怒髪天 @ 日本武道館

怒髪天 @ 日本武道館 - all pics by 渡邉 一生all pics by 渡邉 一生
どこから観ても怒髪天そのものの、だからこそ最高のロックンロール・アクトだった。1984年の結成から実に30年、「あの怒髪天がついに武道館ワンマンをやるとは……」というソールドアウト満場の武道館オーディエンスの感慨は、1曲目の“酒燃料爆進曲”の怒濤のエネルギーが描き出す「まさに怒髪天だから実現できた晴れ舞台!」という強烈な充実感と高揚感によって瞬時に上書きされ、満場の日本武道館がそのまま魂のレッドゾーン振り切れっ放しのまま3時間に突入していく。結成30周年アニバーサリー・イヤーの幕開けにして、怒髪天初の日本武道館ワンマン・ライブ=『怒髪天結成30周年記念日本武道館公演“ほんと、どうもね。”』。「何のズルもしないで、ズルの仕方もわからなくて。ただただバンドやってきたら、だいたいこのくらいかかる!(笑)」と兄ぃこと増子直純は冗談めかして語っていたが、この日の武道館に鳴っていたのは、決して折れず曲がらず自らの歌とロックを鍛え上げ、天晴れなほどの強度とダイナミズムを獲得してきた増子直純/上原子友康/清水泰次/坂詰克彦の4人の足跡そのものだった。

開演前、紅白の緞帳に覆われたステージの両脇に設けられた大型ビジョンに流れていたのは、昨年9月に大阪で開催されたフェス『OTODAMA'13~音泉魂~』で行われた「“勝手に”熱湯CM『怒髪天 1・12 日本武道館』*怒髪天は出ません(泣)」の模様。グレートマエカワ&竹安堅一(フラワーカンパニーズ)/マツキタイジロウ(SCOOBIE DO)/佐藤シンイチロウ(the pillows、Theピーズ)というスペシャル編成バンドの演奏とともに、怒髪天の名曲群を奥田民生/鈴木圭介(フラカン)/TOMOVSKY/レキシ/キヨサク(MONGOL800)/コヤマシュウ(SCOOBIE DO)といった錚々たるラインナップが歌い上げ、この一世一代の大舞台を全力で宣伝し倒していた姿が、刻一刻と迫るライブの始まりへの期待感をいやが上にも煽っていく。そして……会場が暗転、左右のビジョンに「ほんと、どうもね。」の公演タイトルーーというかこれ以上ないストレートなメッセージが映し出され、割れんばかりの大歓声の中、紅白の緞帳がゆっくりと上がり、気迫あふれる4人の姿と「怒髪天」のバックドロップが見えた瞬間、場内はうおおおおっ!という歓喜の雄叫びに包まれていく。

怒髪天 @ 日本武道館
怒髪天 @ 日本武道館
「曲は30年分あるけど、体力は30年分ないからね!」という増子兄ぃの言葉通り、“濁声交響曲”“ドリーム・バイキング・ロック”など昨年リリースの最新アルバム『ドリーム・バイキングス』の収録曲、前作『Tabbey Road』からの“押忍讃歌”など最近の楽曲はもちろん、開演早々から衝動逆噴射鉄壁アンセム“酒燃料爆進曲”や“北風に吠えろ!”で客席一丸のシンガロングが噴き上がったり、“ロクでナシ”の「ROCKでない奴ァ?」「ロクデナシ!」の一大コール&レスポンスで武道館が震えたり、1stアルバム『怒髪天』のブルージーなナンバー“流れる雲のように”が(増子兄ぃ長髪時代の昔のライブ映像とともに)披露されたり……といった具合に、これまでのキャリアを高純度凝縮させたようなセットリスト。メタリックなエッジ感とロックンロールの熱量に満ちた友康さんのギター、坂さん&シミさんの躍動感のカタマリのような極太ビートのひとつひとつが、まさに武道館ジャスト・サイズと思わせるスケールで鳴り渡る、堂々のバンド・アンサンブル。そして増子兄ぃ。「ようこそ! お祭り会場・武道館へ! あまりにもすごすぎて、現実感ゼロです」と景気よくぶち上げながらも、熱気に満ちた客席を見回して「……ダメだこれ! 何やってもグッとくるわ。前見たくない!」と序盤から感極まっていた兄ぃ。隙あらばあふれそうになる涙をその渾身の絶唱で振り捨てて己のロックを燃え上がらせんとするその佇まいが、かえって観る者すべての心を激しく揺さぶっていく。そして、
増子 「(客席に背を向けて)坂さん、俺の後ろに何が見える?」
坂詰 「……人類だ!」
増子 「帰ってもらえるかな?(笑)。今、俺の後ろに見えてる人たちが、全員仲間だっつうんだから、大変だよこれ。立候補しちゃうよ?」
 ……といった凸凹MCのやりとりのひとつひとつまでもが、オーディエンスの情熱を煽る至上のスパイスとなっているのがわかる。

