイプの岡村節が披露された。コーラス部分に華があってキャッチーで、しかも他アーティストへの提供曲とかではなく、岡村ちゃん自身が歌ってくれるというのが何より嬉しい。

白石によるMCでは、「きのう、カメラが入ってたんですよ。16台。何に使うんでしょうねえ」とか言いながら、『ライブ エチケット』のディレクターを務めていた村尾輝忠を呼び込み、休憩中の岡村ちゃんの表情の接写を試みている。「この秘蔵映像を、DVDの特典にしようと思います」って、DVDって言っちゃってるじゃないか。「秘蔵映像、入ってたら買いますか?」と商売上手である。岡村ちゃん、映像の使用許可は考えておく、とのこと。また、白石がファンの身代わりとなって岡村ちゃんとハグをする、という場面では、暗転した中に照明さんが気を利かせてピンク色のピンスポを当てたり、ステージ背景のピーチ・マークを煌めかせたりしていて可笑しい。

岡村靖幸 @ Zepp DiverCity
第2部みたいな進行の後半に入ってから、岡村ちゃんの歌とダンスはますますヒート・アップし、前半は控えめだったギターも後半は情熱的なカッティングを弾きまくっていた。カヴァー含めたキーボードの弾き語りも「歌」を軸に据えたパフォーマンスの中にぴったりとフィットしている。ただ単に「岡村ちゃんの音楽を浴びる」「岡村ちゃんの超絶パフォーマンスを目撃する」というよりも、より参加型の性格が強まった印象のライヴだったからこそ、岡村ちゃん自身も楽しめていたのではないだろうか。それによって、歌もダンスもヴォルテージを上げてゆく。そういう連鎖反応で作り上げられてゆくライヴだ。言い方を代えれば、オーディエンスには、岡村靖幸という巨大な才能に食らいついてゆく意志が求められることになる。

そういうわけなので、今後のツアー日程に参加するのにレポートを読んでしまった、という方には、せめて時間の許す限り、岡村作品の復習をおすすめしておきたい。例えば女性の方なら“聖書〈バイブル〉”の女性コーラスのパートとか、他にもいろいろ、歌詞を預けてくる場面が散見されたので。おそらく歌に参加することで、ライヴの楽しみ方が変わってくるはずだ。ぜひ。(小池宏和)
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