THE NOVEMBERS @ 恵比寿ガーデンホール

THE NOVEMBERS @ 恵比寿ガーデンホール - pic by OZKpic by OZK
「この恵比寿ガーデンホールは、とても思い入れのある会場で。というか、憧れに近いかな? 大好きな海外ミュージシャンのイベントやファッションブランドのショーをやっていて、たくさんのステキな思い出があるので。そんな場所で今日のような特別なライヴができて、とても嬉しく思います」――という言葉が小林祐介(Vo/G)の口から語られたのは、アンコール冒頭でのこと。しかし、ほとんどMCらしいMCがないまま推移した本編のアクトを観ただけでも、この日のライヴに賭けるTHE NOVEMBERSの意気込みは痛いほど感じることができた。それだけ、彼らがアイデアを駆使して作り上げた美しいステージには、真摯な想いやメッセージが隅々まで溢れていたのだ。5月15日リリースのミニ・アルバム『Fourth wall』を引っ提げた、全国ツアー「“GIFT” and “Fourth wall” Release Tour “I’ll Be Your Mirror”」のファイナル公演。この日のライヴは、今後THE NOVEMBERSの歴史を語る上で、とても重要なポイントとなっていくことだろう。

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SEが流れると、ステージを覆う半透明の緞帳に万華鏡を連想させるサイケデリックな映像が投射され、静かに幕を開けたアクト。その向こう側にメンバーが登場し、1曲目“dogma”へ突入。ゆるやかに変容していく映像と相まって、高松浩史(B)のゴリゴリとしたベースラインが大きな弧を描いていく。“primal”に入ると、真っ赤な逆光を浴びたメンバー4人のシルエットが緞帳に浮かび上がり、俄然スリリングなムードに。ケンゴマツモト(G)は頭をガンガン振りながらエッジの立ったギターを掻き鳴らし、吉木諒祐(Dr)はパワフルなビートを轟かす。そして、曲が終わると同時に緞帳が切って落とされ、メンバーの姿が露わに。そのまま“Figure 0”へ雪崩れ込むと、今度は紫のレーザー光線と照明が場内を駆け巡り、うっすらと靄がかったステージから放たれるヘヴィな轟音に、さらなる狂気じみた彩りを添えていった。

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――と、ドラマティックに作り込まれたオープニングに触れたところで言及しておきたいことがある。それは、本ツアーが『Fourth wall』のみならず、昨年11月に発表された3rd EP『GIFT』のリリース・ツアーでもあるということだ。そもそも『GIFT』は、デビュー当初から鋭利でダークなロックを貫いてきたTHE NOVEMBERSが、はじめて明るく開放的な音を鳴らした意欲作だった。その反動として生まれたのが今回の『Fourth wall』であり、両作品は表裏一体、つまり2枚揃ってはじめてひとつの意味を成すものと言える。それをライヴという生の場で、改めて提示しようとするのが本ツアーの意図。これまでも音楽にとどまらない多彩な表現を試みてきた彼らだけに、この日のライヴでも、創意工夫に富んだアーティスティックな演出が光っていた。

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緞帳越しに『Forth wall』の2曲を演奏したオープニングとは対照的に、“Harem”“Reunion with Marr”“Slogan”の『GIFT』収録曲3連打では、穏やかな光の下で温かみのある音世界を広げていく。9曲目を終えたところで「改めましてTHE NOVEMBERSです。今日は来てくれてありがとう」と、やっと最初の挨拶をし、「次に未来に関する歌を聴いてください」という言葉に続いて、大切な宝物をいつくしむような優しいトーンで“GIFT”を歌う。“Stay Away”や“永遠の複製”では鮮やかな映像とレーザー光線を駆使した仕掛けでトリップさせ、“Fiedel”では地平の彼方へと伸びていくシンフォニックなサウンドを青と白の光が彩る――と、息を呑むシーンの連続。本ツアー唯一のワンマンなだけに、期する部分もあったのだろう。「ふたつの作品のためのツアーを5月から回ってきて、今日のライヴで何か特別なことができればいいなと思っていました。そこに立ち会ってくれてすごく光栄に思います」という言葉から、本編ラスト、壁一面に映し出されたゴシック教会のステンドグラスのような映像を背負って“Dream of Venus”~“children”を披露し終えるまで、彼ららしい強烈な美意識とメッセージ性に裏打ちされた、音と光の共演はダイナミックに続いていった。

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アンコールでは、冒頭に抜き出したMCに続いて“ウトムヌカラ”を披露。そして、彼らと他分野のアーティストやリスナーとの繋がりを一層強くさせるきっかけとなった楽曲“Moiré”を、「“Moiré”の構想が浮かび上がった頃から、今日のステージを予感していた気がする」という趣旨のMCの後に演奏し、この日一番に眩い音と光のシャワーを降り注がせて、2時間弱のステージは幕を閉じた。そして――彼らのライヴでは恒例となっている、終演後に出口で配られる来場記念カードに、最後に心を持っていかれた。裏面に記された“I’ll Be Your Mirror”という、ツアーのサブタイトルにもなっているメッセージ。こ下手したら見逃してしまうほど小さな文字で、線の細いフォントで記されているところが彼ららしいが、そんな不器用なほどに奥ゆかしい表現こそが彼らの想いの強さを何より物語っているような気がして、しみじみとした感傷に浸りながら恵比寿の街を後にした。(齋藤美穂)

セットリスト
1. dogma
2. primal
3. Figure 0
4. 瓦礫の上で
5. Harem
6. Reunion with Marr
7. Slogan
8. ウユニの恋人
9. philia
10. GIFT
11. Stay Away
12. 永遠の複製
13. ニールの灰に
14. Fiedel
15. Observer effect
16. dysphoria
17. 彼岸で散る青
18. Dream of Venus
19. children
アンコール
20. ウトムヌカラ
21. Moiré
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