怒髪天 @ 日本武道館
「Don't trust over 30」的な反骨心に満ちた札幌発ハードコア・パンク・バンドとしてロック・シーンに挑んだ90年代。活動休止→再開を経て、JAPANESE R&E(リズム&演歌)を標榜しつつ、「大人のロック代表選手」として快進撃を繰り広げてきた00年代以降。逆ギレだろうがやぶれかぶれだろうが決して諦めずに拳を握りしめて立ち上がること、何よりも仲間を大事にして何を惜しむことなく手を差し伸べること——30年かけて築き上げた2つのでっかい柱が、「酒」「おっさん」「労働」といった世代的リアリティと渾然一体となって、独自の熱血祝祭ロック空間を生み出している怒髪天の音楽世界。もはや音楽と生き様の間の境界線すらなくなったタフさと、だからこそ触れる者すべての悩みも葛藤もやるせなさも受け止めてロックの彼方へぶん投げることのできる包容力が、“情熱のストレート”のタイトなサウンドや燃え盛るロック・バラード“ド真ん中節”からもリアルに伝わってきたし、「下向いた時に何が見えるか? いちばんガクンときた時、いろんなことを思い出して『もう一回やろう』って思えるものを、そこに置いとこうと思って作った曲」という紹介とともに、増子兄ぃが何度も涙を拭いながら歌い上げた“はじまりのブーツ”がひときわ切実に胸に迫った。

怒髪天 @ 日本武道館
ロックンロールmeets津軽三味線的な“GREAT NUMBER”からスカ・パンク・ナンバー“押忍讃歌”、メタル・ギターとポルカが並走するような“労働CALLING”へーーといった流れから伝わってくる、怒髪天の(特に上原子の)音楽的なキャパシティの広さ。万感の想いとともに響かせた、“あえて荒野を行く君へ”(シングル『怒』)、“サムライブルー”(V.A.『極東最前線』)、“蒼き旅烏”(『武蔵野犬式』)といった活動再開後のインディー時代の楽曲。「新しい友達も、バンドを始めた頃からの友達や仲間も観に来てくれてる。俺たち4人も、もともとは友達から始まってる。友達はね、言うまでもなく大事な人生の宝だ」と言葉を詰まらせ語りながら、満場の武道館を感激の涙で包んだ“友として”。そして、“ホトトギス”からライブは一気に絶頂へ! 《オトナはサイコー!青春続行!》で割れんばかりのシンガロングを巻き起こした“オトナノススメ”。怒髪天30年史の象徴のようなロックンロール・ナンバー“歩きつづけるかぎり”。圧巻のアクトの本編最後を飾ったのは“雪割り桜”。《雪割り桜 春を待たずに 咲き誇る魁の花》……真っ赤な顔をくしゃくしゃにして高々とマイクを掲げ、友康さん/シミさん/坂さんと満場のオーディエンスの大合唱にメロディを委ねる増子兄ぃ。力強い演奏の中、男泣きで舞台を去っていく兄ぃ。惜しみない拍手と歓声が4人に降り注いだ。

怒髪天 @ 日本武道館
熱烈なアンコールの手拍子に応えて再びオン・ステージした怒髪天。“ロックバンド・ア・ゴーゴー”“喰うために働いて 生きるために唄え!”“セバ・ナ・セバーナ”でがっつり武道館を揺らして大団円……かと思いきや、さらに鳴り止まない手拍子に応えて三たび4人が(赤ハッピ姿で)登場! 「ダメだもう。心の器からあふれとる。俺のいろいろ許容できるものから、気持ちがあふれ出とる」と増子兄ぃ。「ほんとにここまで来れたのはね、今日来てくれたみんなのおかげで。なんとか10円ずつキャッシュバックしたいぐらいだよね(笑)。そしてバッドミュージック、テイチク……俺たちの周りで支えてくれて。なんか、新しい言葉を開発して言えばいいんだろうけど、変な感じになるからね。『ありがとう』としか言えないよね」。熱い拍手が巻き起こる。

