女王蜂 @ SHIBUYA-AX

女王蜂 @ SHIBUYA-AX - all pics by 中野修也all pics by 中野修也
開演前、数十センチだけ幕が開いたステージの上に、白いマネキンがポツンと置かれていた。それはまさに、1年前の女王蜂の最後のステージのラストとまったく同じ光景だった。2013年2月22日、あの日同じくSHIBUYA-AXで行われた女王蜂の活動休止前最後のステージは、すべての音が鳴り止んだアンコールのラスト、無人のステージにこのマネキンが置かれて終わったのだ。まるであの日の「終わり」から物語を再起動させるように、1年間の女王蜂の空白が、空白なんかじゃなくて今に地続きな準備の季節であったことを告げるように、再生・女王蜂の覚悟がひしひしと伝わってくるオープニングの光景だったのだ。

「白兵戦」からジャスト1年、「白熱戦」と題された女王蜂の復活ライヴは、彼女たちが「完全体への変貌を遂げた」と声明文で宣言したように、まさに完全無欠の女王蜂の再誕のステージとなった。なにしろ1年ものブランクがあったのだ。普通のバンドなら間合いを計り、少しずつ現場の感覚を取り戻していくウォーミングアップやリハビリような助走が数曲あってもおかしくないライヴだ。でも、もちろん女王蜂はそんなものは必要としていなかった。幕が開いた瞬間に完全体、そうでなければ彼女たちはステージに戻ってこなかったはずだし、100%、120%の女王蜂として「生きる」確信と覚悟が整ったからこそ今日この日のステージだったのだろう。

女王蜂 @ SHIBUYA-AX
だから、この日の女王蜂のステージは完璧に醒めていた。復活ライヴの感涙のセンチメントはとりあえず横に置いておいて、「新曲!」とアヴちゃんが叫ぶといきなりの新曲“緊急事態”が始まった。ステージはドラムスを中心にベースとギター、2台のシンセが美しくシンメトリーを成す配置で、幾重にもドレープが垂れた白いカーテンといい、1年前のAXのステージをほぼ踏襲した形だったと言っていい。ひとつ異なるのは昨年は純白だったステージの彼女たちの衣装が赤に変わっていたことだ。ちなみにこの日のドレスコードは白だったので、純白の会場に深紅の5人がむちゃくちゃ映える。後半のMCでアヴちゃんは「私たちだけ赤くて日の丸弁当みたい」と言っていたけれど、このオープニングの“緊急事態”と共に弾けた彼女たちの躍動は、深紅の衣装とあいまってまるで凍てついた氷河に点った炎のようにも、青白い身体に駆け廻り始めた血潮のように見えてくる。シンフォニックなシンセが全編にフィーチャーされた新機軸のナンバーで、キーボード2人体制後の女王蜂を象徴する新曲と言えるのではないか。

女王蜂 @ SHIBUYA-AX
「戦闘開始します」とアヴちゃんがさらに宣言して始まった“Ψ”からの数曲はノンストップ&シームレスなアンサンブルを畳みかけるジャム感の強い展開で、キーボード2人体制によって女王蜂の楽曲のライヴでの自由度が格段にアップしたのを感じる。“ストロベリヰ”ではアヴちゃんとルリちゃんが声量を競い合うようにユニゾンで歌うなど、演奏以外のヴォーカル面でもバンドの一体感が強まっている。中盤の“鬼百合”のファンク・ヴァージョンは「兄ちゃんいいとこ見せてんか?」とアヴちゃん、そしてそんなアヴちゃんの煽りに応えるようにワウ・ギターをねっとりびりびりと弾きまくるギターが格好良すぎる! “鬼百合”をファンクで演奏するのは以前からやっている試みだが、今回のヴァージョンは特にタイトでしなやか、振り下ろされる鞭のようにセクシーな音でドキドキする。“火の鳥”はそんなファンクの流れに乗ってインストで始まり、その間にお色直しを済ませたアヴちゃん(2着目は蛍光ピンクのシースルーのミニワンピ)が「ただいまー!」と戻ってくる。

