【コラム】ぐるたみんに直撃してみた!ーーバンドサウンドに辿り着いた必然性を探る
2016.04.29 20:50
洋邦問わず、これだけ何十年もの長きにわたってバンドが次々に生まれロックの名曲を鳴らし続けるのは、それだけ「ロック」な楽曲と、それを体現する熱量に満ちた「バンドサウンド」という手法が、時代を越えて強烈な誘引力を発揮し続けるからに他ならない。が、そんな「ロック」と「バンドサウンド」のロマンに胸を焦がし、無我夢中で手を伸ばすのは、「ロックバンド」ないしは「バンドシーン出身者」だけの特権や専売特許では決してない――ということを、4月20日にリリースされたぐるたみんの最新シングル『GIANT KILLING』のドライヴ感が歴然と物語っている。
ぐるたみん“GIANT KILLING”
当初は動画サイトのカバー企画「うるおぼえで歌ってみた」シリーズで熱烈な支持を集め、「動画総再生回数1億越え」「ネット発のヴォーカリストとしては初のゴールドディスク認定」など、ネットシーンの「歌い手」界屈指の金字塔を打ち立ててきたぐるたみん。今回の『GIANT KILLING』は、元JUDY AND MARYの恩田快人をエグゼクティヴプロデューサーに迎えた新レーベル=「UNIVERSAL-W」からのデビュー作であり、恩田は表題曲“GIANT KILLING”のレコーディングでベースの演奏を担当している(上記のミュージックビデオにも参加)ということも、この楽曲の「バンド感」には少なからず影響してはいる。が、今作の躍動感を最も強烈に牽引しているのは、ぐるたみん自身の楽曲と言葉、何よりそのエモーショナルな熱唱である。
とはいえ、彼自身は今までバンドを結成したことはないという。『ROCKIN'ON JAPAN』5月号掲載のインタヴューの中で、彼はバンドというフォーマットへの距離感を以下のように語っていた(文字数の関係上誌面では割愛)。
「うちの父親がピアノを弾くんですけど、それがジャズなんですよ。年に1回くらい、自分たちのバンドでジャズのライヴをやるんですけど、それを3歳児とかの頃から観させられてるんですけど、超つまんないんですよ (笑)。それがトラウマなのか、あまりバンドが好きじゃなかったんですよね。子供の頃からテレビも制限されてて、ロックバンドもあまり見てなくて。だからバンドに憧れがなくて……それで、小学校ぐらいの頃からずっとピアノを弾いて作曲をやっていて」
「それが、中学〜高校ぐらいからどんどんバンドが好きになって。曲もそういう系になったらいいなっていう感じで作ってたんですよ。でも、『バンドやろうぜ!』って人を集めて何かしようっていう感じでもなかったし。あとは、一緒にやりたいっていうメンバーがいなかったっていうのはありますね。ギター超上手い!っていう人に出会ったこともないし」
その後、専門学校を経て作曲事務所に入るものの、「全然うまくいかなくて、辞めようと思ったんですよ、音楽を。『このままやっててもしょうがない』」と思っていた彼に初めて熱い評価が贈られたのが、曖昧な歌詞や鼻歌混じりのボカロ曲カバーシリーズ「うるおぼえで歌ってみた」シリーズだった。そして、ネットシーンを代表する歌い手=ぐるたみんとして注目を集めた彼を「ボカロ曲の歌い手」から「自身の詞曲を歌うリアル世界の表現者」へと駆り立てたのは、まさに彼の歌を求めてきたファンの存在だった。
「応援してくれる人がどんどん増えていって、すごくそれが有り難くて。『求められるって、こんなに嬉しいことなのか!』って。『支えてくれたファンの人たちに、いつか恩返しをしたいな』と思って。その後、ライヴに出るようになったんですよ、求められるから。でも、東京でやると地方の人が来れなかったり、『北海道でやってるのに、なんで青森に来てくれないんですか?』とかいう声があって。だから、みんなが満足して帰れるような大きなイベントを一回やろうと思って、『夢は武道館』って言ってやり始めたんです。でも、そのシーンだとやっぱり、『歌ってみた』でカバーで、ってなると難しいなと思って。じゃあ、オリジナルをもう一回作ろうと。自分の声と自分の歌で、自分の音楽を突き詰めたら、いけるんじゃないかなって」
衝動炸裂感そのもののぐるたみんのエモーショナルな楽曲とヴォーカリゼーションは同時に、「俺の歌い方はイ行がすごく抜けるんで、《GIANT KILLING》と《今熱(いき)り》とイ段で韻を踏んで強調する作り方もできる」といったプロデューサー的視点から緻密に研ぎ澄まされたものでもある。ロックやバンドとは異なる場所から、彼はジャンルやスタイルを求めた結果ではなく、自分の歌と音楽の核心を追求した果ての必然として、ロックとバンドサウンドの疾走感へと辿り着いた、ということだ。
ちなみに、『GIANT KILLING』のリリースに先駆けて、ぐるたみんは自身作詞作曲のカップリング曲“飛行少女と僕”の初音ミクヴァージョンを公開、併せて彼自身のコメントを発表している。《ぐるたみんを多くの人に知ってもらうきっかけ、そしてみんなに出会わせてくれたのが、ボカロPが作って初音ミクやボカロ達が歌ってきた楽曲達であり、このシーンでした。今こうして自分の思う活動をできていることに感謝しています。なので、今回その感謝を形にするために、恩返しという意味を込め、初めて初音ミクを使ってみました。このヴァージョンはシングルには収録されませんが、皆さんに楽しんで頂けると嬉しいです》――「歌い手」として受けた恩恵に、自らの世界観を結晶させた楽曲で応えながら、さらなる「その先」を目指そうとする意志が窺える。
【もしも空が飛べたなら】飛行少女と僕【初音ミク】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm28481875
自分の背中を押してくれるリスナーへの感謝をこめた“GIANT KILLING”について、「今回『第2章』って僕は言ってて。今度からはオリジナルでやっていくっていうことで、意味合い的には新しいシーンの開拓みたいな――GIANT KILLINGって『大金星』とか『下克上』っていう意味なんですけど、そういう意味合いが含まれてます」と語っていたぐるたみん。その果てしない冒険の行方が、今から楽しみで仕方がない。(高橋智樹)