怒髪天 @ 日本武道館
ここで改めてメンバー紹介とともにひと言ずつ挨拶。「想像してたのよりも100万倍ぐらいすごい眺めで、びっくりしてます。俺たち4人、武道館……似合ってます?」と呼びかけた友康さんの「僕の夢の場所に連れてきてくれた怒髪天というバンドに本当に感謝します」という言葉が、増子兄ぃをさらに男泣きさせる。「ドラム始めてウン十年経ってますけども、本当に嬉しいです! これが現実なんだなあって、緞帳が上がった時に思いまして。これから行く道が本当に決まっちゃったなと……」と話す坂さんも感極まっている。「30年前の冬、15歳の時に、初めてライブをやりました」と続けてシミさん。「友達がちょっとだけ来てくれる小さなライブでしたけど。それから30年経って、45になって、日本武道館に立ってるっていう……バンドは楽しいよ。みんなやったほうがいいよ!」。そして、「可能性だけはある。それをね、後輩たちのバンド、そして、いくつになってもバンドやってる仲間たちに見てほしかった。『こういうことあるぞ』と。UFOやネッシーは見つかんなくても、こういうことはある!」と増子が語る。「ただひとつ、みんなに言っておきたいことはあるよ。時間かかるとさ、いろんなこと間に合わなくて。友達が死んじゃったりとか、親が死んじゃったりとか、『今日観てほしかったな』っていうことがいっぱいある。だから、なるべく早いうちに気づいて、努力したほうがいいと思うよ……俺が言うのも何だけど(笑)」。武道館が喝采に包まれていく。

怒髪天 @ 日本武道館
「そして、ここでお返しとして、みなさんに重大発表があります!」というコールとともに、坂さんのドラムロールつきで次々に告知が飛び出していく。
・3月19日、今回の武道館公演のライブDVD発売!
・30周年記念盤『紅盤』『白盤』リリース。まずは『紅盤』を4月9日リリース!
・地元・北海道での野外フリーライブ『カムバック・サーモン2014“男の遡上フェスティバル”』を札幌・国営滝野すずらん丘陵園野外特設ステージにて開催決定!
・初の全国47都道府県ツアー『怒髪天、おかげさまで30周年。47都道府県勝手にお礼参りツアー “いやあ、なんも、おかえしだって。”』を4月から10月まで開催決定!
増子 「来てくれたら、行き返す! 詰沢直樹さん、これ何返しって言うんですか?」
坂詰 「……恩返しだ!」
 隅から隅まで情熱と爆笑と感動が詰まったこの日のアクト、Wアンコールではライブ定番ナンバー“サスパズレ”が炸裂! 曲中のブレイクの際、「俺たちが武道館やったぞ。次はフラカンか? ピーズか? コレクターズか? トモフか? SAか? やれよ! 俺に恩返しさせろ! 1年間宣伝さしてくれ! やったほうがいいよ、最高だから! バンド最高だあ!」と灼熱のメッセージをぶち上げていた増子兄ぃ。最後は“ニッポン・ワッショイ”のオケをバックに浴衣ダンサー&onちゃん(HTB=北海道テレビのマスコット)とともに踊り歌い、《フジヤマに陽が昇る!》を♪武道館に陽が昇る!にアレンジして、フィナーレの場面を鮮やかに彩ってみせた怒髪天。「このメンバーとやることが楽しくて、ただやってきたから。これからもずっと、バンドでどのぐらいまで持つのか、やってみようかなと思ってるので」……そんな増子直純48歳のシンプルな言葉からも、「その先」への溌剌とした決意が滲む。怒髪天アニバーサリー・イヤー開幕の号砲を最高の形で撃ち上げてみせた、熱い一夜だった。(高橋智樹)
怒髪天 @ 日本武道館

セットリスト
01.酒燃料爆進曲
02.北風に吠えろ!
03.濁声交響曲
04.ロクでナシ
05.どっかんマーチ
06.情熱のストレート
07.はじまりのブーツ
08.ドリーム・バイキング・ロック
09.ド真ん中節
10.GREAT NUMBER
11.押忍讃歌
12.労働CALLING
13.流れる雲のように
14.あえて荒野をゆく君へ
15.サムライブルー
16.蒼き旅烏
17.友として
18.ホトトギス
19.団地でDAN!RAN!
20.オトナノススメ
21.歩きつづけるかぎり
22,雪割り桜

Encore 1
23,ロックバンド・ア・ゴーゴー
24.喰うために働いて 生きるために唄え!
25.セバ・ナ・セバーナ

Encore 2
26.サスパズレ
27.ニッポン・ワッショイ
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