本日7月5日にリリースされたスピッツのシングルコレクションアルバム『CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-』に収録されている、新曲“歌ウサギ”と“1987→”。すでに別の項で詳述した“1987→”に続いて、 “歌ウサギ”について触れていきたい。
《こんな気持ちを抱えたまんまでも何故か僕たちは/ウサギみたいに弾んで》という、聴く者の蒼さと寂しさに瞬時に共鳴するようなフレーズを、草野マサムネはアップダウンを抑えた、というかほぼドレミで言うところの「ソ」の音の上でリズムを刻むようなAメロの旋律に重ねてみせる。
そして、続く《例外ばっかの道で不安げに固まった夜が》まで続いた「ソ」の魔法が《鮮やかに明けそうで》の部分で解けたところで、《今歌うのさ ひどく無様だけど/輝いたのは 清々しい堕落 君と繋いだから》と伸びやかに広がるサビのメロディで、僕らを一気に眩い陽光の中へ導いていく。
“ビギナー”、“みなと”などにも通じる、スロウミドルなテンポながらタイトなビートを感じさせる“歌ウサギ”。清冽なアンサンブルと渾然一体となって、マサムネのメロディは胸のすくような飛翔力を獲得して、そのヴィヴィッドな歌詞のひとつひとつを僕らのもとへ届けてくる。
そして――この楽曲の後半、マサムネは次のように歌っている。
《「何かを探して何処かへ行こう」とか/そんなどうでもいい歌ではなく/君の耳たぶに触れた感動だけを歌い続ける》
スピッツ自身による、これ以上ないほど明快な「スピッツの存在証明」の宣誓。かつて《誰も触われない 二人だけの国》(“ロビンソン”)という言葉で歌われた「今この瞬間のリアルとファンタジー」に、己のクリエイティヴィティを懸けて挑み続ける冒険精神が、30周年アニバーサリーのタイミングで改めて涼やかに、揺るぎなく掲げられていることに、胸震えずにいられない。そんな曲だ。(高橋智樹)