女王蜂 @ SHIBUYA-AX
「90年代初頭、バブルが弾けた。贅沢な物たちが……と言ってもその時代私はまだ生まれてなかったけど。若さはアピールしないと伝わらへん(笑)!この1年で学んだの」とアヴちゃんがファンを笑わせて始まった“バブル”からの数曲は、ちょっと芝居がかったこれまた女王蜂らしいセクションだ。ダンサーが加わっての羽根扇子を振りまくるダンス・パートや、コール&レスポンスを挟み、アングラ芝居小屋みたいなムードを醸成しながらショウは佳境へ突入していく。ちなみに“80年代”のイントロのシンセがまるでエレクトロ(!)みたいなアレンジになっていて驚いてしまった。本当に、女王蜂のナンバーは私が思っているよりもずっと自由で可能性がある。

そして一転、静寂の中で始まったのが“燃える海”だ。椅子に腰かけ、囁くように、一言一言噛みしめるようにアヴちゃんは歌う。「あなたがいなくなっても私は生きていく」と歌われるこの曲は、女王蜂とアヴちゃんのその時々のモード、精神状態が歌にはっきり直反映されるナンバーだ。愛する者を失って、それでも生きていく人生を絶望ととらえるのか。諦念とするのか。それとも、希望として差し出すのか――少し微笑みながら歌ったアヴちゃん、聖歌のように鳴った“燃える海”に、彼女たちの選んだ「希望」はあったように思う。

女王蜂 @ SHIBUYA-AX
アヴちゃんの履いていたピンヒールが壊れるというアクシデントを挟みつつ(ヒールを脱ぎ捨て裸足で数曲歌うアヴちゃん、それでもとんでもなく美脚!!)、いよいよショウはクライマックスに突入する。「ありがとう。ほんとうに、1年間ずっと待っていてくれてありがとう。ありがとうしか言葉が見つからへんから……次のこの曲には、私たちが1年間歌いたかったことが全部つまってます」。と言って始まったのが“鉄壁”だった。「生きていくこと 死が待つことは 何よりも素晴らしいこと 誰にも奪わせないで」「あたしが愛した全てのものに どうか不幸が訪れませんように ただひたすら祈っているの」。1年前のこの場所で文字通り未来に賭けた必死の祈りのように歌われたこのナンバーが、あれから1年を経て舞い戻った彼女たちが、ついに「答え」として鳴らした、この日の“鉄壁”はまさにそういうものだった。

女王蜂 @ SHIBUYA-AX
1年前のAX公演のアンコールは“溺れて”と“棘の海”だった。涙をぬぐいながらアヴちゃんが立ち去った後も映画のエンドロールのように演奏が続くという、センチメンタルな余韻に包まれた幕切れだった。それを思い返すと、“デスコ”で始まり“告げ口”で終わったこの日のアンコールが1年前とは全く真逆のモードだったことがわかる。そう、この日の女王蜂のアンコールはまるでオープニングみたいだったのだ。生き生きと、ギラギラと、どこまでも超発的で、強い。後で自分の感想ノートを観返したら「溌剌!」とかメモってあって思わず二度見してしまったが、とにかく喜びと興奮に震える彼女たちの勢いが何より眩しいフィナーレだった。

女王蜂 @ SHIBUYA-AX
「いろいろやってみたけれど。やっぱりバンドは女王蜂だって思う。私たちはこれまでAXで3回ワンマンやらせてもらってるんだけど、そのすべてが大きな意味があるステージだった。1回目はギギちゃんが辞めるって時で。2回目は(活動休止前の)白兵戦で、そしてこの……何かあるたびに全部この場所でやらせてもらってきた――これからもぶっちぎっていくので、ついてきて!」。ふっきれた笑顔でアヴちゃんはそう言った。女王蜂の復活、もちろんメモラブルな一夜だったことは間違いない。でもその場に立ちすくんで感傷に浸るよりも何よりも、再び女王蜂を追いかけていきたいと、そのスピードと熱を決意させられる一夜だった。(粉川しの)
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