フジファブリック @ NHKホール

「『VOYAGER』というタイトルは、旅であったり航海という意味があって。旅の途中の人だったり、何かに行き詰まったりしている人に聴いてもらえたらいいなと思って付けたタイトルなんですけど、今の自分たちにとってもピッタリなアルバムを作ることができて、本当に嬉しく思います」……終盤のMCで、こう感慨深げに語りかける山内総一郎。さらに「ツアーを経て『VOYAGER』が完成すると思っているので、この日を迎えられて嬉しいです!」と続けると、満場の客席から温かな拍手が送られる。フジファブリックの最新アルバム『VOYAGER』を引っ提げた、全国ツアーのファイナル=NHKホール公演。その言葉が象徴するように、3人体制になって以降、新たな音楽を探究するという壮大な航海の果てに手にしたダイナミックなサウンドが、この日のライブでは鳴っていた。すでに新体制になって4度目のツアーだが、このツアーこそ真の意味での新生フジファブリックの船出を祝う場とでも言いたくなるような、圧倒的なポジティヴィティと「その先」を示唆するような革新性が、この日のライブには溢れていたのだ。

3人で初めて作り上げたアルバム『STAR』から1年半。それから3度のツアーと3枚のシングルリリースを経て、フジファブリックとしてバンドを走らせていく覚悟と自信をさらに強めた3人の「今」が、最新アルバム『VOYAGER』には高らかに鳴っている。この日のライブは、その紛れもない事実を音源以上に証明するものだった。山内/金澤ダイスケ/加藤慎一のオリジナル・メンバーに、すでにお馴染みとなったドラム:BoBoと今回が初参戦となるギター:名越由貴夫という強力なサポート・メンバーを加えた5人編成で鳴らされるサウンドの輝きといったら! BoBoの強靭なビートを土台として、山内のヴォーカルと共に前へ前へと伸びていくサウンドは、場内を一点の曇りもなく照らし出す強烈な光のような目映さと力強さを持っていた。今回は初のホールツアーということで、趣向を凝らした演出も満載。まだ追加公演を残しているので詳細は明かせないが、観客の度肝を抜いたオープニングから最新テクノロジーを駆使したライティングに至るまで(山内いわく、今回の照明には「世界初」もとい「宇宙初」の試みが成されているらしい)、シンプルながらも会場の広さを生かしたコンセプチュアルでダイナミックな演出も絶妙にハマっている。

なにより、最新アルバム『VOYAGER』の楽曲が素晴らしい。ここから繋がる未来を暗示するかのように煌びやかなサウンドが羽を広げた“Small World”や、客席のあちこちでLEDライトが揺れ、バンドの新たなアンセムへと定着した感のある“流線形”などが描き出す、アッパーな多幸感。アコースティックの柔らかな音色に乗せてストレートに綴られた“春の雪”の抒情味あふれる歌。そして、練り上げられたアンサンブルの上で妖しく捻じれたメロディーが暴れ回る“自分勝手エモーション”のスリリングな響き。3人それぞれの才気とアイデアが自由で開放的な音となって炸裂し、場内を一気に呑み込んでいく底知れないパワーが、どの曲にも宿っていた。特に圧巻だったのは、中盤にプレイされた“Fire”。硬質な打ち込みと金澤のシンセサウンドを基調として、終盤に向けて熱を帯びていく極彩色のサウンドは、まるで得体の知れない生き物が躍動しているよう。これまでのフジファブリックの楽曲とは一線を画す挑戦心に満ちたサウンドに、多くの観客は圧倒されていた。

MCでは、デビュー前に東高円寺でギターケースを持ってバンド練習に向かう際、たまたますれ違ったオバちゃんに「楽器をやっているならN響(NHK交響楽団)を聴きなさい!」と話しかけられたエピソードを皮切りに、「そんなN響のホームであるNHKホールでライブがやれて嬉しいです!」と話す山内。さらに金澤が「僕にとってNHKホールは『おかあさんといっしょ』の公開収録が行われていた聖地。というわけで、今日はゲストを呼んでいます!」として“ニャンちゅう”(NHK教育の番組に登場していたネズミのきぐるみを着たネコのキャラクターです)の物マネを披露して場内の爆笑を誘う……といったサービス精神も覗かせて、ほぼ18時ジャストに始まったライブは、アンコール含め全21曲を終えた頃には20時半になろうかという勢い。過去のキラー・チューンもきっちりと披露して、全7公演にわたったホールツアーを華やかに締め括った。アンコールでは、秋にライブハウスツアーを行うことも発表。今後ますます精力的に動いていくだろうフジファブリックの動向からは、まだまだ目が離せそうにない。(齋藤美穂)
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